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MELASによる急変時11歳だったA子さんは、2011年3月で22歳になりま した。しかし、この10年間、筋弛緩剤中毒との誤診故に、ミトコンドリア病としての適切な治療は一切受けていません。ミトコンドリア病の新薬の恩恵を受ける道も断たれているのです。守大助氏同様、A子 さんも誤診・誤判の犠牲者なのです。

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はじめに:いわゆる仙台筋弛緩剤中毒事件は、患者を全く診察していない医師が病気を殺人と誤認したための冤罪でした。それは 筋弛緩剤中毒でも、事件でもなかったのです。しかし、冤罪は、この「事件」の一表象でしかありません。医療訴訟ばかりでなく、裁判における臨 床診断、科学捜査・鑑定のあり方、利益相反など、幾多の重大な問題が、この事件で表出しているのです。

現実世界に対する威力の点では,科学や医療よりも信仰の方がはるかに上です.検察側の麻酔科教授が筋弛緩剤中毒である,弁護側の麻酔科教授 が筋弛緩剤中毒ではないと主張が真っ向から対立する時に,筋弛緩剤のきの字も知らない裁判官に,「筋弛緩剤中毒に決まってるじゃないか,これ が筋弛緩剤中毒でないと言う奴は頭が狂ってる」という判決文を書かせる力は,信仰以外の何物でもありません.地動説にせよ,進化論にせよ,今 でもほんのごく一部の連中の研究費稼ぎのネタにしかなりません.天動説を一生信じて,全ての生き物は神が作ったと一生信じて生きていた方が. ずっと幸せになれます.

診断の問題一つ取っても、診察してもいない一人の医師が、司法による誤った医学的判断に対して、臨床の常識を無視して迎合し、誠実な診療を 全て否定しました。それがこの「事件」の本質です。こんなに医者を馬鹿にした話はありません。これは全ての日本の臨床医にとっての問題なので す。この事件を黙認することは誠実な診療の否定に他なりません。誤診が私一人の判断ではなく、誰が見ても誤診だということを、複数の医師、理 想的にはしかるべき学会が検証していく必要があります。

犯罪ではなく、病気だった (司法事故という言葉については→こちら
2000年に仙台市のクリニック(2002年廃院)で筋弛緩剤ベクロニウム(商品名マスキュラックス)を患者の点滴などに混入したとして、1 件の殺人と4件の殺人未遂の罪に問われた元同クリニック勤務の准看護師 守(もり)大助氏は、2008年2月、上告棄却により無期懲役の刑が 確定し、現在千葉刑務所に入っています。しかし、実は、そのような事件はありませんでした。医師が病気を殺人と誤って認定してしまったため に、あたかも事件があったように見えただけでした。

通常、冤罪と言えば、真犯人が別にいるはずですが、この冤罪では、そもそも犯罪が存在しなかったので、真犯人なるものも存在しません。ベク ロニウム中毒とは全く異なる病気を、すべてベクロニウム中毒と誤診したのが、この冤罪の本質です。2001年冒頭の守氏の逮捕から今日まで、この ような冤罪とそれを生んだ誤診がなぜ放置されているのかを、このページで説明していきます。

このページでは、5人のうち、主に11歳女児例について説明していますが、同じくベクロニウム中毒とされた他の4人についても、診療録には ベクロニウム中毒とは全く異なる症状経過と病名しか記載がありません(下記表)。そして私が診療録を検証しても同様に、ベクロニウム中毒を疑 う所見は全くありませんでした。11歳女児例を中心に説明したのは、この例だけが診断が確定しておらず、結果的に劇症型のMELASという診 断困難な例だったからです。他の4例については、研修医レベルでも、ベクロニウム中毒を否定するのは簡単です。→他の4例についての要約

同様の症例
11歳女児MELAS例と極めて類似の症例が、やはり東北大学麻酔科から報告されています。ベクロニウム中毒を疑ったけれども、原因不明の急 性脳症と診断されています。この例でも、突然の心停止、著明な代謝性アシドーシス、高乳酸血症があり、さらにCK高値がありますので、 MELASが強く疑われます。この例は刑事裁判にはなっていません。MELAS見逃しで民事裁判になっているかどうかについては記載がありま せん。
ベ クロニウムおよびミダゾラムの作用遷延と蘇生後意識障害の鑑別に苦慮した1症例。日本臨床麻酔学会誌 2007;27:508-512

