研究成果
プリオン蛋白の180番目のアミノ酸が、バリンからイソロイシンに置換した遺伝子変異(V180I)による、遺伝性クロイツフェルトヤコブ病(CJD)への注意喚起
東京都老人総合研究所・高齢者ブレインバンク 村山繁雄
V180I遺伝性クロイツフェルトヤコブ病(CJD)は、本邦のプリオン遺伝子異常を伴う同疾患では頻度的には最多ですが、遺伝子異常があるにもかかわらず、家族性発症の報告はありません。しかし、特徴的な臨床症状、MRI所見、神経病理学的所見、齧歯類への伝搬実験(この疾患の患者脳をマウスの脳に植え付け、プリオン病が伝搬することを確認する)が陰性である等の特徴を示すため、この遺伝子変異が疾患を引き起こしていることは確実と考えられています。しかし、家族性発症が認められないことは、遺伝子異常を持っていても発症することが極めてまれであることを示しており、この理由は分かっていません。
本年度、この疾患の検討より、臨床的に他のCJDとは異なり、初期には進行がゆっくりで、アルツハイマー病や、レビー小体型認知症の診断を受ける可能性があり、その場合、MRI画像が診断上重要であることが明らかとなりました。一方、CJDと診断されても、進行がゆっくりであるため、ご家族が信じられず、ドクターショッピングをする傾向も認められました。
MRI画像では、拡散強調画像がCJDの診断上重要ですが、本疾患の場合はT2強調画像などでも皮質の高輝度と腫大がとらえられる点(左図)が特徴的と考えられます。この症例では、側頭葉が高輝度を呈しているだけでなく、腫大が認められます。
今年度、本疾患を神経病理学的に検索する機会を得、CJDに特徴的とされる海綿状変化が高度に出現すること(右図)、しかしCJDの原因である異常プリオンの沈着が極めて軽微であることが確認できました。
本疾患の頻度から考え、認知症専門医レベルでも注意が必要と考え、報告しました。