H16.4/15


コレステロール

2746O 融点[148.5℃] 沸点[233℃](0.5mmHg)

 コレステロールの検査では総コレステロール、LDLコレステロール、HDLコレステロールが日常的に測定されています。しかし、LDL,HDLについては後のコレステロールを略してはなす事もあるのでリポ蛋白とコレステロールを混同する事があります。コレステロールはコレステロールという単一の物質で本当は善悪はありません。

 LDLは低比重リポ蛋白、HDLは高比重リポ蛋白です。どれくらいの比重かというと1.063を境に分けます。油は水に浮くと思ってらっしゃるでしょうが、LDLも水より重いのです。 LDLの正常値は580mg/dlが上限です。一方、LDLコレステロールは140mg/dlが異常値の始まりです。

 コレステロールは細胞の中で2つの働きをしています。一番大切なのは、ステロイドホルモンの材料となることです。塩分の保持に必要なコルチゾールやアルドステロン、性ホルモンであるアンドロゲンやエストロゲンはコレステロールから作られます。
 次に細胞膜の構造の一部になります。極端な低コレステロールだと血管が脆く破れやすくなります。もちろん高コレステロールだと硬く狭く詰まりやすくなります。
 生存に必要と言うことではだいたい50mg/dlくらいあれば十分です。胎児のコレステロールは母体の3割しかありません。それらは全て糖や中性脂肪を原料に合成されたもので母体から胎盤は通過して供給された物ではありません。

 少ないコレステロールを必要な細胞が必要なだけ取り込むようにコレステロールを選択的に取り込む「手」:受容体が進化の過程で発達してきました。それがSR-BIやLDL受容体です。  全身が欲しがっているコレステロールですが、合成して十分供給できるのは肝臓だけです。そこから運ばなければなりません。

 ここで困ったことがおきます。それは「脂は水に溶けない」ということです。さらに困ったことはコレステロールは常温では固体です。天ぷら油のような液体ではありません。固まりや粉を血管に流すわけには行かないので、運ぶのに工夫が要ります。

 ひとつはリン脂質にすることです。いまは無リン洗剤が主ですが、昔はリンが合成洗剤に入っていて湖や海の富栄養化の原因になると排除されました。これと同じでリンと結びつくと石けんのような両親媒性をもち水に溶けるようになります。

 でも、一番おおく使う方法は蛋白質に載せて運ぶ方法です。研究室で細胞にコレステロールを付加するときはアルブミンに混ぜます。
 生体では専門の蛋白質も使います。
 それがApoAやApoB, ApoEです。アポ蛋白と言います。アポ蛋白の仲間には荷下ろしに携わるApoCIIやCIIIもあります。
 アポ蛋白やコレステロール、リン脂質や中性脂肪が、箱根細工のように組み合わさると、これがリポ蛋白と呼ばれるものになります。リポ蛋白にはその他にビタミンA,Eといった脂溶性のビタミンが便乗しています。
 リポ蛋白にはいろいろな大きさや働きをもつ仲間があります。カイロミクロンは中性脂肪が10にたいしてコレステロールが1の割合で含まれた大きな軽い粒子です。食べ物の中性脂肪やコレステロールを肝臓に運ぶために小腸の細胞で合成されたApoB48を中心に据えて組み立てられています。VLDLはApoBとApoEが組み込まれて肝臓で合成され中性脂肪が5にたいしてコレステロールが1の割合で含まれています。肝臓から全身に運ぶ役割をしています。LDLはVLDLが中性脂肪をおろした後の回送車のようなリポ蛋白です。肝臓でApoBやApoEに結合する受容体のLDL受容体を使い回収されます。

 HDLはカイロミクロンやVLDLとは違った生い立ちをしています。肝臓でApoA-Iが合成されてあまり何も載せない状態で分泌されます。
エステル化していないフリーコレステロールがちょっと載っていてLCATという酵素が中性脂肪をフリーコレステロールに結合して積み込んでいきます。また、マクロファージなどが取り込んだ変性リポ蛋白のフリーコレステロールを細胞から引き抜きます。ですから、HDLは例えて言うと雑巾の様な物です。
 HDLの上のコレステロールはCETPをつかってVLDLやLDLに積み替えられて末梢に再利用するために送り出されたり、肝臓に戻ってHTGLによって絞り取られたりします。HDLはSR-BIという受容体で粒子まるまるステロイドを作る副腎皮質などの細胞に取り込まれホルモンの原料にもなります。

