フォンビルブランド因子
【フォンビルブランド因子とは】
フォンビルブランド因子は分子量が25万の基本となる蛋白質(モノマー)がC末端側でS-S結合した二量体を基本構造とし、さらにこの二量体がN端側でやはりS-S結合し、数分子から数十分子が重合した多量体(マルチマー)として流血中に存在します。フォンビルブランド因子モノマー内に、第VIII因子の結合部(D’D3ドメイン)と血小板の結合部(A1ドメインおよびC1ドメイン)、さらにコラーゲンの結合部(A3ドメイン)が存在しています。このためマルチマー分子中に、複数の結合部位が存在することになります。
通常、流血中ではフォンビルブランド因子は球状形態をとって流れていると考えられています。しかし、外傷などによって血管が傷害されコラーゲンが露出していると、フォンビルブランド因子はコラーゲンと結合し、血管傷害部位に固定されます。さらに一部が固定された状態に血液の「流れ」(shear stress)が作用すると、フォンビルブランド因子は球状から直鎖状に進展すると考えられています。球状から直鎖状に変化すると、それまで分子内に隠れていた多くの血小板の結合部が露出することになり、血小板とフォンビルブランド因子が結合します。血小板はvWFと結合するだけでも活性化を受けますが、この活性化血小板にフォンビルブランド因子が結合ます。この繰り返しにより、フォンビルブランド因子を介して血小板は、凝集・集積・活性化を繰り返し、止血血栓形成の一翼を担います。


【フォンビルブランド因子とADAMTS13】
フォンビルブランド因子を回した血小板の集積・活性化は「流れ」が存在する状態における止血血栓形成には有用な反応ですが、この反応が際限なく続くと、わずかな血管内皮障害であっても、大きな血小板血栓が形成を形成することになります。このため、止血血栓部位ではフォンビルブランド因子を適切に制御する必要がありますが、この制御において重要な役割を果たしているのがフォンビルブランド因子の分解酵素であるADAMTS13です。
ADAMTS13は金属プロテアーゼの一種で、凝固線溶系の多くのプロテアーゼと異なり活性を持った状態で流血中に存在しています(活性を持つ状態で流血中に存在する凝固線溶系のプロテアーゼとして活性型凝固第VII因子やsctPA、uPAなどがありますが、これらは補酵素である組織因子や反応の場であり補酵素であるフィブリン、レセプターであるuPARなどが存在しない場合にはその作用はほとんど発揮されません)。流血中では器質であるフォンビルブランド因子が存在しているものの、球状の形態をとっているため切断部位が球状蛋白質の内部に隠れているため、その分解速度はゆっくりとしたものです。しかし血管内皮傷害部位などで、直鎖状に展開している状態では、切断部位が露出し、またshear stressが作用すると、分子レベルでもフォンビルブランド因子はADAMTS13による分解を受けやすい形態をとります。止血血栓が成長して、血管内腔側に大きくなっていくと、内腔の径が狭くなり「流れ」の速さが早くなり、shear stressが上昇します。その結果、フォンビルブランド因子の分解が促進され、血栓の成長は適切なところで止まります。