矯正医療メモ

日々の診療や医療に関する報道で気付いたことをこつこつ書き込んでいきます。必ずしもコメントがあるとは限りません。→私が塀の中に来た理由

 
矯正医療における総合診療(別ページ 会計検査院の業績紹介 私の内なるアイヒマン(別ページ) ASDはだまされやすい 精神障害者と触法行為:BMJの論説から 高齢者の反社会的行動と一般市民の受容 道路逆送する認知症はどんなタイプなのか?(別ページ) 万引きの鑑別診断 特別調整制度 成人の学習障害 特異的でない特異的検査 週刊新潮の実名報道 少年鑑別所でのdyslexiaの診断 刑務所でのC型肝炎治療 家族との食事がネットいじめの害から子を守る あれだけタバコにうるさいくせに 鑑別所にて 塀の中でも急速に進む高齢化 福祉の代替施設と化した刑務所 矯正医官不足 囚人の自殺予防に自傷行為の予防/治療が不可欠

会計検査院の業績紹介
刑事施設の被収容者を外部医療機関で受診させる場合に、被収容者の健康に支障を及ぼすなどの特段の事情がない限り、診療点数1点10円の単価により医療費を請求する外部医療機関を受診先とするなど経済性を考慮した選定を行うよう改善させたもの

ASDはだまされやすい
単純な詐欺の被害者になったり,騙されて窃盗犯にさせられたりする少年が時に鑑別所に来る.
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善人か表面的行動で判断  自閉スペクトラム症、京大 Medifax digest 2016/12/1
 対人コミュニケーションが苦手とされる「自閉スペクトラム症」の子どもは、他人の表面的な行動を捉えて、善い人か悪い人かを判断する傾向が強いとの研究結果を京都大や福井大などのチームが29日付の英科学誌電子版に発表した。
 自閉スペクトラム症は他人の悪意を理解するのが難しいとの研究報告があり、チームの米田英嗣・京大特定准教授(認知心理学)は「詐欺被害を防ぐ方法の開発や教育現場に役立つ成果」と話している。
 自閉スペクトラム症は自閉症やアスペルガー症候群などの総称。
 チームは、自閉スペクトラム症と診断された小中学生の男女19人と同症ではない20人(いずれも11~14歳)を対象に研究。善い人、悪い人などの特性を持たせた子どもが登場する物語を読み、善悪を判断してもらった。
 その結果、普段は悪い子という設定の人物が一時的に良い行動を取ると、自閉スペクトラム症ではない小中学生は約70%が「善い子」と答えたのに対し、同症の小中学生では約95%に上った。
 チームは、性格などの特性よりも、一時的で表面的な行動を重視する傾向があるため、悪意の理解が難しくなるとみている。

精神障害者と触法行為:BMJの論説から
Sales B, McKenzie N. Time to act on behalf of mentally disordered offenders. BMJ. 2007 Jun 9;334(7605):1222.

高齢者の反社会的行動と一般市民の受容:参考サイト
そこでキレるか?“暴走老人”が後を絶たない理由:この記事では、原因は貧困だけではないと言いながらも、反社会的行動の背景にある基礎疾患に対してほとんど配慮がない。
NHK クローズアップ現代 犯罪を繰り返す高齢者 ~負の連鎖をどう断つか~:この番組も「刑務所が困っている」というだけで、市民は何を学び、市民は何ができるのかという提案が全くない。
前頭側頭型認知症(FTD)ケアのポイント
幻覚・妄想・誤認:認知症において、しばしば反社会的行動の動機となる幻覚・妄想・誤認について丁寧に解説しています
万引きの鑑別診断
矯正医官という職業柄,特に中高年の窃盗犯の鑑別診断には気を使いますが,塀の外でも,万引きはありふれた犯罪なので,皆様の御参考にと思い,再犯事例と初犯事例に分けて整理してみました.