 先ほどHDLを「雑巾」と言いました。「台布巾」といってもいいのですが、血管や腱などにこびり付いた脂肪を拭き取って奇麗にしてくれるからです。奇麗にしてくれることに着目した別の先生:五島雄一郎先生は「善玉コレステロール」と名付けました。でも、誤解が多いので、ちょっとした注意と深い理解が必要です。善玉の働きをするのは拭き取り掃除をしてくれるからです。HDLコレステロール値そのものが高いことが体によいとか健康とかをあらわしてくれるのではありません。

 おおよそ、80%の人はHDLコレステロール値が高い程、動脈硬化になりにくいです。それはどんどん末梢のコレステロールを回収しているぞ!という証拠だからです。喫煙者や運動不足の人ではHDLコレステロールが低く、末梢のコレステロールが積み残しになり動脈硬化が進んでいきます。
 でも、例外の人が居ます。先ほど述べた荷下ろしをする酵素CETPに異常がある一部の人やCETPの働きを落とす飲酒者では、ちょうどHDLが濡れ雑巾みたいにボチャボチャです。量を測れば確かに多いかもしれません。でも「絞るのが下手」とも言えます。ベチャベチャの雑巾でラーメン屋でテーブルを拭かれてもお客さんは納得しないと思います。それと同じで、動脈硬化は予防できません。HDLコレステロールといっても善玉でない場合もあるのです。こうした場合は高くても喜べません。

 逆に低くても構わない人が居ます。少数精鋭のApoAIミラノ型の人です。ドンドンドンドン末梢から引き抜いて運ぶのでウダウダ血管に留まっていません。だから採血の結果は低HDLコレステロールになるのですが動脈硬化が予防されます。最近人工的に合成したApoAIミラノを注射して動脈硬化がどうなるかを調べた治験が行われ退縮(ちっちゃくなること)が確認されました。注射した一瞬だけはとりあえずよさそうです。ただ、その後は生活習慣病を良くする行動や投薬を続けないと逆戻りするので、「ApoAIミラノで安心」と羽根を伸ばす訳には参りません。

 さて話をLDLに戻しましょう。HDLに対して五島雄一郎先生は「善玉」と名付けましたが、LDLには「悪玉」と称しました。これは、朝鮮戦争以降病理研究で動脈硬化の病変と血中の総コレステロールなかんずくLDLコレステロール値に強い相関関係が認められたからです。LDLは肝臓で回収される「筈」なのですが量が多いと「うっ滞(渋滞)」を起こします。また、十分に中性脂肪が減らない状態のIDLやsmall dense LDLといったレムナントリポ蛋白ではLDL受容体に連結しないのでうっ滞します。
 取り込まれない間にブドウ糖がつくと糖化LDLになります。これもLDL受容体とは結合しにくいのでうっ滞しやすくなります。

 LDLに含まれる脂質が血管内皮で酸化を受けると、リポ蛋白を構成するアポB蛋白が過酸化脂質によって断片化され変成し、酸化LDLになり、アポB受容体であるLDL受容体対する親和性を失います。フォスファチジルコリンの側鎖の脂肪酸の酸化したものアルデヒド型酸化PCの仲間を認識するDLH-3抗体が特異的に認識する抗体として測定系に用いられます。コレステロールも酸化を受けるかもしれませんが、特異的に酸化LDLコレステロールが悪さしている訳ではないようです。  酸化LDLは、LOX-1などでマクロファージなどに取り込まれるが、泡沫化を促し、炎症反応を引き起こします。その結果、粥腫が形成され、動脈硬化巣が不安定化させる事が仮説として提案されています。

