H17.2/15
COX-2選択性阻害薬は、従来のNSAIDに較べて、「消化管出血が少ない」との利点を買われ広く処方されるようになった。また、Knock out miceの検討でCOX-2阻害剤が大腸ポリープの予防の効能を持つのでは無いかと大規模比較試験が展開されてきた。
しかし、2000年に発表されたRofecoxibとNaproxanとの比較試験VIGOR(NEJM 23;343(21)p1520)で消化管出血は0.6 vs1.4/百人年と効果が認められた物の、心血管事故は0.4vs0.1/百人年と大きく上回り、死亡者数などでの両者の比較で差を認めなかった。当初、この結果はNaproxanによる心保護作用と論じられていた。
WheltonはJ.Hypertens '02 20(6)S31で腎に対するCoxibの作用に触れ、「Rofecoxibは浮腫を生じやすく血圧を上昇させる。」としている。(edema; [NSAID vs Rofecoxib : 4.9% vs 9.5%][Celecoxib vs Rofecoxib 4.7% vs 7.7%])。Am J Ther. '01;8(2):85では平均血圧が[Celecoxib vs Rofecoxib -0.5mmHg vs +2.6mmHg]上昇していた。
さて04年の秋から冬にかけてFDAは2件の通達を出した。
2004.9/30にFDA内部で加州のMCOをコホートに設定した、症例対照研究の結果がまとまった(J Graham. Lancet '05 365(9456)p475)。
これを受けてMerck社は、数百万人もの患者が使用している関節炎治療薬・Vioxx(rofecoxib)の販売を自主的に中止回収すると発表した。
Rofecoxibは特に50mg以上の高用量を用いた場合、NNH[1] 75と高い頻度で心血管事故を起こすと言う物である。ただし、症例10例に対して対照8例と、該当者が極く僅かで十分な妥当性に乏しい嫌いがあった。
2004.10/18に大腸ポリープの予防試験APPROVeで心血管事故がプラセボに対して、25vs45件と大きく上回っていた(0.75vs1.48/百人年)。
今回は、Naproxanという言い訳が通じないので,治験中止となった。
2004.12/4にJuniらが18の比較試験のメタアナリシスを発表し、64件/21,432例の心事故があり、プラセボに対して12vs52件で、2.24倍心事故が増えると報告した(Lancet '04364(9450)p2021)。
対するCelecoxibについても2004.12/17に大腸ポリープ予防試験に対する治験で400mgで3.4倍、200mgで2.5倍と用量依存性に心血管事故が増えていることからNCIとPfizerに中止を求めた。
評論
欧米と日本との間で大きく違う点があるとすると動脈硬化症の有病率である。スコットランドは日本の10倍程の虚血性心疾患があり、その分COX1阻害が不足する患者での心事故率は高いと思われる。一方で、日本には心事故を起こす割合は、動脈硬化の危険因子を持たない層では千人に1人程度である。千人に2人程度に増えたとしても有用性が上回る可能性も否定できない。ただし、糖尿病を有する患者では千人に8名ほど心事故を、7名程脳血管事故を起こすので、COX2によって血栓傾向が増加するとその分不利益を多く被る。合併症である腎症に留意する必要はあるが、COX1の作用をあわせ持つ他のNSAIDが好ましいと云えるかもしれない。
また、血管炎ということではリウマチ性疾患も動脈硬化症も共通点がある。リウマチ疾患患者は動脈硬化症が進展し易く、ステロイドの使用で冠危険因子も多く持ち合わせる場合が多い。潜在的危険者に必要な少量のアスピリンが行っていない為に動脈硬化症が顕在化したとも云える。
ここでCOX2を安易に葬ってよいかは微妙である。まるで魔女狩りの様に、「FDAは企業とべったりで危険を看過した」という論評が出回っている。しかし、COX2阻害による胃腸の腺腫抑制効果の有無についてはまだ試験結果がOPENになっていない。今後の検討によっては「副作用が強いけれども抗腫瘍効果がある」として復活するかもしれない。
製造中止命令はでておらず、あくまで自主回収や注意喚起に留まっている。
FDAのCOX2の薬剤情報提供ページ(英文)
[H18.3/2追記]心筋梗塞に限るとPfizerのcelecoxibも有意差をもって増加した。しかし、脳梗塞や心血管事故関連死亡についてはcelecoxibでは有意差がつかなかった。[Brent Caldwell et al. J.R.Soc.Med 2006;99:132-140]