再犯の場合:再三再四の万引き再犯の場合には,下のの三つを考える必要があります。1と2が合併している事例もあります。
1.軽度の知的障害:自発的なものと,「やってこい」と指示されての犯行の二通りあり
2.生活苦から塀の中に寝食を確保するための意図的事例:万引き以外にも無銭飲食,タクシー料金の踏み倒し等あり
3.クレプトマニア(窃盗依存症):刑事弁護の世界では有名な病態ですが,一部の精神科医を除いて医師の間ではまだまだ知られていません.一般的には拒食症との関係からもわかるように比較的若い世代の女性に多いようですが、クレプトマニア自体があくまで症候名であり,前頭側頭型認知症を含め器質的脳疾患を原因とする続発性・反復性の窃盗症も当然あるわけで,下記のように高齢者で「クレプトマニア」が疑われる時は,当然基礎疾患を見極める必要があります.
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認知症 事件の現場から(2)「誰のもの」区別できず 認知症 日本経済新聞 2015/10/1
 「またあなたですか」。横浜市の百貨店7階の文房具売り場で昨年5月、警備員の女性が声をかけた男(87)のバッグには未精算の絵はがきが入っていた。男はこの3カ月前も文具など約30点を万引きし、警察に通報されたばかりだった。経済的に困窮しているわけではない。有名国立大を卒業、大手物流企業に定年まで勤務した。自宅などの資産は数千万円ある。それなのに、約10年前から万引きを繰り返すようになった。過去に窃盗罪で2回略式起訴され、罰金刑を受けた。妻は「なぜ繰り返してしまうのか」と現実を受け止められない様子という。9月7日、横浜地裁で開かれた男の公判。弁護側は「被告は認知症によって衝動や感情を抑えることができない」と無罪を求めた。認知症は妻も気付かぬうちに進んでいたという。
 警察庁によると、刑法犯の検挙人数が減る一方、65歳以上の検挙者は2013年に約4万6千人と20年前の約5倍。特に万引きが多く、検挙者に占める高齢者の割合は03年の16.5%から、13年は32.7%となった。
 小売店などでつくるNPO法人、全国万引犯罪防止機構(東京)の福井昂理事は「認知症とみられる高齢者が何度も万引きする例が相次いでいる」と指摘する。
 「認知症の人と家族の会」の副代表理事でもある川崎幸クリニック(川崎市)の杉山孝博院長によると、認知症は(1)自分のものと他人のものが区別できない(2)物へのこだわりが強くなる(3)支払い方法を忘れる――といった症状があり、万引きに結びつきやすいという。
 認知症の特徴への理解が広がり、裁判で情状酌量される例も目立ってきた。窃盗罪の執行猶予中に再び万引きしたとして起訴された女性(76)は一審・神戸地裁判決で実刑とされた。だが大阪高裁判決は14年3月、「認知症の影響で万引きをした可能性がある」として執行猶予を付けた。女性は現在、要介護認定を受け、神戸市の介護施設で暮らす。弁護人は「実刑を受けていたら症状が悪化した可能性が高い」と話す。
 「お客様が精算前の食品を開封してしまったらどう対応しますか」。小売り大手イオンは認知症高齢者に対する接客を、従業員がそれぞれ役割を演じる「ロールプレイング」で学ばせる。認知症の客にどう対応すればいいのか相談が相次いだためだ。07年以降の受講者は5万人を超えた。対応を急ぐのは小売業だけではない。警視庁は6月、認知症高齢者による万引きや徘徊(はいかい)に対応するため、約4万6千人の全警察官・職員に「認知症サポーター養成講座」を受けさせると決めた。地域包括支援センター職員らによる授業で、認知症の症状や接し方を学ぶ。
高齢者の犯罪に詳しい追手門学院大学の古川隆司准教授(社会福祉)は「認知症は記憶力や判断能力が欠如していることが多く、刑罰で反省させて再犯を防ぐのは難しい」と指摘。「症状に早く周囲が気づき、外出に付き添うなど孤立させないことが大切だ」と話している。
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万引き初犯の鑑別診断:慎重にならねばならないのは下記のような初犯です.初犯の場合には、誰も「おかしい」と思わずに、逮捕から塀の中まで一直線に進んでしまう可能性も考えられます。塀の中にに入ってからでは,本人はもちろん家族へのダメージが大きく,かつ不可逆的になってしまうので(下記事例でもこのままいけば退職金がパーです)、地 域の警察官が「どうもおかしい.もしかしたら・・・」と思って医師に相談してもらえるように地域の「万引きリテラシー」を向上させる必要があります.関係 者の方々の地道な努力で,道路逆走や交通事故死(末尾の記事参照)の背景にある認知症の存在が認知されるようになったわけですから,万引きの背景に病気が あることを地域で周知するのも十分可能だと思うのです.
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消防署長が万引き=ホームセンターで3000円分―兵庫 (時事通信) 2015年12月26日 23:47
 兵庫県尼崎市は26日、消防署長を務める男性消防監(60)が市内のホームセンターで万引きをしたと発表した。消防監は窃盗の事実を認め、「なぜしたのか分からない」と話しているという。
 同市消防局によると、消防監は午前11時5分ごろ、同市下坂部のホームセンターで、のこぎりと流木、塗料(販売価格計約2970円)を盗んだという。
 持っていたポリ袋に商品を入れる様子を見ていた警備員が呼び止め、110番した。消防監は来年3月に定年退職する予定で、26日は休みだった。同局は「あってはならないことで、深くおわびする」としており、年内にも処分を決める。
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この記事からだけでは,複雑部分発作,一過性全健忘,前頭側頭型認知症のいずれかは何とも言えません.アルツハイマー型認知症も否定できません.しかし、何らの疾患もない健常人が、定年を目前にして2970円の万引きで退職金をパーにするとは誰も信じないことだけは確かです。

