10年前21世紀初頭の話です。最新の知識は得られ無い。

84.リポ蛋白分画; medicina 42(11), 2005年増刊
「これだけは知っておきたい検査のポイント(第七集)

異常値の出るメカニズムと臨床的意義

 脂肪は水に溶けないのでコレステロールは蛋白質に結合して運ばれる。この複合体がリポ蛋白である。高脂血症は、I, IIa, IIb, III, IV, V型に大きく分類される。


表1:高脂血症WHO分類

I型 カイロミクロン
II型 LDL[IIa], LDL+VLDL[IIb]
III型 βVLDL (レムナント)
IV型 VLDL
V型 カイロミクロン+VLDL

 リポ蛋白は比重によりカイロミクロン(CM), VLDL, IDL, LDL, HDL2, HDL3に分類される(表2)。比重により分類されるだけなのでLDLであっても均一なリポ蛋白ではない。粒子径も、荷電状態も、含まれるコレステロールエステルや中性脂肪の割合も、1粒子1粒子異なる。

 インスリン作用不全などによりLPL活性が不十分になるとCMやVLDLの水解が不十分なレムナントが出現する。

また、LDL中の中性脂肪が増えるsmall dense LDL(sd-LDL)が増加する。密度勾配ゲル電気泳動法で、26-27nmのLDLが25.5nm未満に小粒子化したものをパターンB:sd-LDLと定義される。比重で分画した場合1.040~1.063のLDLに相当する。
 超遠心法(比重)や沈澱法(荷電)では一部のsdLDLがHDL分画に混在しているらしいとHPLCによるリポ蛋白分画の検討(粒子サイズ)で指摘されている。これはリポ蛋白粒子の多様性に起因すると思われる。比重や荷電と粒子サイズが一致しないので検査法によっては違う結果が生じる。ちなみにHDLリポ蛋白の粒子径は10-12.5nmで、他のリポ蛋白分画と大きく異なる。Lp(a)粒子は32.5-40nmとVLDL分画に相当する[文献2]。

 生活習慣病の治療効果判定には通常の総コレステロール、中性脂肪値、HDLコレステロール値で十分である。
 リポ蛋白分画があると望ましいのは、原発性高脂血症などの先天異常の他、レムナントの有無をMIDBANDやIDLの有無で判断する場合である。最近はRLP-C(remnant-like particle cholesterol)やsd-LDLcなどの試薬も上市されている。
 よく使われるLDLコレステロールの計算式Friedewaldの式は中性脂肪450mg/dl以上では適応し難い。また著しい高HDL血症でも使用しない方が望ましい。
 計算法では不正確になるLDL-cは直接法を用いると1000mg/dl程度の高TG血症検体でも検討可能である。
 空腹時の採血で、中性脂肪が450mg/dlまでの場合、普通含まれる中性脂肪はVLDL分画にあるものと理解される。VLDLリポ蛋白中の中性脂肪:コレステロール比は5:1なのでVLDLコレステロールはTG/5にあたると推測される。LDLc=TC-HDLc-TG/5[つまりVLDLc]となる。
 しかし、著しい中性脂肪血症の患者やレムナントが多い場合では、原則に従って超遠心法他の検査が必要になる。


表2:リポ蛋白の観察法

[1]静置  血漿を4℃で1晩静置。
上にクリーム層があればカイロミクロン
血漿が混濁していればVLDL,βVLDL増多
LDLはわずかに混濁

[2]超遠心 定義としては超遠心法による

 
略号 名称 比重
CM (カイロミクロン) <0.93
VLDL (超低比重リポ蛋白) 0.93~1.006
IDL (中間比重リポ蛋白) 1.006~1.019
LDL (低比重リポ蛋白) 1.019~1.063
HDL (高比重リポ蛋白) 1.063~1.210

リポ蛋白分画の蛋白濃度と分画に含まれる脂質(コレステロール、中性脂肪、リン脂質)の濃度が報告される。  超遠心の器機やローターにより異なるがEDTA採血した血漿にKBr, NaCl, 重水などの比重液を加え調節し, VLDL16時間,IDL18時間, LDL20時間, HDL40時間遠心する。比重の調整や遠心後の透析(脱塩)などを含め5日以上掛かり、保険適応はない。無菌操作を怠ると微生物が繁殖し、室温で放置すれば変性する(文献1)。

