【血栓性血小板減少性紫斑病とは】
血栓性血小板減少性紫斑病の病態形成機序
ADAMTS13に対する自己抗体
ADAMTS13活性低下
フォンビルブランド因子分解能低下
フォンビルブランド因子large multimer出現
微小血小板血栓形成
消費性血小板減少
微小血栓による物理的溶血
動揺性の神経精神症状
腎機能低下
発熱
先天性TTPの場合は第一段階の反応がない
血栓性血小板減少性紫斑病(Thrombotic Thrombocytopenic Purpura; TTP)は、血栓性微小血管症(TMA)の一種でフォンビルブランド因子の制御因子であるADAMTS13 (A Disintegrin-like and Metalloproteinase with Thrombospondin type 1 motifs 13)活性の低下が病態形成の本態です。先天的にADAMTS13が欠損・低下している病態があり、アップショー・シュールマン症候群(Upshaw-Schulman症候群:USS)と呼ばれています。これに対して、後天的にADAMTS13に対する自己抗体が形成され、その結果、ADAMTS13活性が低下する病態が後天性TTPです。
ADAMTS13はフォンビルブランド因子を分解し不活化することでその活性を制御していますが、その制御機構は極めて独特です。血栓性血小板減少性紫斑病の病態を理解するためには、このフォンビルブランド因子とADAMTS13の関係について理解する必要があります(→詳細;フォンビルブランド因子の項を参照)。
後天性血栓性血小板減少性紫斑病の病態形成には免疫学的機序が中心的役割を果たしており、その点では特発性血小板減少性紫斑病(ITP)と同じです。このため治療の一部(免疫抑制など)は似ていますが、急性期の治療は全く異なります。特にITPでは施行しても効果は一過性ながら、重篤な副反応が認められない血小板輸血は、TTPでは慎重投与(生命予後に影響する出血のみ)となっており、両者の鑑別は極めて重要です。特にITP溶血性貧血が合併したEvans症候群では、両者の検査所見は似ていますので慎重な判断が必要になります

【臨床症状】
Moschcowitzの5徴候
血小板減少症
破砕赤血球を伴う溶血性貧血
腎機能障害
発熱
動揺性の精神神経症状
Moschcowitzの5徴候が有名な症状です。しかしすべての症例でこの5徴候が揃うわけではありません。
血小板減少症
微小血栓形成に伴い消費性に低下します。このため出血傾向を呈します。点状出血や紫斑が認められる場合があります。
破砕赤血球を伴う溶血性貧血
微小血栓のために、血管内で赤血球の機械的な崩壊がおこります。このため典型的な場合は血管内溶血を示唆する、破砕赤血球が認められます。
腎機能障害
腎臓の微小血管が微小血栓によって閉塞するために発症します。
発熱
特徴的な発熱パターンはありません。
動揺性の精神神経症状
微小血栓に伴う局所循環不全によって起こりますが、単純な血管支配領域では説明つかない様々な症状が出現し、また症状の振れ幅が大きいのが特徴です