参考資料
前頭側頭型認知症(FTD)ケアのポイント
複雑部分発作と万引きの関係に言及した日本語資料→複雑部分発作の社会的側面
複雑部分発作と一過性全健忘の鑑別について


特別調整制度:あなたは納税者の一人として、刑務所の福祉施設化にどう対応したらいいか考えたことがありますか?
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【福岡】出所後の居場所確保へ医療関係者らと連携 精神障害の受刑者 北九州医療刑務所 西日本新聞 2015年11月2日

 北九州医療刑務所(小倉南区)は30日、精神障害がある受刑者が出所した後の受け入れ先探しについて話し合う「社会復帰支援協議会」を開き、社会での「居場所づくり」へ連携を深めていくことを確認した。司法や福祉、医療関係者約60人が参加し、実例も題材に論議を深めた。
 協議会は、家族と疎遠な受刑者が少なくないことから「社会での居場所づくりにつなげ、再犯を食い止めよう」と2013年に設立し、今回が3回目。参加団体は年々増え、民間病院、福祉施設、自治体など約30団体が参加した。
 同刑務所で精神障害のある受刑者は現在115人(男性83人、女性32人)で、罪名は殺人と窃盗が大半を占める。統合失調症や摂食障害の人が多く、薬物治療を受けながら職業訓練を受けている。多くは身寄りがないため、出所日が近づくと特別調整制度を利用するものの、受け入れ先確保は困難なのが現状だ。
 この日の会合では、万引を繰り返して5回服役した30代女性の例が紹介された。知的障害がある女性は統合失調症も患い、路上生活も経験。出所後の行き場がなかったため、同制度を利用して、久留米市の精神科病院に入院したという。
 同刑務所で特別調整を担当する合田舞香福祉専門官は「社会のいろんな支援制度に漏れて、刑務所に来た人は多い。関係機関と顔の見える関係をつくることで少しでも多くの受け入れにつながれば」と話した。

 【ワードBOX】特別調整制度
 刑務所や少年院の入所者のうち、帰る場所のない65歳以上か、障害がある人を対象にして受け入れ先を探す制度。刑務所の社会福祉士などから連絡を受けた保護観察所が対象者を選び、都道府県に原則1カ所ずつある地域生活定着支援センターと連携して福祉施設などにつなぐ。
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【刑のかたち】(8) 手を振り払われても 出所時調整 西日本新聞2012年11月14日 00時30分
 介護スタッフに付き添われ、車いすのまま迎えの車に乗り込んだ70代のサイトウ。体にまひがある。「お世話になりました」。ある施設が引き受け手となり、福岡刑務所から仮釈放となった。刑務官浜田康秀(49)は胸をなで下ろした。「なんとかなった」
 サイトウは別の刑務所で服役中に脳の病気で倒れた。医療刑務所に次いで医療が充実している福岡刑務所に移送されたとき、満期まで4カ月に迫っていた。

 ほぼ寝たきり。おむつの交換もしてもらわないといけない。なのに「孫正義の親戚だ」とうそぶき、職員の言うことを聞かない。
 社会で自活することが難しい高齢者や障害者を受刑中から支援し、出所後の行き先を確保する特別調整のしくみが始まったのは2009年。帰る場所がなく、罪を繰り返す人が救われてきた。サイトウも医療や福祉の助けがないと社会で暮らせない。だが高齢、病気、態度が悪い…と幾重にも問題を抱えた人は特別調整の対象にならないことが多い。受け入れる施設は少なく、調整に時間がかかる上に、仲介する都道府県の地域生活定着支援センターは人手不足だからだ。

