新着論文紹介
Dysregulation of c-Myb pathway by aberrant expression of proto-oncogene MYB provides the basis for malignancy in adult T-cell leukemia/lymphoma cells
Proto-oncogene MYB遺伝子発現異常によるc-Myb経路撹乱がATL細胞悪性化形質を規定する
ジャーナル: | Clinical Cancer Research (Published Online First November 2, 2016) doi: 10.1158/1078-0432.CCR-15-1739 |
著者: | Kazumi Nakano1, Kaoru Uchimaru1,4, Atae Utsunomiya2, Kazunari Yamaguchi3, and Toshiki Watanabe1,5 |
所属: | 1.東京大学大学院・新領域創成科学研究科・メディカル情報生命専攻、2. 公益財団法人慈愛会・今村病院分院、3. 国立感染症研究所・血液・安全性研究部、4. 東大医科学研究所付属病院・血液内科、5. 聖マリアンナ医科大学大学院・先端医療開発学分野 |
URL: | https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/27307595 |
要約
HTLV-1感染CD4+ T細胞がATL細胞へと腫瘍化し、さらに悪性化する過程は、感染細胞内に数十年にわたり様々な遺伝子・分子異常が蓄積して起こる複雑な機構であり、その大部分は未だ明らかになっていない。c-Mybは未分化な血球系細胞の増殖と分化を制御する転写因子で、分化したT細胞での発現量は低い。我々はATL細胞でproto-oncogene MYB遺伝子の発現、特にエクソン9Aを持つMYB-9A mRNA量が、ATLの発症・進展に伴って上昇することを発見し、c-Myb経路の異常な活性化とATL細胞の腫瘍化・悪性化との関係に着目して研究を行った。MYB-9A mRNAにコードされるはc-Myb-9Aは、C末側の自己制御ドメインを大幅に欠損しており、野生型に比べ100倍以上の転写活性を示す。我々はc-Myb-9Aが野生型c-Mybに比べ、様々な標的遺伝子に対して有意に高いプロモーター結合能と転写活性化能を持つこと、野性型には見られない腫瘍形成能を獲得していることを見出した。またc-Myb-9A特異的ノックダウンにより、ATL患者由来細胞株とATL患者PBMCで効果的に細胞死が誘導され、c-Myb-9AがATL細胞の生存維持に関わっていることを示した。最後にc-Myb-9Aが、c-Myb自身、NIK、 AURKA、FoxM1などの標的遺伝子の転写活性を野性型に比べ有意に上昇させ、それによってNF-κB経路の活性化を強く誘導することを明らかにした。
インパクト
本研究結果より、HTLV-1感染細胞のがん化と悪性化に伴って、c-Mybの発現量、特に自己制御ドメインを欠損したc-Myb-9Aの発現量が上昇し、標的遺伝子の過剰な発現亢進を介して、NF-κBの恒常的活性化や細胞増殖が誘導されていることが明らかになった。このようなproto-oncogene MYB遺伝子の異常な発現が、c-Myb経路の過剰な活性化と撹乱を引き起こし、爆発的な自己増殖能というATL細胞形質の維持に深く関与していると考えられる。