【メイ・ヘグリン異常症(MYH9異常症)とは】
巨大血小板を伴う血小板減少および白血球封入体を特徴とする遺伝性疾患です。May-Hegglin異常の類縁疾患と考えられていたSebastian症候群Fechtner症候群およびEpstein症候群が、全て非筋ミオシン重鎖IIA(NMMHC-IIA)蛋白質をコードするMYH9遺伝子の遺伝子変異が原因であることが判明し、包括した疾患概念としてMay-Hegglin異常症、もしくはMYH9異常症と呼ばれる病態が提唱されました。この結果、「May-Hegglin異常」は「May-Hegglin異常症」の一つの表現系であるというややこしいことになっています。混乱を避けるためには「MYH9異常症」という用語を使用した方が良いかもしれません(これはこれで、遺伝子異常を示すのか、疾患を表すのかの混乱を起こしかねませんが)。


【遺伝形式】
常染色体優性遺伝形式をとります。しかし約30%の症例が孤発例と言われています。


【臨床症状】
血小板減少に伴う出血傾向を呈します。多くの症例では血小板減少は5 x 10^3/μL程度ですので、痣ができやすい程度の症状です。Fechtner症候群Epstein症候群では進行性の糸球体腎炎や感音性難聴および白内障などの所謂Alport症状を合併します。というより、May-Hegglin異常にAlport症状を合併した場合をFechtner症候群Epstein症候群と呼びますので、臨床経過中に病名が変化する場合があります。このためMYH9異常症という概念が提唱されました。


【分類】

疾患名 巨大血小板・血小板減少 顆粒球封入体 Alport症状
May-Hegglin異常 あり 明瞭 なし
Sebastian症候群 あり やや不明瞭 なし
Fechtner症候群 あり あり あり
Epstein症候群 あり 同定困難 あり


【検査所見】
巨大血小板が認められる血小板減少が認められます。小児特発性血小板減少性紫斑病との鑑別が問題になりますが、特発性血小板減少性紫斑病では大型血小板は観察されるものの、大多数の血小板は正常大である一方、MYH9異常症では大多数の血小板は大型あるいは巨大であり、正常大血小板はまれです。顆粒球封入体が認められる場合があり、デーレ様小体(Döhle-like body)とも呼ばれます。顆粒球細胞質に1ないし数個認められ,紡錘形でメイ-ギムザ染色(May-Giemsa stain)などで青色に染色さレます。


【治療】
通常、日常生活で問題となる出血傾向はまれで、手術など観血的手技の際に血小板輸血が必要となる場合があります。また待機的手術時にはTPO受容体作動薬が有効との報告もあります。腎機能低下に対してはアンギオテンシン阻害剤がある程度効果を発揮すると言われています。末期腎不全では血小板減少のため人工透析は腎移植などの治療も困難を極める場合もあります。難聴に対しては人工内耳を使用する場合もあります。


【その他】
NMMHC-IIA蛋白質は骨髄巨核球や腎糸球体並びに内耳の有毛細胞で重要な役割を果たしています。このため、一見異なる部位の異常症を合併することになります。MYH9遺伝子の変異部によって腎機能低下や難聴の症状に差があると言われています。
Fechtner症候群やEpstein症候群で認められるAlport症状とAlport症候群とは異なる病態です。糸球体腎炎や感音性難聴および白内障などの症状は共通ですが、Alport症候群はIV型コラーゲンの遺伝子変異で主にX染色体連鎖遺伝形式を示す疾患です。