本の紹介

「PASセルフケアセラピィ」

小谷 英文 編著
宇佐美 しおり 共著

PAS心理教育研究所出版部
2,000円(税込)発売中

 本書は,治療機会を自分のために生かすことができず,反治療的な問題をくりかえす患者に対して,セルフケア能力の回復・向上のための介入を,効果的に実践・運用するための具体的な技法書である。
 患者個人への直接的介入に加えて,集団,組織をも分析対象とする総合的介入技法がPASセルフケアセラピィである。

PASセルフケアセラピィ

■書評

岡谷恵子(一般社団法人日本看護系大学協議会)

 本書は、オレム−アンダーウッド理論に基づく「看護介入技法書」で、高度実践看護師(Advanced Practice Nurse、以下APNという)のための実践テキストである。本書の特徴は、タイトルにあるように、看護介入技法をセラピィと称している点であろう。私も最初に見た時には、どうしてセラピィなのかとまず思った。本書を読んで、著者らの意図は理解できた。著者らは、病気や障害の治療と回復過程、そして悪化予防には患者自身のセルフケアの力が必須であるが、セルフケアを支える自我機能に支障のある患者に対しては、意識レベルでの認知や行動の変容を促すケアに加えて、「人格構造に介入するセラピィ的なケアシステム」を開発しなければならないということに思い至ったのである。これは、長い間一貫してオレム−アンダーウッド理論によるセルフケア支援を実践してきた著者の一人である宇佐美氏のAPNの経験から実証的に導き出されたものである。
 オレム−アンダーウッド理論では、患者を理解するための理論として精神力動理論を用いているが、アンダーウッド博士は看護者が患者の心理的内面に介入することを戒め、あくまでもセルフケアの獲得・維持、向上のために意識下での認知や思考、行動に働きかけることが看護ケアであると主張していた。しかし、自我機能の弱さゆえに認知ー行動レベルへの働きかけだけでは回復困難な患者の状況に直面し、それらの患者のセルフケアを促進する援助方法を模索していた宇佐美氏が、PASに出会って、心理力動的療法とセルフケア看護モデルを融合させて開発した介入技法が「PASセルフケアセラピィ」である。
 「PASセルフケアセラピィ」は、APNの実践を想定して開発された介入技法であり、実際に技法を習得するための教育訓練に有効なテキストとなっている。深刻な精神心理的問題を抱えている患者のセルフケア支援において、ケアとキュアを融合した高度な実践を求められるAPNにとって、セルフケア支援を看護者による看護治療技法として体系化したこの介入技法は有用なツールとなるだろう。これからのAPNはもっと治療の領域に看護の視点を持って踏み込んでいく必要があると思う。「PASセルフケアセラピィ」はその試金石となるだろう。
 本書が、APNの教育訓練の場で活用され、実践の場に適用され、検証を重ねてさらに精錬され発展していくことを願っています。

オレムのセルフケアモデル―事例を用いた看護過程の展開 第2版

宇佐美しおり・鈴木啓子・パトリシア・アンダーウッド 著

ヌーベルヒロカワ
2003年

 本書は,慢性疾患患者へのオレムの看護理論,さらに世親障害者へのオレムーアンダーウッドモデルによる事例展開を記載した著書である。セルフケアの看護の展開を基本形を記載している。

オレムのセルフケアモデル―事例を用いた看護過程の展開 第2版

実践オレム─アンダーウッド理論 こころを癒す

著・編:南 裕子

講談社
2005年

 病者に寄り添いセルフケア力を引き出す
 精神を病む人のこころを理解し,自律を重視するセルフケア看護。患者と看護者の信頼関係に基づき,1人1人の患者のニーズに合わせたケアをいかにして行うか。さまざまな症例を通して学び,実践力を身につける。
 うつ病,統合失調症,認知症(痴呆),虐待,中高年クライシス,災害による心的外傷後ストレス(PTSD)など,こころの病とそれにともなうさまざまな問題は複雑化し,ストレスに満ちた現代社会に生きるすべての人に共通のものである。また,がんや慢性病,過敏性腸症候群など,身体の病気とこころは密接な関係にある。患者本人のみならず患者とともに生きる家族のもつセルフケア力を引き出し,生かすためのアプローチを示す本書は,人間重視の精神看護を目指す看護者必読の書。

実践オレム─アンダーウッド理論 こころを癒す

■目次
1章 病者のこころとセルフケア看護
2章 身体の病気をもつ人とセルフケア看護
3章 精神の病気をもつ人とセルフケア看護
4章 こころの世界と看護
5章 こころの看護専門看護者の役割
付録 精神看護の制度

精神分析的システムズ心理療法ー人は変われるー

小谷英文 著
PAS心理教育研究所出版部

3,500円(税込)発売中

 「PASセルフケアセラピイ」の基礎となるPAS理論について詳細が述べられている。セルフケアを展開する上での精神力動理論としてのPAS理論、衝動や欲求、自我・人格機能、成長発達の理解と介入技法について記載されている。PASセルフケアセラピの著書とともに読んでいただきたい図書である。

精神分析的システムズ心理療法ー人は変われるー