サプリメントと有効性

日本通運健康保険組合 健保だより2007年5月号
2007-05-17

 生活習慣病になるとついつい薦められるのがサプリメントや健康補助食品です。しかし、本当の所利き目はあるのでしょうか。
 ビタミンAやβカロチンは皮膚の成長を促す働きがあるとされています。欠乏すると、夜間の視力が衰えます。しかし、皮膚など上皮の成長を促す働きが思わぬ作用を来すことがあります。
 腫瘍のなかで上皮由来のものを特別に「がん」と呼びます。喫煙者の多い男性では、十数人に一人は肺癌で死亡します(平成16年の男子557,161名中43,910名が肺癌死)。
 そこで幾つかの研究でβカロチンを喫煙者に与えてみました。しかし、癌の死亡者が増えてしまいました。
 タバコによる酸化を打ち消してくれるのではなかろうかと色々なビタミン剤の投与を試みた研究がありましたが、CARETのように肺癌をエンドポイントとした検討で肺癌を44%増加させた研究が出てきてしまい、サプリメントの効果に疑問が呈されるようになりました。また、前立腺癌も増えるようです。
 先程述べたように癌は上皮ですから、上皮の成長を助ける成分が入ると癌も一緒に成長してしまうのです。
 心筋梗塞や脳梗塞、動脈硬化が原因でおきることが知られています。血液を流れる脂肪の一つLDLが多いと血管の壁に粥腫と言って、ニキビの様な脂肪の固まりが出来ます。室温で置いておいたラードを舐めようとは思われないように、血管の壁で沈着したコレステロールは酸化変性していきます。
 ここで、酸化を防ぐ添加物を与えれば良い働きをしてくれるのではないかと言う仮説を思い付くのはもっともな事と思われます。
 コレステロールなどを運ぶリポ蛋白で働く抗酸化物質のビタミンEは、げっ歯類の精子形成の減少・不妊で見つけられました。処方されているのは末梢循環不全の改善です。毛細血管が開きますのでシモヤケなどの症状がとれるので、ビタミンEが投与されます。
 さて、ビタミンEを投与しても、動脈硬化は投与していない群と差が見られませんでした。それどころかHOPE-TOO試験では高用量のビタミンE(400単位≒260mg)をとる群では死亡こそ増えなかったものの浮腫や息切れのある心不全が13%増えてしまったのです。
 なお、ビタミンEの仲間の内のαトコフェロールの1日所要量は成人男子で8mg/日です。人で不足すると末梢神経麻痺などを来しますが、これはビタミンEを代謝するのに必要な遺伝子の欠損でもないと仲々観察されない症状でもあります。
 ビタミン類は、食べ物聞き取り調査で十分とっている場合や血中濃度の高い場合では、健康を維持していくのに役に立つと言う研究はあります。しかし、脚気や壊血病のように欠乏症状がないのに補充して役に立たないようです。これらの投与試験の研究から汲み取れるのはなんでしょうか。それは、足らないものをカプセルや錠剤で補う程、今の栄養状態が悪いわけではないと言うことです。高脂血症なら脂溶性ビタミンも食事から沢山入ってきます。
 例えが悪いですが、「在庫が沢山あって代謝が賞味期限内に片付かない脂が、酸化して悪さをしているのを、抗酸化物質と言う添加剤で賞味期限を誤魔化そうとしても、そうは問屋が卸さない。」そういう事でもあります。
 ビタミンなどの抗酸化物質はどの様に働くのでしょう。脂は水に解けないので、血液ではリポ蛋白という小さな玉になっています。その中にビタミンEが溶けていますが、中のコレステロールが酸化しているのを、還元してあげます。しかし、その過程でビタミンE自体は酸化してしまいます。ビタミンEは表面に移り、今度は血液のビタミンCなどに還元してもらい元通りのビタミンEになります、今度は酸化したビタミンCが主に尿から排泄されていきます。一つのビタミンを薬と言う形で突出してとるのではなく、食事から少しづつ沢山の種類のビタミンをとることが大切です。  動脈硬化を起こすLDLというリポ蛋白の内、超悪玉とされるのが酸化LDLです。ここで、ビタミンEをつかっても酸化LDLはLDLには戻りません。酸化LDLはただ酸化しているだけではなく、もとのLDLの立体構造が崩れ断片化した状態であり、なかの酸化したコレステロールを元に戻すだけの力しかないビタミンEには修復できません。酸化LDLは肝臓などに取り込まれにくい中性脂肪が多めのsmall dense LDLが血液で長時間渋滞を起こす事で生じやすくなります。中性脂肪を下げて代謝しやすい状態で渋滞を防ぐ方が、鮮度が保たれ酸化しにくいのです。高血糖の時に生じる糖化LDLも酸化LDLになりやすいと言われています。糖化ヘモグロビン(HbA1c)が糖尿の検査で知られていますが、ヘモグロビンだけが特異的に糖化する訳ではなく、リポ蛋白も糖化し、変性するのです。
 過剰なコレステロールの在庫を抱えて、酸化させないようにサプリメントに頼るよりも、適時必要な種類の脂肪が適切な量だけある状態、つまり脂肪を正常値に保つことが、動脈硬化の予防には、確実で理に適った方法なのです。
 サプリメントに頼りたい気持ちの時は、心も弱っています。それに付け込み、広告で謳っている以外の成分を忍び込ませ、利き目を実感させようという商売もいろいろあります。
 血糖が高い、医者からインスリンを薦められている、しかし、飲み薬も億劫だという人が、通信販売で手に入れた漢方の中に、実は医者から処方されているインスリン分泌を促すSU薬が入っていて、医者の処方とあわせて2倍の量を呑み、低血糖に陥った事例もあります。「健康補助食品」には、勃起不全改善薬やステロイドなどの含有例が知られています。詳しくは、国立健康・栄養研究所の以下のインターネットサイトhttp://hfnet.nih.go.jp/で紹介されています。
 一方で、病院への通院の手間を省くために、西洋薬のインターネット通販を利用しているつもりが、必要な成分の入っていない偽薬であったという被害報告も知られています。
豪AGE紙日曜版に男性ホルモンで性機能を回復させ喜んでいた女性が肺梗塞に倒れ後悔する話が出ていた。NHRT(自然ホルモン補充療法)といったものでもただのハーブではなくて人体に通常ある物質と云うだけで「副作用」がない体に優しいと云う意味ではない。サプリメントや健康食品の選択にも留意が必要である。


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