新着論文紹介
Mechanisms of action and resistance in histone methylation-targeted therapy
難治性血液がんに対する新しいエピゲノム治療の有効性と作用機序を解明
ジャーナル:Nature(2024)
著者:Yamagishi M. et al.
所属:東京大学大学院 新領域創成科学研究科
URL:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38383791/
要約
成人T細胞白血病リンパ腫(ATL)細胞では、HTLV-1感染とその後の腫瘍化過程においてメチル化ヒストン(H3K27me3)が異常に蓄積し、多数のがん抑制遺伝子が不活性化していること (Blood, 2016)、その原因としてEZH1とEZH2の二つの酵素が重要であること(Cell Rep, 2019)が明らかにされています。本研究では、日本発の新薬であるEZH1/EZH2阻害薬バレメトスタットの臨床試験に参加したATL患者10人を対象に、投薬後の体内でどのような変化が起こるかを遺伝子発現とエピゲノムを同時に解析できる高精度の解析技術を組み合わせて詳細に検討しました。バレメトスタットによってATL細胞のH3K27me3レベルは低下し、抑制されていた多くのがん抑制遺伝子の発現が正常化しました。その結果、多数の遺伝子異常を持つ高悪性度のATL細胞の増殖を長期間抑制し、臨床的効果を示すことが明らかになりました。また長期治療後に発生しやすい薬剤耐性化のメカニズムとして、(1)バレメトスタットが結合するヒストンメチル化酵素複合体の構造が変化する遺伝子変異と、(2)メチル化DNAによるクロマチン構造の再凝集、の2つが重要であることを明らかにしました。これらの情報をもとに、治療効果を予測できるバイオマーカーの探索や、より持続的な治療法の開発を継続する必要があります。また同様の異常を持つ多くのがんに対する新しい治療法への応用が期待されます。
プレスリリース
東京大学大学院新領域創成科学研究科の山岸誠准教授、鈴木穣教授、内丸薫教授らによる研究グループは、エピゲノム異常に対する新しい阻害薬が多くのがん抑制遺伝子の発現を回復させ、治療の難しい血液がん患者に対して持続的な治療効果を示す分子メカニズムの解明に成功しました。
https://www.k.u-tokyo.ac.jp/information/category/press/10804.html