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プリオン病のサーベイランスと感染予防に関する調査研究班

ごあいさつ

 プリオン病はヒトからヒトへ、動物からヒトへ伝播しうる急速進行性で致死的な脳疾患です。その発生状況をサーベイランス(監視)し伝播(感染)を予防することは重要課題です。厚生労働省・指定研究班「プリオン病のサーベイランスと感染予防に関する調査研究班」は2010(平成22)年度に発足し、プリオン病のサーベイランスと感染予防を任務として調査研究を行なっております。2010~2019年度は水澤英洋先生、2020年度からは私・山田正仁が研究代表者を務めております。当研究班に「プリオン病サーベイランス委員会」と「プリオン病インシデント委員会」を設置し、わが国で発症するプリオン病の調査やプリオン病の感染予防対策(インシデント対応や感染予防ガイドラインの作成等)を担っております。

 わが国で初めてプリオン病の全国調査が行われたのは1996年です。1996年、英国からウシ海綿状脳症(BSE)で汚染されたビーフによってヒトへ感染したと考えられる変異型クロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)が報告されたことを契機に、わが国で「CJD等に関する緊急全国調査」(アンケート調査)が行われ、さらに1997~1999年に「CJDおよび類縁疾患調査」が行われました。1999年度からは、厚生労働省「遅発性ウイルス感染症に関する調査研究班」(2002年度からは「プリオン病及び遅発性ウイルス感染症に関する調査研究班」)の中にサーベイランス委員会が設置され、全例実地調査を原則とした前向き調査研究が始まり、2010年度からはサーベイランス委員会は当研究班に引き継がれました [委員長:佐藤 猛先生(1999~2001年度)、山田正仁(2002~2010年度)、水澤英洋先生(2011年度~)]。この間、英国滞在歴を有するわが国初の変異型CJDを発見し(Lancet 2006)、欧米とは異なるわが国のプリオン病の特徴を解明する(Brain 2010)など、世界有数のプリオン病サーベイランスとして発展してまいりました。
 プリオン病のサーベイランスは、サーベイランス委員会と厚生労働省からの委嘱を受けた都道府県のプリオン病担当専門医、国と地方自治体の行政担当者との緊密な連携のもとに行われています。サーベイランス委員会では、全国を10地区に区分した地区担当委員に加え、疫学・データ管理担当、病理検査担当、遺伝子検査担当、脳脊髄液検査担当、画像検査担当、生理検査担当、脳神経外科担当、倫理・遺伝カウンセリング担当の専門委員から構成され、様々なルートで得られた患者さん情報をもとに実地調査を行い、年に2回サーベイランス委員会を開催して、1例ずつ、プリオン病か否か、(プリオン病の場合)プリオン病の病型と診断精度(確実/ほぼ確実/疑い)の判定を行っています。
さらに、当研究班の全面的な協力のもと、プリオン病治療薬の治験等の臨床基盤の形成を念頭において、オールジャパンのプリオン病のコンソーシアムJACOP(Japanese Consortium of Prion Disease)が設立され、全例登録と自然歴研究が実施されております。サーベイランス委員会による調査時に、多くの方々にJACOPの自然歴調査にもご参加いただいております。
 プリオン病のサーベイランスやJACOPの活動に一層のご協力、ご支援をお願い申し上げます。

 プリオン病の感染は大きな社会問題です。わが国では、先に述べました「CJD等に関する緊急全国調査」(1996)でBSE関連の変異型CJDは認められませんでしたが、多数の屍体由来硬膜移植後のCJDが見出され、その後、全世界の硬膜移植後CJD例の約2/3はわが国で発症していることが明らかになりました。医療行為や食品他の環境因子等を介するプリオン病の感染予防が必要です。サーベイランス等でプリオン病患者さんからの2次感染予防のための対応が必要となる事例(インシデント)が時に見出されます。2009年以前は、サーベイランス委員会の協力のもとで厚生労働省が個別に対応してきましたが、2009年度、「プリオン病及び遅発性ウイルス感染症に関する調査研究班」内にインシデント委員会が設置され、2010年度からはインシデント委員会は当研究班に移行しました(委員長:齊藤延人先生)。インシデント委員会では、脳外科手術が行われた後にプリオン病の罹患が明らかになったために、プリオン病対応の感染予防対策がとられるまでの間に同一の手術器具にて手術を受け、プリオン病の2次感染リスクを保有する可能性がある方々への説明やフォローを支援しています。そうした事例のインシデント委員会による追跡調査では、幸い、これまで脳外科手術による2次感染は確認されておりません。

 当研究班では、上記のサーベイランス委員会、インシデント委員会の活動を行い、厚生労働省「プリオン病及び遅発性ウイルス感染症に関する調査研究班」、JACOP、日本医療研究開発機構(AMED)のプリオン関係班等の関連組織と連携しながら、プリオン病の疫学・臨床病態の解明、診断・治療法の向上、感染予防対策等のプリオン病克服のための調査研究やガイドライン作成等の事業を進めてまいります。今後ともよろしくご指導、ご支援をお願い申し上げます。

2020(令和2)年12月

厚生労働行政推進調査事業費補助金(難治性疾患政策研究事業)
プリオン病のサーベイランスと感染予防に関する調査研究
研究代表者 山田正仁

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