尿道狭窄症でお悩みの方へ

防衛医科大学校病院 泌尿器科堀口明男 Official Site

尿道形成術とは?

尿道形成術の分類

尿道形成術の分類
尿道形成術の分類

尿道形成術(Urethroplasty)には様々な術式がありますが、大まかに①狭い部分を切り取って正常な尿道をつなぎ直す方法(尿道吻合術、Anastomotic urethroplasty)と②尿道の代わりになる何らかの組織(代用組織 substitute)を利用して尿道を修復する方法(代用組織を利用した尿道形成術、substitution urethroplasy)に分類されます1, 2

狭窄の部位と術式の選択
狭窄の部位と術式の選択

尿道形成術の術式は狭窄の状態(狭窄の原因、狭窄部位、狭窄の長さなど)を総合的に判断して決定されます。Anastomotic urethroplasty とsubstitution urethroplastyでは前者の方が手技的にシンプルで、成功率も良好です(anastomotic urethroplastyの成功率は約90%、substitution urethroplastyは約80%です)1-3。さらに、substitution urethroplastyは体のどこかから代用組織を採取しなければならないので、anastomotic urethroplasty よりも患者さんに余分な負担がかかります。Anastomotic urethroplasty の方が成功率が良好で負担も軽いのに、なぜ代用組織を使った手術を選択しなければならないのでしょう?それは、anastomotic urethroplastyが可能な条件が限定されているからです。Anastomotic urethroplasty の適応を制限するのは狭窄の長さと部位です。切除してつなぎなおすことが可能なのは2cmまでが限界です。また、振子部ではどんなに短い狭窄でも、切除してつなぎなおすと陰茎が屈曲してしまいますので、やはり代用組織が必要になります。

術式の選択基準
術式の選択基準

まとめると、2cm以下の短い球部尿道狭窄や後部尿道狭窄ではanastomotic urethroplasty 、それ以外の狭窄ではsubstitution urethroplastyを選択いたします。以下に各手術方法の詳細を解説します。

1. 尿道吻合術(anastomotic urethroplasty)

狭窄部を切り取って正常な尿道をつなぎ直す方法です。狭窄部で尿道を切断して、狭窄部を周囲の尿道海綿体ごと全周性に切除する狭窄部切除・尿道端々吻合術(excision and primary anastomosis、EPA)と、尿道を切断せずに狭窄部のみを切除して尿道海綿体を温存するNon-transecting anastomotic urethroplasty(NTAU)に分類されます。

1-1 狭窄部切除・尿道端々吻合術(excision and primary anastomosis、EPA)

狭窄部の瘢痕が広範囲におよぶ場合に適応となります。具体的には騎乗型尿道外傷や骨盤骨折などの外傷性尿道狭窄が理想的な適応です。足を開いた体位(砕石位)で手術を行います。左下の図で手術方法を解説します。陰嚢から肛門のやや上まで5~6cm程度の皮膚切開をします(①)。尿道を剥離、尿道を切断して狭窄部を切除します(②~④)。残った正常な尿道をつなぎ合わせます(⑤~⑧)。右下はEPAの術前、術後の尿道造影です。術前には矢印のように尿道が完全に閉塞しています。閉塞部は完全に切除してつなぎなおします。矢印がつなぎ目(吻合部)になります。

EPAのイメージ
EPAのイメージ
尿道形成術前後の尿道造影(EPA)
尿道形成術前後の尿道造影(EPA)

1-2 Non-transecting anastomotic urethroplasty (NTAU)

狭窄部の瘢痕が軽度の場合に適応となります。下図 はEPAで切除された尿道組織の断面になります。

尿道狭窄部の断面像
尿道狭窄部の断面像

左は原因不明の特発性尿道狭窄の例、右は外傷性尿道狭窄の例です。赤いインクで囲んでいるのが瘢痕の部分、つまり取り除く必要がある部分になります。右の外傷性狭窄では瘢痕部分の面積が大きく、正常な尿道海綿体がほとんど残っていません。一方、左の例では瘢痕部分の面積が小さく、その周りを覆う尿道海綿体がほとんど正常であることが分かります。以前は左のような例もEPAを行っていましたが、尿道を切断しないで尿道海綿体の血流を温存するNTAUの成功率がEPAと同等で、EPAよりも術後の勃起障害のリスクが低いことから、最近ではNTAUを積極的に行うようになってきました。NTAUの方法は皮膚切開や尿道剥離するところまではEPAと同じですが、尿道海綿体がつながったまま狭窄部のみを切除します。