 「刑務所として独自に手当てをするしかなかった」と浜田。刑務所の社会福祉士と協力して行き先を探した。
 サイトウのように、特別調整という網からもこぼれる受刑者は少なくない。高齢に加え、精神疾患や覚せい剤中毒、重度の肝炎が合わさる人もいる。「(出所後に)病院や施設に行っても騒いで迷惑を掛ける。理解してもらってなんとか受け入れていただく。すごい手間です」と浜田は言う。

 社会資本整備(PFI)方式の刑務所も同じ悩みを抱えている。高齢者や障害者の「特化ユニット」がある喜連川(きつれがわ)社会復帰促進センター(栃木県さくら市)。
 規律違反ばかりする統合失調症の男がいた。病気を理由に地域定着センターの協力は得られず、引受先が見つからずに満期まで1カ月を切った。
 「このまま出せば、また刑務所に戻ってくる」。共同運営する民間企業の社会福祉士キタノサキ(29)が動いた。知り合いを通して、引き受けてくれる県外の施設を見つけた。
 迎えた出所の日。キタノは刑務官とともに男と車に揺られ、施設に送り届けた。満期出所者が塀を出たあと、同行する権限も義務も刑務所にはない。でも、薬を大量に飲んだこともある男だ。「施設にたどり着けるかさえ不安」と特別に車を手配した。 キタノは言う。「これぐらいしないと、受け入れてくれる所はないのです」

 「面接でいくら説得しても、嫌だっていう人はいます」。1割が高齢者という大分刑務所の幹部は嘆く。特別調整は本人の同意が前提だ。「縛られたくない」と拒めば手出しはできず、何の支援もないままの満期出所となってしまう。
 福岡刑務所にいた30代の知的障害の男もそうだった。服役は6回目。社会福祉士が面接を重ねても「出たら自由に暮らしたい」と言った。手を差し伸べても振り払われる。

 「何とも言えない、無力感があります」こんなやり切れない見送りは、浜田にとっても一度や二度ではない。 (敬称略、片仮名は仮名)

 ▼特別調整制度 刑務所や少年院の入所者のうち、帰る場所のない65歳以上もしくは障害のある人が対象。刑務所の社会福祉士などから連絡を受けた保護観察所が対象者を選び、都道府県に原則1カ所ずつある地域生活定着支援センターと連携して出所前に受け入れ先を探す。法務省の調査では2009年4月~12年3月、対象者879人(高齢473人、知的障害273人など)のうち408人(46%)の調整ができた。各支援センターの職員は4人ほどと少なく、国は12年度から体制を強化した。
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参考資料
法務総合研究所 研究部報告52 知的障害を有する犯罪者の実態と処遇
累犯障がい者の刑事政策的対応に向けた新たな取り組みと課題
【累犯障害者支援基金シンポ】(3)海外の事例報告

成人の学習障害についての私なりのメモ書き(2015/7/24)

1.病態の理解
学 習の基本は、自分の目の前に起こった出来事を糧としてその糧を自分の成長に結びつけていく作業です。学習障害はその作業の過程に障害があります。通常の発 達では、基本に「成長する喜び」が自分にあって(例:子供が鉄棒で逆上がりができるようになる、難しい漢字が書けるようになる)、そこに他者からの評価 (ほめられる、怒られる)が加わって学習が促進されていくのですが、成人になっても継続するような学習障害例では、この、基本となる「成長する喜び」が欠 けている事例が多く見られます。

一番の基本となる「成長する喜び」が欠けているので、他者からの評価をどう工夫しても、一時的な効果で終 わってしまったり、その場しのぎのとりつくろい、嘘でごまかしてしまったりすることになります。成人になっても継続するような学習障害例では、他者からの 評価を厳しくやっても結局はその場限りで終わるので、教育抵抗性、つまり教育効果を期待することがしばしば非常に困難です。

なお、学習障 害者自身は、しばしばごまかしや嘘がばれているとは思っていません。こちらが何も言わなければ、あるいはこちらの表現が婉曲であれば、「うまくごまかせ た」と思い、そう思うからこそ、嘘やごまかしを繰り返すのです。成人の学習障害例では、こうして学習障害が維持されてきたと思われ、結果的に「虚言癖」の ある人と見なされる事例が数多く見受けられます。

