なぜ検察官は研究不正を見過ごすのか?
ディオバン事件と臨床研究法によって、研究不正について社会の耳目が集まるようになった。研究不正といっても臨床研究にだけで不正が行われるわけではな
い。STAP細胞に象徴されるように、基礎医学・生命科学でも、理工系でも、果ては考古学や教育学の分野でも、研究不正は起こっている。(研究活動にかかわる不正行為 立法と調査 2006; No.261:112-121)。しかし、これらの研究不正は、ほんの氷山の一角である。世の中には摘発されていない研究不正が山ほどある。その中の代表的なものが法医学における研究不正である。
法医学における研究不正としては、戦後に限っても古畑種基による一連の不正、ここ数年でも足利事件、東電OL殺人事件と、その例には枚挙に暇が無い。しかし、これらの研究不正も、その研究が行われてから、時には数十年以上が経ち、研究者が死亡してから初めて明るみに出た。その場合でも、冤罪が認められることによって、間接的に研究不正が認められただけで、決して不正の具体的内容が明らかになったわけではない。ここで紹介するのは、再審請求の過程でその不正の全貌が明らかとなった、北陵クリニック事件における警察鑑定,いわゆる土橋鑑定におけるベクロニウムの質量分析実験結果の捏造である。
質量分析についての初心者向け解説は→サルでもわかる質量分析
全くの捏造だった土橋鑑定
現在行われている北陵クリニック事件再審請求の即時抗告審では、再審弁護団の粘り強い追求により、土橋均氏(当時大阪府警科捜研吏員、現 名古屋大学大学院医学系研究科・医学部医学科 法医・生命倫理学 招聘教員)による鑑定(以下土橋鑑定)が、研究不正の中でもSTAP細胞をはるかに上回る史上最悪の不正、全くの捏造であることが判明した。さらに土橋氏は、警察に対してはもちろん,検察、裁判所に対しても、自分の鑑定が捏造であることを16年以上にわたって隠蔽し続けてきた。土橋鑑定には下記のように、科学性のかけらもなかった。
1.実験をやっていなかった←実験ノートなし。→実験ノートだと?知るか,そんなもん
2.再現性がなかった←鑑定資料は全量消費。
3.検体がなかった←鑑定資料受け渡し簿なし。
4.鑑定人は研究者として欠格だった:ベクロニウムの分子量を知らなかった土橋大先生
科学の世界なら1-3の3つのうち、一つでも当てはまれば、直ちに捏造と認定される。その捏造3点セット1-3が全部揃っている上に、さらに4のごとく、土橋鑑定の結果が世界中の質量分析研究者によって全面的に否定されている。こんなグロテスク極まりない捏造鑑定に、なぜが,警察,検察,裁判所が騙されたまま(騙されたふりをしたまま)16年もの年月が経ってしまったのだろうか?
その鍵を握るのが検察官である.詳しくは→検察官と科捜研研究不正
鑑定人に「どうか自分を騙してくれ」と懇願する警察官・検察官
もし、検察官が科学の何たるかを知っていれば、初公判で公判検事が無罪論告する。土橋鑑定はそれほどまでに露骨なでっち上げだったことは上記の1-4から自明である。しかし実際には、科学も医学も知らない法曹三者が揃って騙されて16年余りが経過した(2017年3月末現在)。なぜ検察官たる者がそうそう簡単にだまされるのか?実は刑事裁判で立証責任を負う検察官には「騙されたい」という欲望があるからだ。ところが本人はそれに気づいていない。こうして検察官は簡単にだまされる。
「絶対に騙されないぞ」という強い気持ちが、目の前に本当の犯罪者がいる場合には、その思い通りに働く。しかし、目の前にいるのが無実の被疑者の場合には、「絶対に騙されないぞ」という気持ちは、「どうか自分を騙してくれ」という強い欲望に変わる。
「割り屋」と呼ばれる、「有能な」検察官ほど、目の前にいるのが本物の犯罪者と思っている。そのような検察官は無実の被疑者を前にして「どうか自分を騙してくれ」と強く願っている自分に気づけない。そこに致命的な隙ができることに気づけないのです。そうして、無実の被疑者が「自白」すると、これで「やった、落とした」「業績」が上がったで有頂天になり、自分の思い通りに描いた自白調書に署名、捺印させ、あとは公判検事に全て任せて、「割り屋」としての仕事は終了する。。
警察官・検察官を使って弁護人・裁判官も騙した鑑定人
警察官・検察官の「自分を騙してくれ」という強烈な欲望は、無実の被疑者に対してだけに留まらない。有罪立証のためには検面調書に加えて物証が必要である。そこにも「自分を騙してくれ」という強烈な欲望に迎合して、結果的に検察官に墓穴を掘ってやる人間が出現する。ここでも詐欺師は科学も医学も知らない検察官の弱点を徹底的に利用する。
科捜研は警察組織であり、検察には科学捜査を行う部門はない。もちろん科学・医学教育を受ける機会もない。だから検察官は科学や医学という言葉に滅法弱く非常に強いコンプレックスを持っている。科捜研の研究員にとってそんな検察官を騙すのは、朝飯前である。たとえ全てが捏造でも、科捜研の研究員は思うように検察官を操り、どんなデタラメでも法廷で平然と言わせることができる。
北陵クリニック事件の場合には、それが患者体液からベクロニウムを検出したと称する鑑定をでっち上げた土橋氏と、筋弛緩剤中毒という診断を捏造し、検察と裁判所が今日まで神経難病患者の人権を踏みにじり、突然死の恐怖の毎日に放置し続ける根拠を与えた橋本保彦東北大学医学部教授(当時)がそれに相当する。橋本の診断捏造についてはこちらをご覧あれ。
土橋氏は、警察・検察が受け入れやすい結果を備えた詐欺パッケージを上記のように「鑑定」と称して持ち込んだ。検察がその詐欺パッケージを裁判所に飲み込ませ(つまり土橋氏にだまされた検察官が、そうとは知らずに裁判官を騙し)、土橋氏と同じ捏造ゾンビになった検察と裁判所が共闘して弁護人を騙し、検察官と裁判官同様に科学を知らない弁護人が捏造ゾンビコンビに敗れ、守大助氏の無期懲役が確定した。しかし、当然のごとく再審が請求された。そうして追い詰められた検察と裁判所の捏造ゾンビコンビは、全量消費撤回と騙し討ち棄却決定という二重の反則技を使って請求を棄却するしかなかった。
反則技を使い切った即時抗告審では、検察はもう為す術がない。手も足も出なくなった検察と裁判所の捏造ゾンビコンビを土橋氏の呪いから解放してやる場、それが即時抗告審である。土橋鑑定は完全に泥舟である。土橋鑑定には上記のように科学のかけらもなく、完全な捏造である。科学も医学も知らない法曹三者が、枝葉末節の議論に幻惑されて、科学の大原則を忘れた結果、土橋氏に完全に騙されてしまった。それが北陵クリニック事件の本質である。
→ベクロニウムの分子量を知らなかった土橋大先生
→サルでもわかる質量分析
→「科学」の前に追い込まれた検察 「自然発火の可能性」否定できず 自白頼みの捜査屈する
→法的リテラシー