[3]電気泳動法

あ)ポリアクリルアミドゲル電気泳動法

      
(%) 男性 女性
HDL 22-27 27-50
LDL 46-68 44-66
VLDL 3-19 2-12

[SRL]

VLDL, LDL, HDLがパーセント(Area under the curveの比率)で示される。
泳動のパターンでレムナントリポ蛋白に相当するIDLの上昇(mid band)を定性的に判断できる。

い)アガロース電気泳動法

陽極

        
分画 内容(%)
α (HDL分画相当) 31.5〜51.5
preβ (VLDL分画相当) 2.6〜24.6
β (LDL分画相当) 36.5〜53.3

原点

陰極

[BML]

III型はpreβとβが境目無いbroadβになる
粒子の大きなCMは原点に留まり、小さなHDLは遠くに泳動される。
変性LDLも陽極側に泳動される。

う)ろ紙 Fredricksonの原法

[3]HPLC法(文献2)
リポ蛋白を保持時間により粒子径で分類しガウス近似法で解析する。
 TSKgel Lipopropak[東ソー]を使ったシステムが市販されているが、保険適応は無い。

[4]沈澱法
LDL, VLDLではデキストラン硫酸沈澱法で求められる。

   

sd LDL-cのキットでも沈澱法を使いVLDL, LDLを除去した上清で測定している。


臨床上の重要性と選択

 高脂血症の病型分類により、予後として動脈硬化症を主に考えるべきか、それ以外の疾病(膵炎など)に備えるべきかが問われる。
 また、用いる薬剤が異なる。
 高脂血症=HMG-CoA還元酵素阻害剤ではない。カイロミクロン中には約1:10の割合でコレステロールと中性脂肪が含まれる。写真はLPL(リポ蛋白リパーゼ)の欠損症患者の試験管写真である。カイロミクロンとVLDLが主であり、LDL-cは31.5mg/dlと僅かである。この様な症例ではTC309mg/dlでもHMG-CoA還元酵素阻害剤は有効ではない。
 一方で、初診時清涼飲料水ケトーシスを呈していた本例も、血糖がコントロールされた後は、膵炎食の励行で食事療法だけでTG700mg/dlまで解消していた。
 この例の様に治療法の選択にはリポ蛋白分画の測定によりWHO分類を明らかにし、それを端緒に遺伝子レベルを含めた病態の解明が必要になる場合がある。

正常異常の判断

 検査の仕方によってリポ蛋白分画比(%)が出てくる場合、分画中のコレステロールや中性脂肪・リン脂質値が出る場合と様々である。

 単に数値を見るだけではレムナントの増加を判断できない場合がある。RLP-cやsd LDL-cの試薬も発売されたが、レムナントの有無は、IDLコレステロールの測定やPAG法での泳動パターンによって判断される。
 電気泳動法でLDLのピークとVLDLのピークの距離b、HDLとVLDLのピークの距離aの比、b/a>0.4の時はsd LDLの存在が強く疑われる。会社によっては報告書にRM値やMI値として記載している(文献3)。

異常を示す疾患病態

 高カイロミクロン血症はLPL欠損症若しくはAPOC-II欠損症でおこる。膵炎を来たし、それが原因で死に至る場合があり、乳幼児や妊婦などには特別の配慮が必要となる。

 高LDL血症で最も多いのはLDL受容体欠損症=家族性高コレステロール血症である。9mm以上のアキレス腱肥厚がある。若年性虚血性心疾患を来すので、通常の高コレステロール血症よりも厳格な脂質管理を行う必要がある。厚生省の班研究では登録された家族性高コレステロール血症患者のうち男性の3分の1が虚血性心疾患を発症している(文献4

