ACCORD中止

2008-02-07

太ってタバコをすって脂質も血圧も良くはない糖尿病の患者という、危険因子の集積した群に、これでもかという治療をした方が良いかという研究ACCORDのうち、血糖コントロールを厳密にするグループで死亡例が多くみられ、糖尿病については従来型の治療にとどめることになった[news]。
収縮期血圧は120mmHg未満 vs 140mmHg程度、脂質はHMG-CoA還元酵素阻害剤だけか、それに加えてHDLコレステロールも改善するフィブラートを併用するか否か?という比較を行い、DMについては7.0~7.9%の従来目標群と6.0%未満の厳格治療群を比較した。目標は厳しく設定したが厳格群の平均は6.4%にたいし従来群は7.5%のHbA1Cのコントロールであった。

ACCORDでの死亡
  在来群 強化群
人(例/千人年) 203 (11) 257 (14)

研究グループは、PPAR-γ作働薬や低血糖など特定の原因は見いだせない事、今回の検討ではいずれの群も、米国での平均的な医療水準HbA1C8%超のコントロールでの50例/千人・年に比べれば死亡数は減っている事から、現在行っている治療の変更は今後の研究を待って行うべきであるという見解を示している。また、非致死的なイベントは減る傾向を示しており、細小血管症(腎臓や眼)については他の幾つもの大規模検証で厳格な血糖コントロールで予後の改善が示されている、としている。


STENO-2 goes on.

一方でNEJMに掲載されたSTENO-2では集学的な厳格な血糖コントロールでは、心疾患による死亡 (hazard ratio, 0.43; 95% CI, 0.19 to 0.94; P=0.04) も心血管事故(hazard ratio, 0.41; 95% CI, 0.25 to 0.67; P<0.001)も半減している。出来てしまった動脈硬化を退縮する事は出来ない。とりわけて、soft plaqueというニキビの芯のような高脂血症での粥状動脈硬化巣と異なり、石灰化した病変が罹病期間の長い高齢の糖尿病患者では多くみられるからだ。
境界型糖尿病から虚血性心疾患は久山町研究などでも段階的に増えており、境界型糖尿病患者にたいする薬物療法ではSTOP-NIDDMなど介入群の心疾患発症が押さえられており、入院時の血糖コントロールが悪いほど予後が良くないことも示されている。また、PPAR-γ作働薬は動脈硬化を改善しても心不全は悪化させる可能性が示唆される。今後これら研究との整合性の検証が望まれる。


ADVANCE will goes on.

2008-02-17

やはり厳格な血糖と血圧のコントロールによる心血管事故の抑制を目標に置いたアドバンス研究ではアコードの発表を受けて、安全性モニタリング委員会が検討を加えた。しかし、有意な死亡の増加はないと研究の続行を発表した[2008-02-13]。Action in Diabetes and Vascular Disease: Preterax and Diamicron MR Controlled Evaluation (ADVANCE)では11,400名を5年間追跡する。HbA1C6.5%を目標にしている。
血圧のコントロールについては2007年にLancet(2007 Sep 8;370[9590]:829-40)に論文が掲載され。収縮期血圧で5.6mmHg低かった厳格コントロール群では大血管症や細小血管症の発症に差はなかったものの、死亡については心血管事故(211 [3.8%] active vs 257 [4.6%] placebo; 0.82, 0.68-0.98, p=0.03) 総死亡(408 [7.3%] active vs 471 [8.5%] placebo; 0.86, 0.75-0.98, p=0.03)ともに有意に抑制されていた[2007-09-02]。


ADVANCE finished.

2008-06-12

有意な予後の改善もないことがアドバンス研究で判った[NEJM Volume 358:2560-2572][editorial]

腎症については改善があった(9.4% vs. 10.9%; HR0.79; 95% CI, 0.66 to 0.93; P=0.006)が、網膜症 (P=0.50)、大血管症(P=0.32)、死亡(HR0.93; 95% CI, 0.83 to 1.06; P=0.28)であり、血糖を下げることの意味が薄い結果となったが、下げすぎると危険という訳でもなかった。
強化治療群6.5%に大して、対照が7.3%とHbA1Cのコントロールは両群間で僅か0.8%であり、UKPDS(強化療法群の中央値 7.0%)など過去の検討でのHbA1Cに較べて対照群も十分血糖が下がっていることから、有意な差が認められないのも妥当か。
ベースラインはACCORDのHbA1C8.1%にくらべ、ADVANCEのHbA1C7.2%であり、よりリスクが高かった筈のACCORD参画者はネガティブな試験講評と裏腹に、総死亡では見た目良好なの予後を手に入れられた結果になっている。試験が短期に終息し3年余の介入しかなされていないにしても事故率は少ない。死亡率は強化群対照群ともに、一方のACCORD(5.0% vs 4.0%)に較べて、ADVANCEの方が20~30%多く(8.9% vs 9.6%)になっている。
血糖以外の集学的な治療、HMG-CoA還元酵素阻害薬の処方率(アコード9割弱 vs アドバンス 5割弱)やアスピリンの投与(7割半ばvs5割後半)は何れもADVANCEで不徹底である。チアゾリジンの多い投与がACCORDの特徴であり介入群で92%で投与されたが、これをしてもACCORDの方がやや事故率が下回る。


糖尿病治療薬の心血管系副作用の証明

2008-07-09

FDAが糖尿病の薬を審査するにあたって、その基準作りをするための諮問委員会 (Endocrinologic and Metabolic Drugs Advisory Committee[link] )は7月1〜2日に開催された。

Agenda: On both days, the committee will discuss the role of cardiovascular assessment in the preapproval and postapproval settings for drugs and biologics developed for the treatment of type 2 diabetes mellitus.[FDA]

糖尿病の治療目標の一つには動脈硬化症の抑制がある。しかし、これを1次目標として達成した臨床試験は未だ無い。
さらに、古くはSU剤から最近はTZDに至るまで、心血管系の「予防効果」どころか「副作用の有無」を検証せざるを得ない風潮にある。
鎮痛剤のCOX-2阻害剤もNNH75程度の心事故の増加があり、集団訴訟などのリスクを背景に、足踏みした。同様に、糖尿病の薬についても、心血管事故のハイリスク群であるが故に有意差をもって「立証」される可能性があり、その説明責任が薬物規制当局にも覆い被さる可能性が高い。
血糖降下作用は百人単位の治験で足りる。細小血管症の予防効果は数千人を数年でカバーできるであろう。特にHbA1C9%以上なら10年で半分の網膜症や微量アルブミン尿の出現が想定され、そのような患者を対象に治験すれば、それすらもオバーパワーになる。
さりながら、心血管事故は多いと言っても50例/千人年であり、細小血管症より少ないので、数万人を十年追いかけないと明白にならない可能性もある。安全性を吟味するなら非劣勢でもよいのだろうが、こんどは対照が無治療でも細小血管症の発症などの倫理的な問題があるし、先に述べたように心血管事故を増やす可能性を内在するTZDを対象薬に含めることも困難であろう。
新薬の通過が今後より困難になり、心血管事故増加に関する予防原則に偏った判断が、細小血管症の予防という利益を損なう事を、私は危惧する。
いっぽうで、心血管事故の抑制を1次目標とする治験は、細小血管症の起こりえない、メタボリック症候群=糖尿病予備軍を対象とした抗糖尿病薬を用いた糖尿病発症予防試験において、含められるベキであろうとも考える。


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