酸塩基診断 代謝性異常の鑑別
一般に現在ではpHから血液の酸塩基状態(アシデミア or アルカレミア)を診断し、
その後に酸塩基異常の原因が代謝性か呼吸性の診断に進むステップに進む診断方法が用いられています。
しかし、その診断は必要なのでしょうか?
救急診療では血液ガス測定を行い呼吸状態に応じた治療を行う必要があるケースが多く血液ガス測定は有用でしょう。では、呼吸器症状を伴わない外来・入院診 療にも血液ガス分析は必要でしょうか?
腎臓疾患や内分泌疾患に伴う酸塩基異常では呼吸性原発異常を診断する必要性は低いと考えてよく、
また、代謝性変化もAG増大型アシドーシスとアルカローシスが合併していることも多く通常の診療では酸塩基診断法の有用性は高くないと考えられます。
>>血液ガス分析に基づく酸塩基異常診断 はこちら
血液中の陽イオンと陰イオンは おおまかに
[Na+] + [NNC]= [Cl-] + [NCA] + 2.5x[Alb] (式1)
(NNC: Na+以外の陽イオン、NCA: Cl-以外の陰イオン)
の関係にあります。
[NCA]にはリン酸等が含まれるのですが、これらの濃度はK+やCa2+, Mg2+等の[NNC]とほぼ同量なので、
[NCA] - [NNC] = [HCO3-]と近似できます。
(式1)を変換すると
[NCA] - [NNC] = [Na+] - ([Cl-] + 2.5x[Alb])
ですから、生化学検査結果から
[Na+] - ([Cl-] + 2.5x[Alb]) を求めると[HCO3-]の近似値が得られるのです。
但し、この[HCO3-]は補正[HCO3-]値([cHCO3-]であることに注意が必要です。
つまり
[Na+] - ([Cl-] + 2.5x[Alb]) = [cHCO3-]
と考えられるのです。
静脈血中の[HCO3-]の正常値は 26 ± 2 なので、
[Na+] - ([Cl-] + 2.5x[Alb]) >28 なら代謝性アルカローシス
[Na+] - ([Cl-] + 2.5x[Alb]) =24-28 なら正常 or AG増大型代謝性アシドーシス
[Na+] - ([Cl-] + 2.5x[Alb]) <24 なら高Cl性代謝性アシドーシス
と診断できます。
>>たねほん方式(cHCO3法)によるステップバイステップ診断 はこちら
更に、近似を用いて、2.5x[Alb] = 10と近似できるので、
おおまかに
[Na+] - ([Cl-] >36 なら代謝性アルカローシス
[Na+] - ([Cl-] =36 なら正常 or AG増大型代謝性アシドーシス
[Na+] - ([Cl-] <36 なら高Cl性代謝性アシドーシス
と診断できます。
AG増大型なので、ステップ方式では診断できるが 「たねほん方式」ではできない(上記参照)。
つまり、「たねほん方式」ではAG増大型代謝性アシドーシスの有無が診断できないことが問題となる。
(「たねほん方式」でも生化学検査で [HCO3-]測定が可能ならこのデメリットはなくなる。
この場合も「たねほん方式」では [Na+] - ([Cl-] ≥36 の ケースでのみ[HCO3-]を測定すればよい。[HCO3-]<26ならばAG増大型代謝性アシドーシスの合併である。)
しかし、AG増大型を診断できないことは、実際にはそれほど問題にはならないと推察される。
何故ならAG増大型代謝性アシドーシスと診断してもその原因が何によるものか(ケトン、乳酸、その他中毒等)を診断する必要があり、病歴や随伴症状から類 推し、測定することでは実際問題として両者に大きな違いはない。
※ AG増大型代謝性アシドーシス
多くはケトアシドーシスか乳酸アシドーシス、その他はサリチル酸塩、メチルアルコール、エチレングリコール、トルエン等の中毒。各種中毒は病歴から類推 するが、日本では遭遇する事は稀であるし、救急対応となるので、血液ガス測定を行う状況であることが殆どである。従って、実際問題としてはケトアシドーシ スか乳酸アシドーシスが鑑別診断に上がる。
ケトアシドーシスは高血糖を合併していることから類推される。
乳酸アシドーシスは末梢の循環不全が原因であることが殆どであり、臨床症状から疑える。
どのタイプのAG増大型代謝性アシドーシスがあるかは現実には臨床所見から疑い確認の測定をしており、AG増大型と診断する必要性は高くないと考えられる。
その後に酸塩基異常の原因が代謝性か呼吸性の診断に進むステップに進む診断方法が用いられています。
しかし、その診断は必要なのでしょうか?
救急診療では血液ガス測定を行い呼吸状態に応じた治療を行う必要があるケースが多く血液ガス測定は有用でしょう。では、呼吸器症状を伴わない外来・入院診 療にも血液ガス分析は必要でしょうか?
