尿道狭窄症でお悩みの方へ

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尿道狭窄症とは?

尿道の解剖

尿道狭窄症の解説を始める前に、まずは尿道の解剖について説明します。

尿道の解剖(男性)
尿道の解剖(男性)

男性の尿道はいくつかの部分に分かれており、尿の出口から、亀頭部尿道振子部尿道(陰茎の部分、左図の①)、球部尿道(肛門から陰嚢までの部分、左図の②)、膜様部尿道(尿禁制に重要な尿道括約筋に包まれた部分、左図の③)、前立腺部尿道(前立腺の中心部)と膀胱頸部(膀胱と前立腺の境目、左図の④)に分類されます1。亀頭部尿道、振子部尿道、球部尿道は、尿道海綿体という細かい血管でできたスポンジのような組織に囲まれており、まとめて前部尿道と呼びます。それに対して、膜様部尿道、前立腺部尿道、膀胱頚部をまとめて後部尿道と呼びます。

尿道の解剖(女性)
尿道の解剖(女性)

一方、女性の尿道は男性に比べて短く、平均すると4cmほどしかありません。男性のような尿道海綿体はなく、ほぼ全長が尿道括約筋に覆われています。男性の方が女性よりも尿道が長いため、色々な影響を受けやすいことから、尿道狭窄症は男性に多くみられます。

尿道狭窄症の症状は?

尿道狭窄症のイメージ
尿道狭窄症のイメージ

尿道狭窄症は何らかの原因で尿道に傷がつき、修復される過程で線維化、瘢痕化という反応が起こって尿道の内腔が狭くなる疾患です。尿道が狭くなることにより尿の勢いが低下、排尿に時間がかかる、残尿感といった症状が出ます。排尿に関する症状以外にも、会陰部(陰嚢と肛門の間の部分)の痛みや射精障害、男性不妊症なども見逃せない尿道狭窄症の症状です2。重症な場合(狭窄が強く尿道の内腔が極端に狭い場合)には自力で排尿ができなくなり、尿道や膀胱に管(カテーテル)を入れた状態で生活しなければなりません。適切に治療しないと生活の質を著しく損なうばかりか、尿路感染、膀胱機能障害、腎機能障害を併発するおそれがあります。

尿道狭窄症の原因は?

一昔前まで尿道狭窄症の原因は外傷、尿道炎の後遺症、尿道カテーテル留置や経尿道的手術などの合併症(医原性)がそれぞれ3割程度を占める、といわれていました。しかし、先進国では交通安全の向上や労働環境の改善により外傷性尿道狭窄症が減少、抗菌薬の進歩により尿道炎による尿道狭窄症も激減しました。一方、高齢人口の増加とともに、医原性尿道狭窄症が増加しています3, 4。高齢になると様々な疾患にかかりやすくなり、病院で治療を受ける頻度が高くなるためです。また、原因がわからない尿道狭窄も全体の3割程度を占めることが報告されています。
以下に主な尿道狭窄症の要因を解説します。

① 外傷

以下の二つのタイプの外傷が尿道狭窄症の原因になります。後述いたしますが、いずれのタイプも外傷直後に尿道を治療すると再狭窄率が高くなるため、外傷の状態が落ちついてから(炎症が落ち着いてから)治療するのが鉄則です5-9

①-1 騎乗型尿道外傷(straddle injury)
騎乗型尿道外傷
騎乗型尿道外傷

左図のように、股間(会陰部)を強く打撲して球部尿道を損傷するタイプの怪我です。ハシゴや鉄棒などにまたがっているときに手を滑らせ、股間から落下して受傷するというのが多いパターンです。鉄棒などの硬い物と恥骨との間で球部尿道がつぶされてしまいます。

膀胱ろう
膀胱ろう

外傷直後は、尿道がつぶれてしまっているため尿が出にくくなるか、尿が全く出なくなってしまいます(これを尿閉といいます)。まずは膀胱にカテーテルを直接挿入(膀胱ろう造設)して尿の排出ルートを確保して尿道をしっかりと休ませることが重要です10。 外傷直後に無理に尿道カテーテルを通してしまうと、続発する狭窄が複雑になったり、外傷と関係の無い部位にカテーテルによる医原性狭窄を起こすことになります10