 糖尿病患者では著しい高脂血症diabetic lipemiaや単なる高脂血症ではない脂質代謝異常dyslipidemiaを併発する場合がある。

 リポ蛋白は様々な変化が生じる。高血糖では糖化LDLが生じる。
 過度の酸化ストレスを受け含まれるApoB蛋白が分断化される酸化LDLになる。
 これらの変性(修飾)LDL分画は陰性荷電が強く通常のLDLよりも陽極側に泳動される。
 変性LDLは、肝臓への取込みと異化が低下し、単球に貪食され粥腫の原因になるなど、催動脈硬化性が亢進している。

 ApoE2型の場合、VLDLがLDL受容体[ApoB/E受容体]に結合できず異化が進まない。レムナントが鬱滞し、高脂血症III型をきたす。過栄養状態による肝臓でのVLDL産生亢進による高脂血症IV型とともに、LPL活性を高めレムナントを水解させるフィブラート系薬剤が適応となる。

 高HDL血症のなかにはVLDLから中性脂肪とコレステロールエステルを交換するCETPの働きが低下した場合がある。先天的な欠損症の他に、大量の飲酒の結果活性が低下する場合もある。

 Apo蛋白異常症では低脂血症を来すばあいがある。ApoA-I変異症や短縮ApoB変異症である。アポ蛋白があっても末梢あるいは肝臓で脂質を受け渡す蛋白の欠損がある場合も低脂血症を来す。ミクロソームトリグリセリド転送蛋白(MTP)が欠損するとβリポ蛋白が合成されない(5)。

関連検査

検査費用と保険請求

文献

(1)石橋俊 脂質代謝研究法 実験医学1996年14巻12号(増刊)p1681-1685
(2)岡崎三代 臨床化学とHPLC「リポ蛋白」 臨床検査 1996年40巻12号p1281-1292
(3)三島康男、安藤 充、久山文子、石岡達司、木畑正義:簡便なPAG電気泳動キット(LipoPhor System)を用いたLDL粒子サイズの推定:LipoPrint LDL systemとの比較、動脈硬化 25(1・2), 67-70, 1997
(4)Hideaki Bujo, Kazuo Takahashi, Yasushi Saito, Takao Maruyama, Shizuya Yamashita, Yuji Matsuzawa, Shun Ishibashi, Futoshi Shionoiri, Nobuhiro Yamada and Toru Kita: “Clinical Features of Familial Hypercholesterolemia in Japan in a Database from 1996−1998 by the Research Committee of the Ministry of Health, Labour and Welfare of Japan”. Journal of Atherosclerosis and Thrombosis, Vol. 11, No. 3: 146-151, 2004
(5) Ken Ohashi, Shun Ishibashi and et al. Novel mutations in the microsomal triglyceride transfer protein gene causing abetalipoproteinemia. Journal of Lipid Research, Vol. 41, 1199-1204, August 2000.