NTAUのイメージ
NTAUのイメージ

2. 代用組織を利用した尿道形成術(substitution urethroplasty)

頬粘膜と舌粘膜のイメージ
頬粘膜と舌粘膜のイメージ

狭窄の長い(2cm以上)球部狭窄や振子部狭窄では、代用組織を採取して尿道を形成します。海外では頬粘膜や舌粘膜といった口腔粘膜が最も優れた尿道の代用組織として頻用されています3, 4。口腔粘膜の利点は、尿道粘膜と似ていること、粘膜が厚くて丈夫なこと、粘膜が生着しやすいこと、感染につよいこと、採取した創が外からは分かりにくく美容的に優れることです。口腔粘膜は原則的に左右どちらかの頬の裏から採取しますが、ごく少量の粘膜で足りる場合、狭窄が長くて頬の粘膜だけでは足りない場合には舌の裏面から採取します。口腔粘膜以外の代用組織には陰茎包皮があります。代用組織としての性能は口腔粘膜とほぼ同等ですが、包茎手術後などで陰茎包皮の余裕がない方や、陰茎包皮に病変が及んでいる硬化性苔癬の方では口腔粘膜の使用が推奨されています。Substitution urethroplastyは代用組織をパッチとして利用して尿道の内腔を広げるオンレイ法と、代用組織の縫合と管腔形成(尿道の形にすること)を段階的に行う二期的手術に分類されます以下にそれぞれの方法を解説します。

2-1 代用組織を利用したオンレイ法

オンレイ法は左下図のように尿道狭窄部を縦方向に切開(①、②)、狭窄部を切除せずにそのまま残して代用組織をパッチのように縫い付けて内腔を拡張させる方法(③、④)になります。代用組織と尿道粘膜を縫い合わせる必要があるので、狭いながらも尿道の内腔が保たれていて、縫い代が残っている場合のみ可能な方法です。右下図はオンレイ法の手術前後の尿道造影です。狭窄部(左矢印)が代用組織により拡張されているのがお分かりいただけると思います(右矢印)。

オンレイ法のイメージ
オンレイ法のイメージ
尿道形成術前後の尿道造影(オンレイ法)
尿道形成術前後の尿道造影(オンレイ法)

2-2 代用組織を利用した二期的手術

二期的手術は尿道の内腔が極端に狭くて代用組織の縫い代が残っていない場合、内腔が完全に閉塞していて狭窄部の切除が必要な場合、炎症や感染症を併発している場合、硬化性苔癬や尿道下裂の修復術後の狭窄など背景が複雑な方に選択する方法です。まずは狭窄部に代用組織を移植して粘膜がしっかりと生着したことを確認してから、段階的に尿道の形に整えていく方法です。

2-2-1 二期的手術の一期目手術

一段階目(一期目)の手術では、狭窄した部分の尿道を縦方向に切開し、幅が足りない部分に代用組織を移植します(左下図①~③)。尿道の内腔が完全に閉塞している場合は、狭窄部を完全に切除してから代用組織を移植します。狭窄部より膀胱近くの部分に二期目手術までの臨時の尿道口(尿道瘻(ろう)、左下図③)を作成します。術後は代用組織をしっかり生着させるためにガーゼで1週間ほど圧迫固定します(左下図④)。一期目手術が終わった後は、膀胱ろうや尿道カテーテルが不要になり自力排尿が可能になります。しかし、尿の出口が変わるため、立ち小便ができない、尿の方向が定まらないなど、慣れるまでは少々不便です。あらかじめご了承ください。

2-2-1 二期的手術の二期目

一期目手術が終わった後は、二期目手術までは最低でも6ヶ月待つ必要があります。頬から尿道へ移植した代用組織がしっかりと体になじまないと、尿道の管腔形成ができないからです。二期目手術では一期目に移植した代用組織の辺縁だけを切開(左下図⑤)、代用組織を尿道の形に整えます(左下図⑥、⑦)。右下図は二期的手術前後の尿道造影です。狭窄部(左矢印)が代用組織により拡張されているのがお分かりいただけると思います(右矢印)。

