油を搾る

2006-04-21

水に油は溶けないので中性脂肪やコレステロールはリポ蛋白という形で血液やリンパ液を行き交う。出発地から行き先別に主に4つのリポ蛋白があるが、それぞれのリポ蛋白にサブクラス(さらに細かい分類)が用意されている。

ロジスティックが巧く行く体では問題は生じない。

でも、トラック便が渋滞に巻き込まれたり、
フォークリフトが無くて荷下ろし荷積みできなかったら?
積み荷は時間で傷んでしまう。在庫が倉庫に溜まる。

同じことが動脈硬化をおこした血管の粥腫(コレステロールや脂が溜まったニキビのような物)で毎日繰り広げられている。

米国心臓病学会(AHA)のCirculation 3/28号(Vol113(No.12) p1556 Otvosら)に、このサブクラスの割合を是正することが、フィブラートという薬が動脈硬化を抑制する仕組みの上で、大変重要であるという論文が掲載されている。

LDLは血管壁のLPLという酵素によりVLDLから中性脂肪をおろし、CETPという酵素によって、HDLとの間で中性脂肪を渡しコレステロールエステルを受け取りながら、成熟していく。脂質の入れ替えが巧く行かないと中性脂肪の多いsmall dense LDLになる。LDLが肝臓に取り込まれる。そしてコレステロールを処分してもらうためにはLPLやCETPの働きを得て適正な荷電状態になる必要がある、十分絞られないとsmall dense LDLという状態に陥って、肝臓のLDL受容体に結合できず、うっ滞したまま、酸化変性を受けて、スカベンジャー受容体というゴミ収集機能に取り込まれていく。そして粥腫に沈着していく。

NMRという磁石と電波を使った測定器でLDLの粒子を分析することができる。OtvosはVA-HITという治験で得られた血液サンプルを用いてLDLとHDLの大きさを調べた。Gemfibrozil(本邦未発売)を投与されるとLDLの粒子数が減り、粒子径が大きくなっていた。一方でHDL粒子数は増え、小さなHDLが占める割合が増えていた(平均のHDL粒子径は差が無かった)。

Gemgibrozil投与によるリポ蛋白の変化 n=515
項目投与前投与後
LDLコレステロールmg/dl111.7±22.1114.7±25.9
LDL粒子数nmol/L*1352±3161290±331
LDL径nm*20.4±0.820.9±0.7
HDLコレステロールmg/dl*31.5±5.533.4±6.7
HDL粒子数nmol/L**25.1±4.627.6±5.0
HDL径nm8.5±0.38.4±0.3

* p<0.0001, **p=0.0005, LDLコレステロールとHDL粒子径は、差が無い。

フィブラートLPLの働きを助けてLDL粒子を小さくする、ドンドン運ばれれば、ドンドン古く饐える前に代謝される。末梢から余ったコレステロールを回収して回るHDLも、大きさが小さいHDL3はどんどんLDLから中性脂肪を引き抜き、small dense LDLの数を減らす一方で、大きなHDL2に成長して肝臓に戻ります。肝臓の類洞にあるHTGLという酵素に中性脂肪を肝臓に回収してもらい、またHDL3に賦活化して、再度末梢へコレステロールの回収に出向きます。あるいはHDL2が肝臓の表面にあるSRB1という受容体で肝臓に再吸収される形で、末梢の余ったコレステロールを肝臓に戻し、胆汁に排泄したり、必要な物質の合成に振り向けられます。こういった新陳代謝の適正化が、LDLコレステロールという日常の臨床で測られている検査値では判らないのですが、NMRで理解できるようになり、フィブラートという薬の有益性も把握されるようになりました。


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