 うっ滞しているうちに血管の内皮の下に貯まり脂肪線条となり特に多いところではニキビの様に粒々に溜まってきます。お粥の様にドロドロしているので粥腫といいます。粥腫では周りの筋肉の細胞が活発になり肥厚したり石灰化して異物を閉じ込めようとします[粥状硬化症;atherosclerosis]。その結果血管が細くなります[動脈硬化症;arteriosclerosis]。異物は単球や単球が活動化したマクロファージが貪食して異化するように努力しますが、コレステロールを十分には分解できないので油滴を貯めた状態:泡沫化の末、自爆(Apotosis)します。炎症が続くと好中球もやってきて敵を倒そうとMMP(マトリックスメタルプロテアーゼ)などの酵素を活発に働かせます。ところが善かれとおもってやっても粥腫の周りの壁が破けて中身が溢れてしまう羽目に陥る場合があります。これが、血栓症です。

 コレステロールを下げるためにどんなものを食べたら良いかとよく尋ねられますが、きちんとした答えはありません。卵はヒヨコや稚魚が一つの個体として世に出るまでに必要なコレステロールを含んでいますから、含有量が高いのですが、必要なリン脂質や蛋白も持っており一概に駄目とは言えません。それに卵そのものよりもケーキやパンの材料として取る量の方が多いのが実際ですので役に立ちません。

 さらに肝臓で合成しますから、肝臓そのものを取らないというのが着目点です。
 シラスや丸干しは青魚ですが内臓も同時に含んでいるので大丈夫と手放しに安心して食べてはいけません。カロリー計算の範囲内にお願いします。

 「スクワレン」という鮫の肝油が化粧品として或はサプリメントとして出回っています。これはコレステロールを合成する中間産物でコレステロールの2つ手前の物質です。
 コレステロールは先に書いたように細胞膜の材料で膜の材料を出せば皮膚の細胞もつやつや生き生きのつもりで発売されているんですが、取り過ぎてもどうせ動脈硬化の材料に回ってしまうのです。
 これもコレステロールと書いていないですが留意が必要です。


中性脂肪(TG)

 中性脂肪は4つの部品でできています。団子の串の役割をするグリセロールと3つの団子:脂肪酸です。脂肪酸は8〜26個の炭素の繋がりで最後に酢酸と同じ-COOHがついています。これがグリセロールの-OHと結合しています。

 太りにくい油といわれるジアシルグリセロール(DG)は脂肪酸が2つです。食物油には2つ団子が数%含まれています。

 中性脂肪は細胞膜をそのままの形ですり抜ける事はできません。ですから面倒な手を打って体を移動します。

 腸の中では膵液のリパーゼが脂肪酸とグリセロールに分解します。分解した形だと膜をすり抜けられます。小腸の細胞の中でTGの形に再度組み立てられます。ApoB48とTGやコレステロールをリポ蛋白の形に組み立てて、腸間膜のリンパ管にカイロミクロンとして分泌します。カイロミクロンは全身を巡って血管内皮のリポ蛋白リパーゼの働きを受けてTGを3つの脂肪酸とグリセロールに分解して筋肉や心筋、肝細胞や脂肪細胞に分配していきます。腸から体の中に入るときと同様に、血管から細胞に入る時に、いちいち分解して通過し再組立をするのです。

 DGが中性脂肪を上昇させにくいのは、腸の上皮で3つのDGが2つのTGと1本のグリセロールになるからです。脂肪酸3本分は低カロリーですから目出たし目出たしとも言えますが、わざわざそれだけを抽出する過程で大豆や菜種に含まれるビタミンやミネラルも横に置かれてしまうので痛し痒しです。

 ただ種を絞っただけのヴァージンオイルではビタミンもそれなりに入っていますし、エグミや澱のなかからポリフェノールのような抗酸化物質が摂取できます。

 魚の脂に含まれるω3系列のDHAやEPA、エゴマや紫蘇に含まれるαリノレン酸は、人間が合成できないので必須脂肪酸といえます。SRBP1aなどの分子にホルモンのように作用して脂肪酸やコレステロールの合成を押さえたり、炎症を抑え血栓が出来にくくなるプロスタグランディンを増やします。また、末梢の血管が攣縮しにくくなりますので動脈の中の脈波も穏やかになります。
 良い事だらけのようですが、ここで生活の知恵を思い出す必要があります。「青魚は傷みやすい」!酸化変性を受けやすい油脂なのです。新鮮なうちに食べないと役に立ちません。ここで、誤謬があるのが「冷凍は体に…」生マグロが放置されるよりも凍結したままのブロックで買って保存して凍ったまま必要なだけ切って使う方が鮮度が保たれます。