二期的手術のイメージ
二期的手術のイメージ
尿道形成術前後の尿道造影(二期的手術)
尿道形成術前後の尿道造影(二期的手術)

3. 尿道会陰ろう造設術(perineal urethrostomy)

尿道会陰ろう造設術のイメージ
尿道会陰ろう造設術のイメージ

前部尿道の全長にわたる狭窄、尿道下裂修復後の狭窄や硬化性苔癬による狭窄、過去に複数回の尿道形成術を行った後の狭窄は極めて難治性で、尿道形成術で元通りの排尿状態を回復することが困難な場合があります。あまり複雑な手術を受けずに膀胱ろうや経尿道的治療から解放されたいと望む方や、他の病気を患っているために長時間の全身麻酔手術が困難な方もいらっしゃいます。そのような場合に有力な手段が尿道会陰ろう造設術です5。尿道会陰ろうとは尿道狭窄部を修復せずに、単純に狭窄部よりも中枢側(会陰部)に新たな尿道口を作る手術です。肛門のすぐ上に尿道の出口ができるため、立って排尿することはできませんが、膀胱ろうや経尿道的治療の煩わしさからは解放されます。EPAやsubstitution urethroplastyのようなフォーマルな尿道形成術に比べて手術時間も短く、短期間で退院可能です。

尿道形成術の合併症について

尿道形成術のほとんどは2~3時間で終わり、輸血はまず必要ありません(私が執刀した尿道形成術で輸血を要した方は1人もいません)。安全で体への負担が少ない手術といえますが、下記のような合併症が起こる可能性がありますので解説いたします。

① 縫合不全
尿道をつないだ部分や代用組織を縫い合わせた部分が完全に治りきっていない状態を指します。尿道カテーテルをしばらく留置しておくことで、自然に治るのを待ちます(ほとんどは1~2週間で治ります)。
② 尿道周囲膿瘍
手術後に会陰や陰嚢部の腫れ、痛み、発熱、尿道の出口(外尿道口)からの排膿が認められます。排膿を促すために創部を切開、洗浄する必要があります。尿道周囲膿瘍を起こしてしまうと、術後に再狭窄するリスクが高くなりますので、手術前の感染対策が非常に重要になります(詳しくは”初診から治療まで”のページをご参照ください)。
③ 手術中の体位に関連する合併症
非常にまれですが、砕石位(足を開いた体位)で長時間の手術を受けた場合に起こる可能性があります。具体的には腓骨神経麻痺、下肢静脈血栓症、コンパートメント症候群といったものがあります。
④ 陰茎の屈曲・変形
手術後に陰茎の屈曲や変形が見られることがあります。極端な屈曲・変形ではありませんが、長い狭窄にEPAを行った場合に起こることがあります。
⑤ 尿失禁
球部、振子部狭窄の手術後に尿失禁が起こることはありません。骨盤骨折による外傷性狭窄の術後に尿失禁を心配される方が多いので少し説明します。男性の尿禁制(尿が漏れないようにすること)のメカニズムには2つの括約筋機能が働いています6。ひとつは膜様部尿道を取り囲んでいる外尿道括約筋、もうひとつは膀胱頸部です。骨盤骨折による外傷性狭窄では外尿道括約筋が損傷をうけると思われていますが、実際には約70~80%の患者さんは尿道括約筋機能が残っています7, 8。仮に外尿道括約筋がダメージを受けていても、膀胱頸部の形態や機能が正常であれば、悩ましい尿失禁になることはほとんどありません8。逆に外傷の影響が膀胱頸部まで及んでいる場合は、手術後に尿失禁になる可能性が高いです。ただし、最近は人工尿道括約筋の埋め込みが保険認可されましたので、たとえ重度の尿失禁になったとしても人工尿道括約筋の埋め込みをすることで尿失禁をコントロールすることが可能です9。詳しくはこちらをご覧下さい。防衛医科大学校病院では尿道狭窄症に対する尿道形成術だけでなく、術後に生じうる尿失禁に対する治療にもしっかり対応しています。
⑥ 勃起障害
術後に一過性の勃起機能の低下が見られることがありますが、術後半年以内にほぼ術前の状態にもどります10-12。骨盤骨折による外傷性狭窄では、外傷の影響で高頻度に勃起障害が見られます13, 14。手術後に勃起機能が手術前より悪化することはまれです(3%程度と報告されています)14
⑦ 口腔粘膜採取の後遺症
手術直後は口腔内に出血が見られることがあります。誤嚥防止のため、出血したものは飲み込まないように注意してください。出血が多い場合にはガーゼの圧迫で止血します。術後は疼痛、不快感がありますが、1週間程度をピークに徐々に改善してきます。我慢できる程度の口のしびれ、こわばりが見られることがありますが、術後半年以内にほぼ改善します15。口が開かなくなる(開口障害)ことはまずありません。
⑧ 代用組織の生着不良
代用組織を利用した二期手術の一期目手術後の患者さんで、縫合した代用組織の一部が生着しないことがあります16。生着不良の部分が大きい場合には、改めて口腔粘膜を縫合する手術を行う必要があります。
⑨ 排尿後の尿滴下
代用組織を利用した手術を行った場合にしばしば(10-20%)見られますが、多くは経過観察可能です。

