2つのフィブラート系治験

H17.11/30

Peroxisome proliferator activated receptorはPPARとよばれる核内受容体でαはLPL発現を介して中性脂肪を下げ、γはインスリン抵抗性を改善する事で糖尿病の治療に役立つとされている。 相互にクロストークがあり、αもインスリン抵抗性を改善し(低血糖という副作用を起こす事もある)、γも中性脂肪値を下げ脂肪細胞を小型化する。

PPARαを刺激する薬をfibrates(フィブラート )とよび多くの薬が特許切れになるくらい古い歴史を持っている。逆に言うと製薬会社がプロモーションとして販売に腰を入れていなかったので大規模臨床試験がなく。中規模の幾つかの試験で良い成績を示した事から、特に冠疾患の危険因子が集積した状態、メタボリック症候群において、予防に役立つのではないかとされて来た。特にsmall dense LDLなどの悪玉をへらす効能が強い(油を搾る)。

今までのフィブラート系治験:Helsinki Heart Study, BECAIT, BIP, SCENDCAP, DAIS, VA-HIT

昨今の治験のトレンドはプラセボを置くのではなく、実薬をコントロールとする。なぜならば、血圧や脂質を改善する事に意義があるか?否か?という問題には解が示されているためである。無加療のままではそこで生じる心血管事故を放置したのといっしょで人倫にもおとるとされるのである。
今までのフィブラート系治験が行われた時代には脂質降下療法の価値そのものを探索した時代であったので対象薬は置かれていない。


FIELD[Lancet vol.366 p1849]は豪州の研究者を中心に糖尿病があり低HDL血症か中程度の高中性脂肪血症をもつ患者にfenofibrate(リピディル™)を投与した試験である。科研薬品の報道資料[pdf]

しかし、21世紀になりFIELDが発表されるころにはWOSCOPをはじめとするHMG-CoA還元酵素阻害剤(statin)の有用性が十二分に示された後なので、そうも云っておれず、対象の17%と介入群の8%でstatinが使用された。結果、心血管イベント全体と再潅流療法、非致死性心筋梗塞では有用であったにせよ。冠疾患による死亡、冠疾患イベントという1次評価項目で差がでなかった。同じような「事件」はHMG-CoA還元酵素阻害薬と降圧剤の併用を検討したALLHATでも起こった。対象の筈なのにstatinが処方された例が続出し、差がつかなかったのである。ALLHATとちがいfibratesとstatinという薬剤の違いによる検討が可能であるのだが、FIELDの結果「HMG-CoA還元酵素阻害薬で十分でないか?」という落ちがついてしまった。

2次評価項目としては副効能というと言い過ぎだが、光凝固療法を要する網膜症が少なくて済み[253例 vs 178例, 1.6%減少 p=0.0003]、微量アルブミン尿が減っていた。
でも、PAI-Iを下げ凝固系を良くするという評判のはずのfenofibratesで肺梗塞が増え[32例vs 53例、p=0.022]、中性脂肪低下で減少してくれる筈の膵炎が増えていた[23 vs 40, p=0.031]。

fenofibrateが
微量アルブミン尿に与えた影響
微量アルブミン対象fenofibrates
増加539(11%)466(10%)
減少400(8%)462(9%)

dual-PPAR agonistとして最初に治験に臨んでいたMuraglitazarが心血管イベントの増加を理由に治験中止となった[JAMA.vol.294:p2581]PPARγ単独に作用するピオグリタゾンを投与された群[pio]と Muraglitazar[mur]を比べると…

Pioglitazone vs Muraglitazor
比較死亡+心筋梗塞+脳卒中死亡+心筋梗塞+脳卒中
+心不全+一過性脳虚血発作
pio1351例9(0.67%)11(0.81%)
mur2374例35(1.47%)50(2.11%)

完敗である。

決してpioglitazonが悪い薬とは言わないが心血管イベントを抑える治験PROactiveで心不全で入院が必要であった例が50例強上回った。動脈硬化によるイベントは抑えたので「その点は」PPARγ刺激に不利益はないはずである。しかし、二重刺激剤が不利益ならば、FIELDの結果と合わせて、PPARαとγの併用はしばらく注意が必要であろう。

[][PPARγ & bone]


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