第41回日本動脈硬化学学会:動脈硬化性疾患診療ガイドライン-残された問題-

哲学の問題:臨床で必要なLDL-Cと検査学上の正確精密なLDL-Cの乖離

2009-07-19

Beta-Quantification法はまず超遠心で比重1.006未満のVLDL分画を除去したあとのコレステロール値(BF-C : bottom fraction cholesterol)を求め、残りの分画からヘパリンマンガンによる沈殿法でLDL分画などを取り除き、残った分画のコレステロール値からHDL-Cを導き出し、BFC-HDLC=LDLCとする物である。
この方法ではLp(a)やsmall dense LDL、IDLなどVLDLレムナント由来の、動脈硬化惹起性の高い病的な変性リポ蛋白に含まれるコレステロール値も、LDL-Cとして算出される[pdf]。
しかし、LDL-C直接法の試薬では、(1)界面活性剤でLDL以外のリポ蛋白を可溶化しその中に含まれるコレステロールをコレステロールエステラーゼとコレステロールオキシダーゼで消費したあと、(2)次にLDLリポ蛋白を可溶化してその中に含まれるコレステロールを呈色法で測定する。この界面活性剤の性能によりLDL分画の中の変性リポ蛋白が(1)で可溶化されるか(2)で可溶化されるかが、メーカーの考え方などで変わってくる。
臨床検査学から見た場合は、標準物質として「正常なLDL分画に含まれるコレステロール値」が精度管理の上で再現性を保ちつつ、測れる事を旨とする。
しかし、病者の血管の中を流れるリポ蛋白は、アミノ酸レベルで変異したアポ蛋白で構成された異常リポ蛋白であったり、レムナントリポ蛋白や酸化LDLのような変性リポ蛋白であり、患者間の個体差も病状による個体内変動も多岐に渡り、標準物質として提示しにくい。結果として、正しい臨床検査学の観点からすれば、異常リポ蛋白が測定されない様な工夫が求められる。
しかし、脂質異常症を臨床医として取り扱う上では、「健康な患者LDL」の価が如何に正確に算出されようとも、目の前の患者さんの検査値が病態や病状を示す変性リポ蛋白値が内包される超遠心法などのLDL-Cから懸け離れたものなら治療の評価には不適切という事になる。利用する試薬の哲学により、大きく変わるようであるならば、ガイドラインで幾つ以下と言われても、その価が患者さんの転勤や多施設共同研究などで比較しようにも、役に立たないことも考え合わせなければならない。
メタボ検診や人間ドックなどで、健康な人を健康であると評価するには現在のLDL-C直接法試薬は有用であるが、病者を拾い上げ病気の治療を評価する上では「哲学の標準化」からはじまる多岐にわたる検討がまだ山積している。


LDL-コレステロールの直接測定法に関する日本動脈硬化学会としての見解 平成22年4月26日(月)[pdf]
1.LDL-Cの直接測定法については、今後標準化、さらなる制度管理ならびに情報の透明化を強く希望する。
2.現状ではLDL-Cは一般診療の場ではF式で求める事を基本とする。したがって食後に来院した患者については、空腹での再診を求める。
3.特定検診については、TCを測定項目に加えることを強く希望する。
4.TGが異常高値を示す場合は、リスク管理の指標として、総コレステロール値 引く HDLコレステロー値で表す、non HDLコレステロールを参考とする。

島野らはnonHDL-cの指標としてLDL-c+30を示唆していた。
JALS-ECCで日本人非介入コホート研究を検討した所
4分位の最上位で有意に心筋梗塞が増加し、そのnonHDL-cは167mg/dl以上であった。


LDLコレステロール直接測定法の精度管理

2010-07-22

Seven Direct Methods for Measuring HDL and LDL Cholesterol Compared with Ultracentrifugation Reference Measurement Procedures [Clinical Chemistry. 2010;56:977-986. ]

Results: Imprecision data based on 4 frozen serum pools showed total CVs <3.7% for HDL-C and <4.4% for LDL-C. Bias for the nondiseased group ranged from –5.4% to 4.8% for HDL-C and from –6.8% to 1.1% for LDL-C, and for the diseased group from –8.6% to 8.8% for HDL-C and from –11.8% to 4.1% for LDL-C. Total error for the nondiseased group ranged from –13.4% to 13.6% for HDL-C and from –13.3% to 13.5% for LDL-C, and for the diseased group from –19.8% to 36.3% for HDL-C and from –26.6% to 31.9% for LDL-C.
Conclusions: Six of 8 HDL-C and 5 of 8 LDL-C direct methods met the National Cholesterol Education Program total error goals for nondiseased individuals. All the methods failed to meet these goals for diseased individuals, however, because of lack of specificity toward abnormal lipoproteins.

著しい高中性脂肪血症で低HDLコレステロール血症の検体で、直接法と超遠心法の間で著しい乖離が見られた。正常な検査値の検体では合計誤差5.3〜13.5%の枠に入ったが、会社によっては高め、乃至、低めにずれ、キット間の値の再現性が望めない状態であった。
直接法が期待を集めたのは計算法の適応が難しい、TG450mg/dl以上の検体であっただけに、その検体で正確さや再現性がキット間で得られないという事はLDLコレステロール直接法の限界を示す事になる。
この論文が出た後では、多施設の疫学研究でLDLコレステロールを直接法で求めた場合、論文の査読を乗り越えられないし、患者が訪れた病院によっては治療の有無すら異なる結果になる。


[JALS-ECCとnonHDLコレステロール]



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