本邦では公的・準公的機関による疫学調査は施行されていませんが、第VIII因子インヒビター(後天性血友病)の1/5程度と考えられています。しかしながら、全く出血傾向を呈さない症例や、一過性にインヒビターが出現する症例も多く詳細は全く不明の状態です。症例報告などでは60歳以上の高齢者(男女とも)が多い様です。また、、第VIII因子インヒビターと同様に基礎疾患として自己免疫性疾患や悪性腫瘍などがある場合の報告もありますが、一方、明らかな原因となる基礎疾患が認められない例の報告もあります。
過去にはウシトロンビンを用いたフィブリンシート(タココンブ)使用後に合併する例が報告されていました(トロンビン製剤中に混入するウシ第V因子に対する交叉免疫性のため)。現在ではヒトトロンビン由来の製剤(タコシート)になっています。 |
それまで認められなかった出血傾向が出現する。
様々な出血症状を呈するが、検査値異常のみで出血傾向を呈さない症例も多い。 まれな出血症状を呈する場合も多い。 |
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出血に対する止血療法と、原因となっている自己免疫反応の抑制を並行して行う必要があります。
【止血療法】
抗体力価が高いため、一般に新鮮凍結血漿は無効です。またバイパス製剤を用いても、その下流にある第V因子が阻害されているため、効果は発揮されません。
血液中の凝固第V因子は、およそ80%が血漿中ですが、残りの20%は血小板のα顆粒中に含まれています。この血小板α顆粒中の第V因子は流血中の抗体と直接触れることはないため、輸血した血小板中の第V因子は、第V因子インヒビター症例に多いても出血部まで運ばれると考えられます。さらに止血部位で血小板が活性化されると放出されるため、局所濃度は上昇するため、第V因子インヒビターにおいては血小板輸血が有効と考えられています。しかし、血小板製剤はその保管の間、室温で振転混和保存を行いますので、その間に脱顆粒が起こり、血小板中の第V因子活性は必ずしも高いものではありません。 【免疫抑制療法】
原因となっている凝固第V因子に対する抗体の産生を抑制することが、治療の本質です(止血療法は対症療法です)。可及的速やかに免疫抑制療法を開始する必要があるものの、インヒビター出現が一過性の症例もあり、全ての症例に免疫抑制まで行う必要があるのかの結論は出ていません。ステロイド1mg/kgを基本としますが、年齢やその他のリスクに応じて減量します。効果が弱い場合はその他の免疫抑制剤の併用を行う場合もありますが、感染症のリスクが増大します。この点も治療経験のある施設、もしくは同施設の助言のもと施行する必要があります。
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