 同じように合成できないので必須脂肪酸といえるのはリノール酸です。リノール酸は一過性に肝臓に取り込むコレステロールの量を増やします。そのため高コレステロールの患者にリノール酸のマーガリンが推奨された時期がかつてありました。でも、これは間違えでした。それと言うのはコレステロールを下げるのは一過性で肝臓がコレステロールで一杯になると取り込む能力が低下して、元の木阿弥で再上昇するからです。次に炎症を促進するアラキドン酸の材料になる事です。その結果血栓が出来やすくなります。日本脂質栄養学会の浜崎会長の提言もご覧下さい。

 必須脂肪酸ではないのですがオレイン酸は焼く炒める揚げると言った調理にも丈夫で、変成しにくいです。過酸化脂質を取込む危険を減らす可能性があります。ブドウやオリーブのヴァージンオイルの形で取るとビタミンEが豊富に含まれます。でも、積極的にとる必要は薄いです。糖質の取り過ぎがあったとき糖のままでは体内に保存できないから人はエネルギーを体脂肪に作り替えて保存します。その時の脂肪酸こそオレイン酸だからです。


まとめ 

 脂肪は少しでも高カロリーです。高カロリーなので太りやすくなります。沖縄は海に囲まれています。昔からの食生活を保った高齢者は長寿です。でも、それはウコンやモズクといった単一の食品で得られた成果ではありません。
 占領時代を通じて、缶詰(スパム)と炒め物(チャンプルー)の食事が広がりました。あとBBQ(バーベキュー)とタコライス(タコスの具の挽肉をご飯に掛けて食べる)といった食材も登場しました。離島を中心に牧畜が盛んで関税も特別に安く牛肉の消費が活発です。海に囲まれては居ますが、タイやイワシ・サンマといった大量に流通するような漁業が行われていないので反って魚を食べにくい環境が出来上がりました。

 その結果沖縄の男性の平均寿命は4位から26位に落ちました。BMI(体格指数)は22が一番良くてやせ過ぎでも太り過ぎでも寿命が短いです。日本人では25をこえると高血圧と高中性脂肪血症が2倍になるので、25以上を肥満としています[英米では30以上]。沖縄では50歳代の男性の平均が25.1なので推して知るべしですが49%が肥満です。その結果、壮年での脳血管障害が一番多く親や祖父母が元気なのに先に倒れる例に事欠かなくなりました

 なになにが健康に良いと言う事もありません。結局のところ絶対的なカロリー摂取量なのです。

 コレステロールは80%が肝臓で合成され20%が食事由来です。低コレステロール食にすれば食品から入る1割は下がる。でも、卵を食べなければ良いと言う訳ではありません。良質な蛋白質を得る機会を逸します。しかしカロリーを押さえれば合成に回る分が少なくなってコレステロールをコレステロールとして食べなくても血中の値は減少しやすくなります。
 食物繊維を多く取れば雑巾のように口から入った油脂を糞として外に運び出してくれます。でも脂溶性ビタミンも外に出てしまいます。

 γオリザノール(植物ステロール)が大量にはいるとコレステロールの吸収が妨げられます、ただ植物ステロールも末梢に溜まりやすい人がいるのでそれで解決という訳には行きません。  全てはバランスです。

 揚げる炒めるは油を増やします。煮るは煮汁の扱いに依ります。焼く蒸すは脂を落とします。でもソースをあえると元に戻ります。
   調理に手をかけると新鮮さが失われ酸化した脂肪酸を取る結果に陥るかもしれません。
 素材が大事ですが、その後の工夫も大切です。健康食品は加工保存食品でもあります。
 全てはバランスです。

 添加物が無ければ酸化したり腐敗するかもしれません。塩分は食品の保存に有益です。それは麹や酵母が一般細菌よりも塩分に強いので塩分が多いと雑菌が湧きにくいからです。高血圧に気を取られて減塩漬物・減塩味噌を家で少しずつ食べていると発酵ではなくて腐敗しているかもしれません。


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