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先天性グリコシル化異常症
(Congenital Disorder of Glycosylation,
CDG)の病型
先天性糖脂質欠損症
私たちの身体を構成する細胞の膜表面および細胞質には、種々の糖脂質(多くはスフィンゴ糖脂質)が存在します。その多くは細胞膜の外層に発現して、糖鎖部分を外側に突出させて存在します。多様な構造の糖鎖部位が外来性の糖鎖認識分子と反応し、細胞が外来性の刺激を交換するためのアンテナの役割を果たしています。時には、同じ膜表面に発現する膜分子とも相互作用して、その構造や機能に影響を与えることも知られています。糖脂質の糖鎖構造は、細胞や臓器の発生・分化、代謝状態、炎症の有無、癌性変化など、種々の状態に対応して変化します。その基盤として、糖鎖合成に働く糖転移酵素(遺伝子)の発現が変化することにより、生体の調節と恒常性維持が図られており、その遺伝子の変異は様々な臓器・細胞の異常を招きます。現在、先天性糖脂質欠損症として知られているのは、酸性糖脂質、ガングリオシドの合成に関わる3種の糖転移酵素の欠損症ですが、今後、さらに新規の糖脂質欠損症が発見される可能性があります。
症状
GM3合成酵素遺伝子欠損症(ST3GAL5欠損)
先天性てんかん、重度の知的障害、成長障害、感情不安定、舞踏病様運動失調、視覚障害(視神経萎縮および脳皮質の異常による)、皮膚色素沈着異常(ソルト&ペッパー症候群)、精神発達遅滞、筋力低下、食欲不振、嘔吐、レット症候群。ほぼ正常に出生するが、約3か月後から異常症状が出現し、1年前後で様々な神経、知覚、発達障害が出現・進展する.
平均寿命は23.5年との報告あり。
GM2/GD2合成酵素欠損症(B4GALNT1欠損)
遺伝性痙性対麻痺、緩徐で比較的遅い発症 (発症年齢2才〜19才. 患者年齢は9才〜67才と広範)。
軽度~中等度の知能障害、運動障害はなし〜重症まで様々. 下肢の可塑性は軽度から重症まで.
骨格異常は無い場合が多い。
男性不妊 (低テストステロン血症, 思春期遅発症などあり)。小脳症状 多くの症例で
nystagmus(眼振)、dysarthria (構音障害) 等がある。Disability score
(障害度) は、中等度が多い。
GD1a/GT1b合成酵素欠損症(ST3GAL3欠損)
痙攣(3~7ヶ月)、知的障害(West症候群)、てんかんによる神経発達障害、自閉症スペクトラム、言語障害。
診断
一般的には、患者の既往歴、主な臨床症状と身体機能検査の所見を総合して、上記の報告されている症状に一致する場合には、標的遺伝子の変異の有無、あるいは全ゲノム配列解析による遺伝子異常の検出が決め手となります。ごく最近、糖脂質異常の疑いのある患者に関しては、遺伝子変異の検討に併せて、末梢血や血球、線維芽細胞などを用いた糖脂質の発現および該当する遺伝子の変異の発現・変異の解析を実施するための準備が進行中です。
原因遺伝子
糖脂質合成に関わる、実際には糖鎖合成に働く糖転移酵素遺伝子の変異によります。これまで報告されているのは、酸性糖脂質の合成に関わる、GM3合成酵素遺伝子(ST3GAL5)、GM2/GD2合成酵素遺伝子(B4GALNT1)、GD1a/GT1b合成酵素遺伝子(ST3GAL3)の変異です。一方、中性糖脂質であるGb3合成酵素欠損、Gb4欠損症も存在しますが、主に赤血球に発現する構造であり、変異症とまでは呼ばれていません。しかし、妊婦に関しては時に深刻な影響が見られることがあります。
治療
現在、発見されている症例数が少なく、治療に関する十分なデータがありませんが、多くは対症療法に終始しています。最近、欠損している酵素の遺伝子補充治療の基礎的検討が進められており、オーソドックスなアプローチではありますが、まだ実用化には程遠い状態です。
Link
中部大学 糖鎖生物学研究室
https://www.isc.chubu.ac.jp/glycobiology/