尿道狭窄症でお悩みの方へ

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尿道狭窄症の治療は?

尿道狭窄症治療の選択肢

尿道狭窄症の治療は大きく二種類の方法に分類できます。ひとつは皮膚を切開して行うフォーマルな尿道形成術(狭い部位を切除してつなぎ直す、もしくは何らかの組織を使って尿道を作り直す治療)、もうひとつは尿道の中から狭窄部を広げる経尿道的治療です(内視鏡の先端についたナイフで狭い部位を切開して広げる内尿道切開術、金属の棒(ブジー)や風船(バルン)などで狭い部分を広げる尿道拡張があります)。

尿道形成術と経尿道的治療の成功率の比較
尿道形成術と経尿道的治療の成功率の比較

治療のゴールは、正常な排尿を取り戻し、カテーテルやブジーなどの処置から解放されること(Normal voiding and freedom from instruments)です。この状態にたどり着いてはじめて治療が成功したと言えます。治療後にブジーを続けなければ排尿ができない状態は、成功とは言えません。尿道形成術は成功率の高い治療法ですが、極めて専門的な技術を要する難度の高い手術であるため、ごく一部の限られた医療機関しか行っていません1, 2。全身麻酔での手術と比較的長い入院期間も必要です。一方、経尿道的治療は局所麻酔下で外来や短期間の入院で治療が可能です。尿道形成術に比べて手技が簡便なため全国の病院で広く行われていますが、成功率が低い治療です1, 2。左図は尿道形成術と経尿道的治療の成功率(無再狭窄率)を比較したグラフです。横軸が治療後の経過時間、縦軸が治療が成功した患者さんの割合です。尿道形成術が経尿道的治療よりも圧倒的に成功率が高いことがお分かりいただけると思います。

尿道狭窄症の治療ガイドライン

従来の認識とガイドラインで推奨された治療
従来の認識とガイドラインで推奨された治療

狭窄の原因や部位によらず、どんな狭窄でもまずは経尿道的に治療し、成功しなかったら(再狭窄したら)経尿道的治療を繰り返す、尿道形成術はどうしても成功しない場合の最終手段、というのが従来の考え方でした。しかし、2000年頃から従来の考え方を否定する意見が多くなり、ついに海外の主要な学会が診療ガイドラインを発表しました。2010年の国際泌尿器疾患会議 (International Consultation of Urological Diseases、ICUD)ガイドライン3-11、2016年の米国泌尿器科学会(American Urological Association、AUA)ガイドライン12、2021年の欧州泌尿器科学会(European Association of Urology、EAU)ガイドラインです13-15

尿道狭窄症の治療アルゴリズム
尿道狭窄症の治療アルゴリズム

どのような狭窄にどのような治療を選択するのが適切かということについては、これらのガイドラインに明記されています3-12。簡潔にまとめると、条件が5つあり(①原因が外傷でないこと、②治療歴がないこと、③狭窄長が2cm未満で瘢痕の薄い狭窄であること、④狭窄が1箇所に限られること、⑤狭窄部位が球部尿道であること)、その全てを満たす場合だけ(つまり軽症例だけ)経尿道的治療が第一選択として推奨されています。しかし、ひとつでも満たさない場合には、(経尿道的治療の効果が期待できないので)経尿道的治療を行わずに尿道形成術を選択すべきと書かれています(ただし、前立腺癌の根治手術や前立腺肥大症の経尿道的手術後に生じた膀胱頚部硬化症は例外で、経尿道的治療が第一選択になります13

軽症例に対して経尿道的治療後3ヶ月以上経過して再狭窄した場合には(つまり治療効果が長持ちした場合)、2回目までは少なからず経尿道的治療が成功する可能性があります4。しかし、経尿道的治療のあと3ヶ月以内に再狭窄した場合(治療効果がすぐになくなってしまった場合)、すでに2回以上再狭窄している場合には経尿道的治療が成功する可能性は極めて低く、いたずらに治療期間を延ばすだけで治療的意義は全くありません。許容されるのは、合併症や全身状態により尿道形成術が不可能な患者さんや尿道形成術を望まない患者さんに対して、あくまで対症療法であることを承知いただいた上で行う場合だけです4

経尿道的治療による狭窄の複雑化
経尿道的治療による狭窄の複雑化

経尿道的治療は尿道を切開、拡張しますので、尿道に対して少なからずダメージを与えます。再狭窄するからといって経尿道的治療を何度も繰り返してしまうと狭窄を複雑化させてしまうことがあります14, 15。あとで尿道形成術を受ける場合にも経尿道的治療の前治療歴は尿道形成術の術式や成功率にも影響を及ぼします。経尿道的治療を受けたことがある人と受けていない人では、受けたことのある人のほうが統計学的に有意に尿道形成術の成功率が低いのです16。また、経尿道的治療を繰り返された人は狭窄が長く複雑になってしまうため、より複雑な尿道形成術を行わなければなりません15。これが、“尿道形成術は経尿道的治療がどうしても奏功しない場合の最終手段である”という考え方が誤りである根拠です。

経尿道的治療後に尿道が狭くならないように導尿用カテーテルを用いて自分で尿道を拡張する間欠的セルフブジーという方法がありますが、現実的には尿道を損傷するリスクの高い手技であるため推奨されていません17。同様に再狭窄の予防目的でしばしば使用される金属製の短期留置型尿道ステントはまだ研究段階にある治療で、たとえ1回の使用でも尿道に強いダメージを与えるため、尿道形成術の成功を目指す患者さんには勧められません4, 15, 18。右下の写真は尿道ステントにより狭窄が長く、複雑になってしまった例です。左が尿道狭窄症と診断された時の尿道造影です。振子部にごく短い狭窄があります(矢印)。ガイドラインでは振子部尿道狭窄は経尿道的治療の効果が低く最初から尿道形成術が推奨されていますが、経尿道的治療を繰り返すも再狭窄し続けたため尿道ステントを留置されました。結果的に最初に診断された状態よりも狭窄が長く複雑になり、より複雑な尿道形成術が必要になってしまいました。

尿道ステントによるダメージ
尿道ステントによるダメージ
尿道ステントにより狭窄が複雑化した症例
尿道ステントにより狭窄が複雑化した症例
尿道狭窄症治療の理想と現実
尿道狭窄症治療の理想と現実

尿道狭窄症のなかで経尿道的治療の適応になる軽症例は全体の5%程度に過ぎません。したがって、本来は残りの95%は尿道形成術により治療されるべきなのです。しかし、皮肉なことにガイドラインが発行された海外でも尿道形成術があまり普及していないために95%が経尿道的に治療されているのが現状です22。海外の専門家たちは尿道狭窄治療の現状を、“多くの患者さんが治る見込みのない治療を延々と繰り返されている”と考えています。日本では公式の疫学調査やガイドラインの発行は未だになされていませんが、状況は海外と概ね同じと思います。狭窄の状態をしっかりと把握し、適切な治療を選択することがとても重要なのです。

引用文献

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