騎乗型尿道外傷 外傷直後と3ヶ月後の尿道造影
騎乗型尿道外傷 外傷直後と3ヶ月後
の尿道造影

挫滅された尿道は炎症、瘢痕化という反応を経て内腔が狭くなり、最終的に球部尿道狭窄症になります。外傷による炎症が完全におちつく時期、つまり外傷後3ヶ月から半年以降に尿道形成術で治療するのが鉄則です。左の写真は外傷直後(左)と外傷後3ヶ月時(右)の尿道造影です。外傷直後では損傷した部位から尿道外に造影剤が漏れ出しています(矢印)。外傷3ヶ月後では損傷した部位が完全に閉塞しているのが分かります(矢印)。このタイミングで尿道形成術を行います。
尿道狭窄症の約30%は原因不明ですが、その中には患者さんが覚えていない小児期の騎乗型尿道外傷による尿道狭窄症が多く含まれていると言われています1。もし小さいころから尿の勢いが弱かったとか、友達と立ち小便しているといつも自分が一番遅くかったとか、そんな記憶があるならば検査をお勧めします。

①-2 骨盤骨折による後部尿道外傷 (pelvic fracture urethral injury)
骨盤骨折による後部尿道外傷
骨盤骨折による後部尿道外傷

骨盤骨折は交通事故や労働作業中の重機による事故などによって起こる、いわゆる高エネルギー外傷で、肝臓や腸など腹部の臓器損傷や他部位の骨折を伴う非常に重篤な外傷です。前立腺部尿道から膜様部尿道は骨盤の壁を貫通し、靱帯で骨盤に固定されています。大きな力が加わって骨盤がねじれてしまうと貫通している部分(多くは球部尿道と膜様部尿道の間)で尿道が断裂してしまいます6

後部尿道外傷 外傷直後と3ヶ月後の尿道造影
後部尿道外傷 外傷直後と3ヶ月後
の尿道造影

外傷直後は出血や他臓器の外傷の治療を優先する必要があるので、膀胱ろうを造設して尿の排出ルートを確保し、全身の状態が安定するまで待機します。外傷直後に尿道カテーテルを通して尿道の連続性を再開通させたとしても、のちに尿道狭窄症を免れる可能性は10%未満に過ぎません11,12。逆に怪我と関係の無い部位に尿道カテーテルによる医原性尿道狭窄を続発するリスクがあります13-16遠回りに感じられるかもしれませんが、外傷の3ヶ月〜6ヶ月以降に全身の状態が安定し、尿道の炎症や瘢痕が落ち着いてから尿道形成術を行うのがゴールドスタンダードであり、結局は近道になるのです。

② 医療行為の後遺症(医原性尿道狭窄症)

先進国で最も多いのが医療行為による後遺症、つまり医原性尿道狭窄症です3, 4。特に頻度が高いのが、尿道カテーテル留置や経尿道的手術に続発する尿道狭窄症、そして前立腺癌の治療に関連した尿道狭窄症です。

②-1 尿道カテーテルと経尿道的手術による尿道狭窄症
医原性尿道狭窄症
医原性尿道狭窄症

何らかの病気で入院している患者さんの25%はベッド上安静が必要なため、もしくは正確な尿量を計測するために尿道カテーテルを留置されます17。尿道カテーテルは尿道の内側から粘膜を圧迫し、血の巡りが悪い状態(虚血)を誘発します。虚血に陥った尿道は、重症な場合には瘢痕化して尿道狭窄症を続発します。もうひとつの原因が尿道内視鏡による経尿道的手術です。経尿道的手術は前立腺肥大症や膀胱癌の標準治療ですが、内視鏡と尿道の摩擦による損傷が避けられないため、しばしば尿道狭窄症を続発します。

医原性尿道狭窄症の好発部位
医原性尿道狭窄症の好発部位

尿道カテーテルや内視鏡と尿道がこすれやすい部位、つまり外尿道口(左図①)、尿道がカーブしているペニスの付け根部分(左図②、陰茎陰嚢境界部、振子部尿道と球部尿道の境目)や会陰部から肛門にかけての部分(左図③、球部膜様部境界部)、膀胱頚部(左図④)は尿道の虚血や粘膜の損傷が起こりやすく医原性尿道狭窄症の好発部位です18

