張れないCETP阻害剤

H23.10/30

新薬開発は博打であるが、なかなかCETP阻害剤には掛け金を張れない。
ダルセトラピブは、トルセトラピブと違い、血圧の上昇などは示さないという報告があったが、長期大規模試験の結果は先が見通せない。
HDLコレステロールを増やす事そのものが、本当に利益なのか?掴めていない以上、HDLコレステロールが3割増えても、その事実を代替エンドポイントにして新薬を承認できないからだ。脂質降下薬の目的は動脈硬化性疾患とそれによる死亡者を減らす事にあるからだ。でも、その検証をする為の予算を組むだけの実績の瀬踏みは難しい。
代替エンドポイントとして、PETで血管の炎症をみたり、MRIで動脈硬化の進行を把握するdal-PLAQUEの結果がランセットに掲載された(The Lancet, Vol.378, Issue 9802, P.1547, 29 October 2011)。動脈硬化巣が約4立方ミリメートル減少し、PETによるtarget-to-background ratio (TBR) が減少傾向をしめした。しかし、はっきりとした病理学的違いは示し得なかった。


引き上げに失敗する

H23.5/30

CETP阻害薬は未だ市場に現れず、スタチンを上回る薬は見えてこない。
ナイアシン(ニコチン酸・ビタミンB3)はスタチン以前の数少ない脂質降下薬であった。スタチンと併用した場合どうなるか調べる試験としてAim-Highが行われていたが中止となった。米国の循環器呼吸器研究機関のNHLBIが5/26に報じた所によると、4/25に開かれた安全性検証委員会で中止が勧告されたとの事である。

During the 32-month follow-up period, there were 28 strokes (1.6 percent) reported during the trial among participants taking high dose, extended-release niacin versus 12 strokes (0.7 percent) reported in the control group. NHBLI 2011-05-26FDA

そもそも、脂質を下げる事での脳卒中の予防は不明瞭である。出血性脳血管疾患は低脂血症で増える。血管から塞栓が飛ぶ脳梗塞は減るかもしれないし、心原性の塞栓子も冠動脈疾患の予防と言うクッションを置けば減るかもしれない。しかし、細小動脈の硝子化に高脂血症の関与は少なく、一義的に降圧療法に拠る所が大きい。
それを中立的であったというならまだしも、増やしてしまっては元も子もない。特に多少脳血管障害が多くても冠動脈疾患が三分の一四分の一に減れば元が取れる白人ならまだしも、脳血管事故の方が心血管事故より多い黄色人種や黒色人種では、百害あって一利無しに陥ってしまう。

HDLを増やす方向での薬物治療は、これで2回失敗した。

またビタミン剤で健康をという検討もHPS同様、巧く行かないようである。


引き抜きに失敗する

H18.12/4

メタボリック症候群の診断の一つにdyslipidemiaがある。高中性脂肪血症か、 低HDLコレステロール血症である。リポ蛋白の 一つで、Apo A-Iを主体として脂質を運ぶのがHDL。これは主に末梢の脂質を回収して肝臓に送り返す役割を果たす。回収が遅れるとその分血管などにコレステロールが 沈着すると動脈硬化が進むとされている。しかし、例外はあるHDLコレステロールが低くなってもプロブコールは動脈硬化疾患の治療に結びつき、ApoA- IミラノはHDLコレステロール低値だが抗動脈硬化作用を有する。HDLが高回転でコレステロールを回収し、血中で渋滞したような高値の状態を維持するこ となく過ごしているからである。
HDLの代謝に関与するCETPを阻害すると見た目、HDLの値が増える。
しかし、それが良いことなのか悪いことなのか判らない。長寿の遺伝子としてCETP欠損がもてはやされた事もあるが否定的な報告もある。
CETP阻害薬としては日本たばこのJTT-705[pdf] やファイザーのトルセトラピブ(torcetrapib) がある。有効性を期待されてHMG-CoA還元酵素阻害薬のアトロバスタチン(リピトール)との併用を検討して進めたれたトルセトラピブの第3相試験が中 止となった。併用群で死亡(mortality 併用群82例/7500名 対 プラセボ群51例/7500名)が増えたのであるFDA(3Dec2006) 。なかなか上手くはいかないものである。
収縮期圧の上昇が伝えられており、心血管事故の不均衡がみられている。これがCETP阻害薬のクラスエフェクトか否か、類薬での報告が待たれる。


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