【検査所見】
末梢血液像
血小板減少を認めますが、多くは30 x 103/μL、時に10 x 103/μLと著減します。消費性の低下のため、網状血小板比率は上昇し、網状血小板を反映すると言われるIPFの値も上昇します。しかしこれらはTTP特異的反応ではありません。
赤血球系では機械的血管内溶血性による貧血を認めます。Hbの低下は溶血の程度によりますが、輸血が必要なほどの低下もあります。網状赤血球数は比率、絶対数ともに増加し、塗抹標本では大小不同や多染性を認めます。破砕赤血球が特徴的所見とされていますが、実際には破砕赤血球が認められない例も経験します。また、TTP以外の症例(肝不全症例など)でも破砕赤血球を認める場合もあります。
基本的には、白血球系に異常を認めませんが、炎症反応のため好中球系が増加している場合もあります。
生化学検査
血管内溶血を反映して、LDやビリルビン値の上昇やハプトグロビンの低下が認められます。また腎機能低下を反映して、BUNやクレアチニンの上昇が認められます。血清カリウム値が上昇している場合もあり、緊急の治療介入が必要な場合もあります。ADAMTS13は低下していますが、TTP以外の症例でも低下する場合があります。基準値以下に低下する症例はしばしば認められます。TTPでは10%未満に低下する症例が多いので、この値が一つの目安になります。またADAMTS13の阻害抗体活性が認められる場合がほとんどですが、抗体力価が極めて低い場合は検出されない場合もあります。
凝固系検査
一般に凝固系の活性化は強くないのでFDPの上昇は軽度です。DICの病態とは明らかに異なりますので、誤診することはありません。しかし単純にDICの診断基準で点数化すると、DICと誤診する場合もあります。フォンビルブランド因子抗原量や活性は上昇し、特に活性の上昇が顕著です。マルチマー解析を行うと、ultra large multimerが検出される場合がありますが、同検査は保険適応がありません。
【診断】
ADAMTS13が著しく低下している場合はTTPとして診断し治療介入を開始するべきです。しかしADAMTS13を院内で測定している施設は少なく、外注検査等に依存しているのが現状です。このため、血小板減少をきたしうる疾患を否定する必要があります。特にITPの除外は極めて重要です。

【鑑別診断】
様々な疾患・病態で血小板減少を認めます。この中でHITやTMAなどは、頭蓋内出血など生命予後に影響する場合を除いて血小板輸血を慎重に施行しなければなりませんので、その鑑別は極めて重要です。

造血障害
血液疾患
白血病
悪性リンパ腫
骨髄異形成症候群
再生不良性貧血
骨髄繊維症
発作性夜間血色素尿症
巨赤芽球性貧血
骨髄癌転移
薬剤または放射線障害
 
その他の血小板減少性疾患
重症感染症・敗血症
膠原病および関連疾患
TAFRO症候群
脾機能亢進症
血小板輸血慎重投与
特発性血小板減少性紫斑病(ITP)
血栓性微小血管症(TMA)
溶血性尿毒症症候群(HUS)
非定形溶血性尿毒症症候群(aHUS)
その他のTMA
ヘパリン起因性血小板減少症(HIT)
抗リン脂質抗体症候群
播種性血管内凝固症候群(DIC)
 
先天性血小板減少症
Bernard-Soulier症候群
Wiskott-Aldrich症候群
May-Hegglin異常
フォンビルブランド病type2B


【治療】
先天性TTPの治療
ADAMTS13補充のため、新鮮凍結血漿を補充します。ADAMTS13そのものの半減期は2-3日ですが、補充によりフォンビルブランド因子ultra large multimerが分解され減少します。一旦減少したフォンビルブランド因子ultra large multimerは徐々に増加し、TTPの症状が出現しますが、その時点で新鮮凍結血漿を追加します。通常3-4週間おきの投与で制御可能ですが、感染症合併時や妊娠時には投与間隔が短くなります。

後天性TTPの治療
血漿交換
後天性TTPでは、可及的速やかに血漿交換を開始します。血漿交換によってADAMTS13を補充するとともに、ADAMTS13に対する抗体とフォンビルブランド因子のultra large multimerの除去を目的としています。血漿交換が導入される前までは、後天性TTPの致死率は80%と言われていましたが、血漿交換導入後は20%と逆転しています。血小板が正常化するまで継続しますが、血漿交換開始後にはインヒビター力価が上昇し、改善していた血小板数が低下することがあります。
免疫抑制
自己抗体の産生抑制のため血漿交換と並行して免疫抑制を開始します。副腎皮質ステロイドの使用が中心となります。これらの治療が有効ではない、もしくは再発症例では、リツキシマブを使用する場合があります。またエンドキサンなどの併用を行う場合があります。

血小板輸血は先天性TTP・後天性TTPともに、致死的な出血を認める場合以外は禁忌と考えてください。血小板輸血により、新たな微小血栓が形成され病態が悪化する可能性があります。