腎臓疾患や内分泌疾患に伴う酸塩基異常では呼吸性原発異常を診断する必要性は低いと考えてよく、
また、代謝性変化もAG増大型アシドーシスとアルカローシスが合併していることも多く通常の診療では酸塩基診断法の有用性は高くないと考えられます。
>>血液ガス分析に基づく酸塩基異常診断 はこちら
血液ガス分析を利用しない酸塩基診断
血液中の陽イオンと陰イオンは おおまかに
[Na+] + [NNC]= [Cl-] + [NCA] + 2.5x[Alb] (式1)
(NNC: Na+以外の陽イオン、NCA: Cl-以外の陰イオン)
の関係にあります。
[NCA]にはリン酸等が含まれるのですが、これらの濃度はK+やCa2+, Mg2+等の[NNC]とほぼ同量なので、
[NCA] - [NNC] = [HCO3-]と近似できます。
(式1)を変換すると
[NCA] - [NNC] = [Na+] - ([Cl-] + 2.5x[Alb])
ですから、生化学検査結果から
[Na+] - ([Cl-] + 2.5x[Alb]) を求めると[HCO3-]の近似値が得られるのです。
但し、この[HCO3-]は補正[HCO3-]値([cHCO3-]であることに注意が必要です。
つまり
[Na+] - ([Cl-] + 2.5x[Alb]) = [cHCO3-]
と考えられるのです。
静脈血中の[HCO3-]の正常値は 26 ± 2 なので、
[Na+] - ([Cl-] + 2.5x[Alb]) >28 なら代謝性アルカローシス
[Na+] - ([Cl-] + 2.5x[Alb]) =24-28 なら正常 or AG増大型代謝性アシドーシス
[Na+] - ([Cl-] + 2.5x[Alb]) <24 なら高Cl性代謝性アシドーシス
と診断できます。
>>たねほん方式(cHCO3法)によるステップバイステップ診断 はこちら
通常の補正[HCO3-]の計算から考えてみると
AG = [Na+] – [Cl-] – [HCO3-] (1)
ΔAG = AG - 2.5x[Alb] (2)
(ΔAG:AGと正常値の差)
[cHCO3-] = [HCO3-] + ΔAG
(2)より
[cHCO3-] = [HCO3-] + AG - 2.5x[Alb]
(1)より
[cHCO3-] = [HCO3-] + [Na+] – [Cl-] – [HCO3-] - 2.5x[Alb]
= [Na+] – [Cl-] - 2.5x[Alb]
= [Na+] – ([Cl-] + 2.5x[Alb])
ΔAG = AG - 2.5x[Alb] (2)
(ΔAG:AGと正常値の差)
[cHCO3-] = [HCO3-] + ΔAG
(2)より
[cHCO3-] = [HCO3-] + AG - 2.5x[Alb]
(1)より
[cHCO3-] = [HCO3-] + [Na+] – [Cl-] – [HCO3-] - 2.5x[Alb]
= [Na+] – [Cl-] - 2.5x[Alb]
= [Na+] – ([Cl-] + 2.5x[Alb])
更なる近似
更に、近似を用いて、2.5x[Alb] = 10と近似できるので、
おおまかに
[Na+] - ([Cl-] >36 なら代謝性アルカローシス
[Na+] - ([Cl-] =36 なら正常 or AG増大型代謝性アシドーシス
[Na+] - ([Cl-] <36 なら高Cl性代謝性アシドーシス
と診断できます。
ステップ方式 (Anion Gap法)酸塩基異常診断との比較
- アシデミア or アルカレミア
ステップ方式では測定値から明らか、「たねほん方式」では不明
- 代謝性変化の評価
- 代謝性アルカローシス
ステップ、「たねほん」ともに診断できるが、「たねほん方式」が簡便
- 代謝性アシドーシス
- AG増大型代謝性アシドーシス
ステップ方式では診断できるが、 「たねほん方式」では診断できない。しかし、診断の必要性は疑問(下記参照)。
- 高Cl性代謝性アシドーシス
ステップ、「たねほん」ともに診断可能
- 代謝性アルカローシス+代謝性アシドーシス(AG増大型代謝性アシドーシス)
AG増大型なので、ステップ方式では診断できるが 「たねほん方式」ではできない(上記参照)。
つまり、「たねほん方式」ではAG増大型代謝性アシドーシスの有無が診断できないことが問題となる。
(「たねほん方式」でも生化学検査で [HCO3-]測定が可能ならこのデメリットはなくなる。
この場合も「たねほん方式」では [Na+] - ([Cl-] ≥36 の ケースでのみ[HCO3-]を測定すればよい。[HCO3-]<26ならばAG増大型代謝性アシドーシスの合併である。)
しかし、AG増大型を診断できないことは、実際にはそれほど問題にはならないと推察される。
何故ならAG増大型代謝性アシドーシスと診断してもその原因が何によるものか(ケトン、乳酸、その他中毒等)を診断する必要があり、病歴や随伴症状から類 推し、測定することでは実際問題として両者に大きな違いはない。
※ AG増大型代謝性アシドーシス
多くはケトアシドーシスか乳酸アシドーシス、その他はサリチル酸塩、メチルアルコール、エチレングリコール、トルエン等の中毒。各種中毒は病歴から類推 するが、日本では遭遇する事は稀であるし、救急対応となるので、血液ガス測定を行う状況であることが殆どである。従って、実際問題としてはケトアシドーシ スか乳酸アシドーシスが鑑別診断に上がる。
ケトアシドーシスは高血糖を合併していることから類推される。
乳酸アシドーシスは末梢の循環不全が原因であることが殆どであり、臨床症状から疑える。
どのタイプのAG増大型代謝性アシドーシスがあるかは現実には臨床所見から疑い確認の測定をしており、AG増大型と診断する必要性は高くないと考えられる。