Upshaw-Schulman症候群 |
フォンビルブランド因子の制御因子であるADAMTS13 (A Disintegrin-like and Metalloproteinase with Thrombospondin type 1 motifs 13)活性が先天的に欠損・低下している病態です。血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)の一つで、先天性TTPとも呼ばれます。
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後天性TTPと同じく、Moschcowitzの5徴候は出現します。しかしすべての症例でこの5徴候が揃うわけではなく、また先天性疾患であっても、乳幼児期から出現するものでもありません。高齢になって脳梗塞や心筋梗塞などを初期症状として診断に至る場合や、妊娠を契機に診断に至る例もあります。
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末梢血液像
血小板減少を認めますが、多くは30 x 103/μL、時に10 x 103/μLと著減します。消費性の低下のため、網状血小板比率は上昇し、網状血小板を反映すると言われるIPFの値も上昇します。しかしこれらはTTP特異的反応ではありません。
赤血球系では機械的血管内溶血による貧血を認めます。Hbの低下は溶血の程度によりますが、輸血が必要なほどの低下もあります。網状赤血球数は比率、絶対数ともに増加し、塗抹標本では大小不同や多染性を認めます。破砕赤血球が特徴的所見とされていますが、実際には破砕赤血球が認められない例も経験します。また、TTP以外の症例(肝不全症例など)でも破砕赤血球を認める場合もあります。
基本的には、白血球系に異常を認めませんが、炎症反応のため好中球系が増加している場合もあります。
生化学検査
血管内溶血を反映して、LDやビリルビン値の上昇やハプトグロビンの低下が認められます。また腎機能低下を反映して、BUNやクレアチニンの上昇が認められます。血清カリウム値が上昇している場合もあり、緊急の治療介入が必要な場合もあります。ADAMTS13は低下していますが、TTP以外の症例でも低下する場合があります。基準値以下に低下する症例はしばしば認められます。TTPでは10%未満に低下する症例が多いので、この値が一つの目安になります。またADAMTS13の阻害抗体活性が認められる場合がほとんどですが、抗体力価が極めて低い場合は検出されない場合もあります。
凝固系検査
一般に凝固系の活性化は強くないのでFDPの上昇は軽度です。播種性血管内凝固症候群(DIC)の病態とは明らかに異なりますので、誤診することはありません。しかし単純にDICの診断基準で点数化すると、DICと誤診する場合もあります。フォンビルブランド因子の抗原量や活性は上昇し、特に活性の上昇が顕著です。マルチマー解析を行うと、unusual large multimerが検出される場合がありますが、同検査は保険適応がありません。
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ADAMTS13が著しく低下している場合はTTPとして診断し治療介入を開始するべきです。しかしADAMTS13を院内で測定している施設は少なく、外注検査等に依存しているのが現状です。このため、血小板減少をきたしうる疾患を否定する必要があります。特にITPの除外は極めて重要です。
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様々な疾患・病態で血小板減少を認めます。この中でHITやTMAなどは、頭蓋内出血など生命予後に影響する場合を除いて血小板輸血を慎重に施行しなければなりませんので、その鑑別は極めて重要です。
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ADAMTS13補充のため、新鮮凍結血漿を補充します。ADAMTS13そのものの半減期は2-3日ですが、補充によりフォンビルブランド因子ultra large multimerが分解され減少します。一旦減少したフォンビルブランド因子ultra large multimerは徐々に増加し、血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)の症状が出現しますが、その時点で新鮮凍結血漿を追加します。通常3-4週間おきの投与で制御可能ですが、感染症合併時や妊娠時には投与間隔が短くなります。
血小板輸血は先天性TTP・後天性TTPともに、致死的な出血を認める場合以外は禁忌と考えてください。血小板輸血により、新たな微小血栓が形成され病態が悪化する可能性があります。
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