②-2 前立腺癌治療後の尿道狭窄症
吻合部狭窄のイメージと内視鏡所見
吻合部狭窄のイメージと内視鏡所見

手術と放射線治療は前立腺癌の標準的な治療です。前立腺癌の手術(前立腺全摘術)は前立腺を摘出したあとに膀胱と膜様部尿道を縫い合わせて(吻合して)尿の通り道を再建しますが、数%の頻度で術後に吻合部位が狭くなります19。これを膀胱頚部硬化症もしくは膀胱尿道吻合部狭窄といいます。左は前立腺全摘術の膀胱尿道吻合部のイメージと膀胱頸部硬化症の内視鏡所見です。
膀胱頚部硬化症は前立腺癌に対する前立腺全摘術後だけでなく、前立腺肥大症に対する経尿道的手術後にも起こります。膀胱頚部硬化症は厳密な意味での尿道狭窄症ではありませんが、尿道狭窄症と同様に排尿しにくくなります。

放射線治療のイメージと治療後の尿道狭窄症
放射線治療のイメージと治療後の尿道狭窄症

放射線治療は分裂が活発な癌細胞にダメージを与える治療です。前立腺の内部に尿道が貫通しているため、少なからず尿道にもダメージが加わります。放射線治療後の尿道狭窄症の発生頻度は数%程度20と報告されています。前立腺癌手術後の膀胱頚部硬化症は、手術後2年もたてば、その後に起こる可能性はほとんどありませんが、放射線治療後の尿道狭窄症は5年経っても10年経っても(むしろ5年、10年経過した方が)出現するリスクがあります19
前立腺癌の多くは一般的に性質がおとなしいため、早期診断された患者さんが前立腺癌で亡くなることはほとんどありません。しかし長期間の生存が期待できる分、治療後に生じる排尿に関連する問題は長期間つきあわなければならない非常に深刻な問題と言えます19

③ 炎症性疾患

硬化性苔癬のイメージと尿道造影
硬化性苔癬のイメージと尿道造影

淋菌性尿道炎の後遺症として尿道狭窄症が起こることがありますが、抗生物質や衛生環境が格段に進歩した現代において、淋菌性尿道炎による尿道狭窄症は非常にまれです。尿道炎による尿道狭窄症にかわって注目を浴びるようになってきたのが硬化性苔癬(Lichen sclerosus)という疾患です21。硬化性苔癬は30歳から60歳前後に好発する慢性の炎症性皮膚疾患です。男性では左図のように亀頭部や陰茎包皮の部分が白く硬くなり、包茎のような症状や尿の出口(外尿道口)が硬く狭くなることによる排尿症状が出現します。以前は閉塞性乾燥性亀頭炎(Balanitis xerotica obliterans, BXO)と呼ばれておりましたが、これは硬化性苔癬の初期症状を指します。硬化性苔癬は進行すると亀頭部から球部尿道まで波及し、左図の矢印のように前部尿道全体が狭窄する可能性があります。

④ 尿道下裂

尿道下裂のイメージ
尿道下裂のイメージ

尿道下裂とは先天的な陰茎や尿道の発達異常です。尿の出口が亀頭部の先端まで届いておらず、左図(左)のように、陰茎の途中や陰嚢部に開口しています。ほとんどの患者さんは小児期に修復術を受けています。多くは陰茎の皮膚(包皮)を使って足りない尿道を形成します。小児期の陰茎の大きさに合わせて尿道を形成しているため、思春期を迎えて陰茎が大きくなりはじめると陰茎包皮で形成された尿道の成長が追いつかなくなることがあります。正常な尿道は尿道海綿体がショックアブソーバーとして周囲を覆っており、勃起による伸縮にしっかり追従できるようになっていますが、陰茎包皮で形成した尿道は勃起時の陰茎の伸縮について行けなくなることがあります。小児期に特にトラブルが無くても、左図(右)のように、思春期以降に陰茎が下向きに折れ曲がったり、尿道が虚血を起こして狭窄してしまうことがあります。

⑤ 女性の尿道狭窄症

女性尿道狭窄症の排尿時膀胱尿道造影
女性尿道狭窄症の排尿時膀胱尿道造影

男性に比べて女性の尿道は短いため外傷や炎症などの影響を受けにくく、結果的に女性の尿道狭窄症の頻度は男性に比べて圧倒的に低いといわれています。しかし、下部尿路症状(蓄尿や排尿に関連する症状)を有する女性の2.7%から8%に尿道狭窄症が見られたという報告もあります22。女性の尿道狭窄症の原因には、男性と同様に長期間の尿道カテーテル留置や骨盤外傷といったものから、女性特有の出産時の会陰裂傷などがあります。

引用文献

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