<診断アプローチの比較>

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診断法 

現在主に用いられている診断法は以下の3つです。
1.    古典的アプローチ
2.    Base Excess法アプローチ
3.    Stewart法アプローチ

基本的な考え


 まず、いずれのアプローチでも二酸化炭素が溶存している血液を重炭酸水溶液と捉えて解釈している点は共通していると考えられます。

重炭酸水溶液では
CO2 + H2O ↔︎ H2CO3 ↔︎ H+ + HCO3-    (1)
HCO3- ↔︎ H+ + CO32-                          (2)
の平衡状態が存在し
[H2CO3]/(溶存[CO2]) = K0        (Eq.1)
[H+]x[HCO3-]/[H2CO3] = K1    (Eq.2)
[H+]x[CO32-]/[HCO3-] = K2      (Eq.3)
K0, K1, K2は各々定数
の関係が成立します。

体温近くで、K0, K1, K2は10^(-3), 10^(-4), 10^(-11)のオーダーであり、
Eq.1とEq.2から得られる
[H+]x[HCO3-]/(溶存[CO2]) = K0xK1    (Eq.4)
は10^(-7)のオーダーと予想されます。
Eq.4から[H+] = K0xK1 x ([CO2])/[HCO3-] 
Eq.3から[H+] = K2 x [HCO3-]/[CO32-]
この2式から[H+]をどのように捉えるかが各アプローチで異なると考えられ、以下のように捉えてよいと思います。
(古典的アプローチとBase Excess法アプローチはpH = 7-8つまり[H+]が10^(-7)のオーダーではEq.3を無視してよいと考える点は共通しています。)

古典的アプローチ >>診断編はこちら  >>進化型はこちら>>たねほん法はこちら


  古典的アプローチでは、
K2<<K0xK1であるので、
[HCO3-]の解離による[H+]への影響([CO32-]による[HCO3-]への共通イオン効果)は無視できるとして、[HCO3-]を中心に代謝性酸塩基異常を診断
>>酸塩基診断篇はこちら
>>「たねほん」法はこちら

Base Excess法アプローチ


  Base Excess法アプローチでは、
溶存[CO2]を炭酸ガス分圧が40 mmHgとし、呼吸性酸塩基異常を相殺した状態での[HCO3-]をもとに代謝性酸塩基異常を診断

Eq.4に基づくHenderson-Hasselbalchの式
pH=6.1 + log([HCO3-]/0.03xPCO2)
で PCO2 = 40として得られた[HCO3-]から以下の式に基づき、血液ガス測定装置で自動計算された値が得られていると考えられます。
Base Excess計算法
    BE   = [HCO3-] - 24.8 +16.8x(pH-7.4)
         = 0.93x{[HCO3-] - 24.4 +14.8x(pH-7.4)}
したがって、基本的には[HCO3-]の正常値を24.4か24.8とした古典的アプローチと考えられます。

Stewart法アプローチ


  Stewart法アプローチでは、
他の陰イオンによる[H+]への共存イオン効果が影響を考慮し、他の陰イオンを強酸群、乳酸、弱酸群 (Alb+Pi)に分けて、また[CO32-]の[HCO3-]への影響も考慮し代謝性酸塩基異常を診断

Stewartは論文で
「Quantitative analysis of ionic solutions in terms of physical and chemical principles has been effectively prohibited in the past by the overwhelming amount of calculation it required, but computers have suddenly eliminated that prohibition.」
と述べているのですが、
Stewartは血液中に多種存在するイオンによる[H+]への共存イオン効果により
pH=pKa + log([HCO3-]/0.03xPCO2)
のpKaが変化し、
血液では、pKa = 6.1としたHenderson-Hasselbalchの式が成り立たないことが、古典的アプローチでの診断精度低下の原因と考え、computerを 使ってこれらの効果も組み込んで診断精度を改善しようとしたのではないかと推察します。しかし、実際問題として血液中のすべてのイオンを組み込むことは不 可能で、血液中の他の緩衝イオンとの濃度比較から考えて、重炭酸が主なイオンである血液は重炭酸緩衝液と捉えて問題ないと思われます。
 古典的アプローチでの診断精度の問題は、診断に用いるアニオンギャップ(AG)に対してアルブミンの電荷が与える影響が大きかったことが原因であったと推 察されます。特に低アルブミン血症によるAG減少の影響が大きく、アルブミン低下を考慮して補正することでStewart法アプローチと同等までに古典的 アプローチの精度が上がることが報告されています。

>>古典的アプローチ診断はこちら >>進化型はこちら