血液は無菌的に見えても、さまざまな病原体を含んでいる可能性があります。無症候性のウイルスキャリアや、検査をしていないのでHIVへの感染がわからないままの血液なども存在し、健康な人の血液だからといって安心することはできません。また、患者の体液にはリンパ液や目に見えない血液が混入していることがあり、血液同様、感染症のウイルスを含んでいることがあります。
針刺し切創や傷のある皮膚や粘膜へ血液体液が接触することにより、体内に侵入して職業感染の原因となる微生物は、多くのものが知られています。特に、HBV、HCV、HIVの3つは、その流行状況などから注目すべき病原微生物です。また、南日本に罹患率が高いとされている成人T細胞白血病(ATL: Adult T-cell Leukemia)のほか、クロイツフェルド・ヤコブ病や狂牛病などの原因となるプリオンや、マラリア、回帰熱、ブルセラ症、レプトスピラ症、アルボウイルス感染症なども、職業的な血液暴露により感染する可能性があるとされています。これらは、総称して血液媒介病原体とよばれ、これらの病原体による感染症は血液媒介感染症であり、医療機関で働く際の感染症の基礎知識として重要です。
特に平成22年10月、
厚生労働省の通達で妊婦さんの 健康診査項目にHTLV-1抗体検査が加わわったことにより、HTLV-1感染者(キャリヤー)や発病者が多く報告されるようになると思われます。 HTLV-1キャリヤーでは、血液に含まれるHTLV-1量は極めて少ないので、感染は母乳によるものがほとんどで、血液感染はほとんどないとされています。しかし、医療が必要になった発病患者の血液にはそのウイルス量が多く、血液感染の可能性が高まります。HTLV-1感染者は全国に120万人といわれており、その大多数は全く健康に過ごしていますが、HAM患者では体内のウイルス量が非常に増加しており、ウイルス量が上昇している人はHAMになりやすいといえます(
参照)。
針刺し切創(経皮感染)の場合、下表のように、HBV、HCV、HIVの中では HBV による感染率が高く、特にHBe抗原が陽性の場合は感染力が強くなります。針刺し切創での感染の確率は、体内に侵入した血液量(正確にはウイルス量)に依存します。
また、鋭利器材の性状によっても感染のリスクは異なります。縫合針と採血に用いた針を比較すると、前者は針の表面だけの汚染であるのに対し、後者は中空部分にも血液体液が付着しているため、針刺しをした際、皮膚の奥まで血液が入り込むことになり、その分危険度が高くなります。なお、ディスポーザルのゴム手袋を着用していると、体内に入る血液は2分の1 になるといわれています。
表 血液媒介病原体による感染経路や感染確率
(下記文献 1. 2. より改変)
| ウイルス |
感染経路 |
感染の可能性のあるもの |
| 針刺し切創事故での感染率 |
粘膜・損傷皮膚 |
噛傷 |
報告あり |
可能性あり |
可能性小 |
| HIV |
0.2 - 0.5 % (約0.3 %) |
○ |
○ |
血液 血液製剤 血性体液 |
髄液 母乳 精液 膣液分泌 |
唾液 尿 便 |
| HCV |
1.8 % |
△ |
― |
血液 血液製剤 |
血性体液 精液 膣液分泌 |
唾液 尿 便 |
| HBV |
6 - 30 % |
○ |
○ |
血液 血液製剤 |
血性体液 唾液 精液 膣液分泌 |
尿 便 |
○:報告がある、 △:報告はないが可能性はある、 ―:報告がない
参考文献
- Gerberding、 JL: Management of occupational exposure to blood-borne viruses. N Engl J Med 332: 444、 1995
- CDC: Update:Provisional public health service recommendations for chemoprophylaxis after occupational exposure to HIV. MMWR 45:468、 1996
- 重松逸造他編集:伝染病予防必携.日本公衆衛生協会発行、1998年