引用文献

  1. Morey, A. F., Watkin, N., Shenfeld, O. et al.: SIU/ICUD Consultation on Urethral Strictures: Anterior urethra--primary anastomosis. Urology, 83: S23, 2014
  2. Chapple, C., Andrich, D., Atala, A. et al.: SIU/ICUD Consultation on Urethral Strictures: The management of anterior urethral stricture disease using substitution urethroplasty. Urology, 83: S31, 2014
  3. Chapman, D. W., Cotter, K., Johnsen, N. V. et al.: Nontransecting Techniques Reduce Sexual Dysfunction after Anastomotic Bulbar Urethroplasty: Results of a Multi-Institutional Comparative Analysis. J Urol, 201: 364, 2019
  4. Barbagli, G., Kulkarni, S. B., Fossati, N. et al.: Long-term followup and deterioration rate of anterior substitution urethroplasty. J Urol, 192: 808, 2014
  5. Myers, J. B., Porten, S. P., McAninch, J. W.: The Outcomes of Perineal Urethrostomy With Preservation of the Dorsal Urethral Plate and Urethral Blood Supply. Urology, 77: 1223, 2011
  6. Gomez, R. G., Mundy, T., Dubey, D. et al.: SIU/ICUD consultation on urethral strictures: pelvic fracture urethral injuries. Urology, 83: S48, 2014
  7. Andrich, D. E., Mundy, A. R.: The nature of urethral injury in cases of pelvic fracture urethral trauma. J Urol, 165: 1492, 2001
  8. 堀口明男、東隆一、辻田裕二郎、磯野誠、新地祐介、黒田健司、伊藤敬一、浅野友彦: 後部尿道外傷に対する尿道形成術後の尿禁制に関する検討. 日本排尿機能学会雑誌, 25: 304, 2014
  9. 堀口明男、東隆一、濱田真輔、田崎新資、伊藤敬一、淺野友彦: 後部尿道再建後の人工尿道括約筋AMS800埋め込みの経験. Audio-Visual Journal of JUA, 19, 2013
  10. Johnson, E. K., Latini, J. M.: The impact of urethroplasty on voiding symptoms and sexual function. Urology, 78: 198, 2011
  11. Palminteri, E., Berdondini, E., De Nunzio, C. et al.: The impact of ventral oral graft bulbar urethroplasty on sexual life. Urology, 81: 891, 2013
  12. Dogra, P. N., Singh, P., Nayyar, R. et al.: Sexual Dysfunction After Urethroplasty. Urol Clin North Am, 44: 49, 2017
  13. Koraitim, M. M.: Predictors of erectile dysfunction post pelvic fracture urethral injuries: a multivariate analysis. Urology, 81: 1081, 2013
  14. Blaschko, S. D., Sanford, M. T., Schlomer, B. J. et al.: The incidence of erectile dysfunction after pelvic fracture urethral injury: A systematic review and meta-analysis. Arab J Urol, 13: 68, 2015
  15. Barbagli, G., Fossati, N., Sansalone, S. et al.: Prediction of early and late complications after oral mucosal graft harvesting: multivariable analysis from a cohort of 553 consecutive patients. J Urol, 191: 688, 2014
  16. Kozinn, S. I., Harty, N. J., Zinman, L. et al.: Management of complex anterior urethral strictures with multistage buccal mucosa graft reconstruction. Urology, 82: 718, 2013
より詳しい情報をご希望の方はこちら