ベクロニウム中毒説は、患者を全く診察していない一人の麻酔科医が、5例全てについて口頭で意見を表明しただけのもので、文書が存在しませ ん。ベクロニウム中毒の肝心要の根拠となるはずの医師の鑑定書が全く存在しないのです。信じ難いことですが、事実です。しかも、もう一人の麻 酔科医は、同じ裁判で、ベクロニウム中毒を否定しています。

MELASによる急変時11歳だったA子さんは、2011年3月で22歳になりまし た。しかし、この10年間、筋弛緩剤中毒との誤診故に、ミトコンドリア病としての適切な治療は一切受けていません。ミトコンドリア病 の新薬の恩恵(下記)を受けられないA子さんもまた、誤診・誤判の犠牲者なのです。

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Edison社 ミトコンドリア病治療薬EPI-743がFDA希少薬指定された
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2011年6月8日、Edison Pharmaceuticals社は、遺伝性ミトコンドリア呼吸鎖疾患の治療薬としてEPI-743がアメリカFDA(米国食品医薬品局)に希少薬指定さ れたと発表しました。
EPI-743は容易に中枢神経系に到達し、NQO1(NADPH quinone oxidoreductase 1)を標的とする低分子化合物です。
Edison Pharmaceuticals Announces FDA Grants EPI-743 Orphan Drug Designation
FDA grants ODD to Edison Pharma EPI-743
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   発症時年齢  性別  転帰  診療録の記載 
89歳  女性  死亡  心筋梗塞 
45歳  男性  回復  ミノサイクリンによるアナフィラキシー様反応 
4歳  男性  回復  脳性麻痺、右片麻痺、てんかん発作と痰詰まり 
1歳  女性  回復  てんかん 
11歳  女性  植物状態  急性脳症(原因不明) 

  • 症状・病態 北陵クリニック事件 専門家コメント 季刊刑事弁護  No.71 pp46-48
  • 筋弛緩剤中毒でも事件でもなかった「筋弛緩剤中毒事件」:事件も犯人も いなかっ たのに、病気を殺人と医師が認定したために冤罪が生まれました。一応医師向けに書いていますが、一般市民の方にも、十分ご理解いただけま す。→日 経メディカルオンラインの記事
  • 裁判関係者向けの誤診についての解説:ベクロニウム中毒説は基本的な診断 能力の欠 如と数々の見落としの産物ですが、医師にとってはどんなに明白な誤診でも、一般市民にはわかりにくいものです。
  • なぜミトコンドリア病の見逃しが起こったのか?:一般市民向けの解説 ですが、 ミトコンドリア病の解説と見逃し原因の考察は医師にとっても参考になります。
  • 誤判の構造は医療訴訟と同じ:判決文を検証して
  • ケ アネッ ト症例検討会 (無料登録で閲覧可能。ただし医師のみ):何も専門医でなくても、医師ならば誰でも、「筋弛緩剤中毒 などあり 得ない」と判断できることがわかります。
  • 11歳女児例が英文の症例報告になりました:J Med Cases  2011;2(2):87-90 その和訳
  • 薬物動態に関する山添康氏の証言の誤りと鑑定結果の誤り:11歳女 児例の急 変7日後の尿に20.8ng/mlもの高濃度の未変化体ベクロニウムが検出されたというとんでもない鑑定結果を支持した山添証言はとんで もない計算違いをしていました。
  • 11歳女児例以外の4例における誤診の原因
  • 誤診の本質は正当な診療の否定
  • 司法事故という言葉について
  • ベクロニウムを検出したとする鑑定に科学性はありません
  • まともな鑑定ができなかった理由
  • 幻の事件と誤診・誤判の背景にある二つの信仰:専門家・国立大学・ 教授信仰 と検査・機械信仰
  • エムスリーの 取材記事
  • FES臨床研究における研究倫理と利益相反問題
  • どうしてこんな馬鹿げたことが:練習問題付き!

  • 検察官や裁判官には医療のことはわかりません。ですから、医師が彼らに間違った判断を示せば、冤罪は簡単に成立してしまいます。病気と診断さ れていた5例を、全て殺人行為の対象と誤って認定したのも、その過ちを検証しようとせず、黙認しているのも、私と同じ医師です。しかし、その 過ちによって守氏が千葉刑務所に入っているという悲劇に終止符を打てるのも、やはり医師です。
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