Heart Protection Study:ビタミン剤と動脈硬化

酸化ストレスナビゲーター:メディカルレビュー社 2005年3月15日

 低比重リポ蛋白(LDL)は肝臓のLDL受容体で再度取り込みをうける。しかし、LDLに含まれる脂質が血管内皮で酸化を受けると、リポ蛋白を構成するアポB蛋白が過酸化脂質によって断片化され変成し、酸化LDLになり、アポB受容体であるLDL受容体対する親和性を失う。
 酸化LDLは、LOX-1などでマクロファージなどに取り込まれるが、泡沫化を促し、炎症反応を引き起こす。そのうちに、粥腫が形成され、動脈硬化巣を不安定化させる。
 脂溶性ビタミンのビタミンEやβカロチンはリポ蛋白に含有されて、脂質の酸化を抑制する効果がある。水溶性ビタミンのビタミンCやポリフェノールは過酸化脂質を還元した結果として自ら酸化したビタミンEを再生させる能力があるとされている。
 動物実験では抗酸化ビタミンを投与することで粥腫の前段階である脂肪線条の形成を抑制したり、粥腫の形成を抑制するなど、動脈硬化を防止する効果が観察された。また、野菜や果物を多く摂取する程、心血管事故を起こしにくいという疫学研究の結果が示された。

 以上の結果から、動脈硬化の予防に抗酸化ビタミンが有用なのではないかと幾つかの研究が開始された。その中の一つが英国で行われたHeart Protection Study(HPS ; http://www.ctsu.ox.ac.uk/~hps/)である。

 HPSの対象は既に心血管事故をおこしたことのある患者か、糖尿病など危険因子が集積して心血管事故を極めて起こしやすい状態にある患者を対象に検討した。
 総コレステロール3.5mmol/L(135mg/dl)と低い患者も含めてエントリーしており、5.0mmol/L以下の患者も4072人(19.8%)を占めている。
 プラセボだけの群、LDLコレステロールをHMG-CoA還元酵素阻害剤のsimvastain40mgで低下させる群と、マルチビタミン(ビタミンE 600mg, ビタミンC 250mgとβカロチン20mg)による抗酸化療法を行う群、simvastatinとマルチビタミンの併用、以上の2x2分割の4群で予後を5年間追跡した。

 主論文は2002年にランセットに掲載された。simvastain (Lancet vol.360: p.7-22)については今までの様々なHMG-CoA還元酵素阻害剤による検討同様に心血管事故を防止した。スタチンを中止した患者は15%でプラセボ群に掛かり付け医が試験とは関係なく開始した患者が18%いた。これらを補正して検討すると約3分の1の心血管事故の発症抑制がsimvastatinの投与によって期待される結果となった。コレステロール値や危険因子の重複によっても約3分の1の発症抑制は変わらなかった。

 一方で、マルチビタミン(Lancet vol.360: p.23-33)については悪化こそさせなかったものの、改善も見られなかった。
 ビタミンE(α-tocopherol:μmol/L)では投与群49.5±0.6に対してプラセボ群27.0±0.2、ビタミンCとβカロチンについても十分な血中濃度の上昇があった。
 死亡については心血管事故死878名(8.6%)に対して840名(8.2%)と差がなかった。なお、抗酸化ビタミンについて効果が期待された腫瘍についても、有意差が認められなかった。そのため、総死亡も1446名(14.1%)対1389名(13.5%)とビタミン剤の投与の有無で比較しても有意差はなかった。[fig.1]
 simvastatinを使用した群ではビタミン併用群1014名(19.7%)に対して併用していない群1019名(19.8%)と心血管事故の発症に差がなく、作用減弱も相乗作用も認められなかった。降圧剤で検討したHOPEでの検討同様に抗酸化ビタミンの影響を受けなかった。
 主目的ではないがビタミンによる認知機能の保持や白内障・骨折についても検討した。これらについても、有意差はやはり示されなかった。

 抗酸化ビタミンのうち、ビタミンEとβカロチンについてメタアナリシスを行ったVivekananthanらの検討(Lancet vol.361: p.2017-23)では、βカロチンは全死亡も心血管事故も予後を損ねる結果であった。[fig.2]

 HPSにおける、HMG-CoA還元酵素阻害剤のの有用性については、糖尿病患者にサブアナリシスの論文と費用対効果、さらに脳血管障害に絞ったサブアナリシスの学会発表も公表されている。


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