成人学習障害者は、家庭や地域社会では大目に見られて、周囲の人と摩擦を起こすことが少 なくても、職場では様々なトラブルを起こすことになります。特に定型業務以外の業務、日々の柔軟な学習が必須となる業務、対人関係、コミュニケーションが 重要となる接客業、医療・福祉サービス業などでは、成人の学習障害者は大きな問題を起こしがちです。

2.成人の学習障害を診断するのは難しい
学 習障害を呈する成人への対応を考える際には、まず成人の学習障害の診断の難しさを知っておかねばなりません。成人の学習障害の基本は除外診断である。除外 診断とは、漏れの無い鑑別診断リストを作り、一つ一つの診断を除外することによって、最後に残った疾患を適切な診断名とする診断戦略です。成人の学習障害 の診断は、典型的な除外診断であり、発達障害、知的障害、統合失調症、感情障害(うつ病、躁うつ病)、境界型人格障害、あるいはDyslexiaといった種々の障害を除外した後、初めて成立します。

除 外診断は、戦国時代の攻城戦に喩えれば、徐々に外堀を埋めて最後に本丸を落とす戦略であり、現代の探偵小説に喩えれば、容疑者が5人も6人もいる時に、始 めから「犯人はこいつだ!」と決めつけるのではなく、一人一人のアリバイを確認することによって、最後にアリバイのない一人を特定してから、犯行の証拠を 見つけるシナリオとなります。それは派手さがない、地道な根気の要る作業です。

さらに難しい点は、一旦、学習障害の診断が確立したとして も、経過を見ていく過程で、知的障害や発達障害といった、一旦除外した疾患に非常によく似た症状が出現して、医療者を含めた周囲の関係者を当惑させ、時に は診断した医師の技量が疑われることさえある点です。確かに、ある年齢で典型的な学習障害の症状を呈する例が、経過を見ていくと、発達障害に移行していく 例や、統合失調症が発症する例があります。一方で、学習障害者に発達障害や統合失調症によく似た症状が出ても、経過を見ていくと、その症状が消えてしまっ て、典型的な学習障害に戻る例もあるのです。

3.学習障害を呈する成人への対応の基本
上 記のように、学習障害の診断は非常に難しい。ある時点での診断が絶対というわけでもありませんし、障害に基づく日常生活、職場での問題行動も一定ではあり ません。この点を踏まえると、学習障害を呈する成人への対応には、どんな学習障害者のどんな状況にも当てはまる絶対的な回答は存在しないことが理解できる でしょう。そして、その学習障害者に出会ったことのない第三者には(たとえそれがどんな名医であっても)、回答を示せないことも、容易に理解できるでしょ う。学習障害を呈する成人への対応の回答は、学習障害者本人とその本人に関わる人との間にしか存在しないのです。

つまり、学習障害者本が 生活する家庭、仕事をする職場に回答が存在する。学習障害者本人とその本人に関わる人がその回答を探り当てる地道な作業の繰り返しが、学習障害を呈する成 人への対応の基本です。そう説明すると、「そんな難しいこと、できるわけがない」と、まるで、やりたくないからできない理由ばかり探している官僚のような ことを言う人がいます。そういう人は決まって、非常に立派な事業を勝手に想像して、「そんな立派な事業は私にはとてもできません」と勝手に決めてかかって いるのです。

我々は神ではありません。現実世界に生きている平凡な人間なのですから、平凡な人間として、限られた時間、限られた人的資源 の中で、できることは何かを考えればいいのです。特別に難しいことを考える必要は全くありません。障害者であろうとなかろうと、人間が成長していく時の基 本は、失敗の記録(証拠、エビデンス)を残し、その失敗を振り返って次の機会に生かすことです。学習障害を呈する成人への対応の基本も全く同じ事です。こ の地道な作業を繰り返すことで、学習障害者本人ばかりでなく、学習障害を持たない人々も、自分の成長の基本動作を再確認できるのです。

特異的でない特異的検査
食 物アレルギーは少年鑑別所ではしばしばお目にかかる疾患である.しかし,その診断はしばしば難しい.問題は特異的な指標に乏しいことだ.厳重な食事制限は その子の人生を左右する.自信を持ってその決断ができるほどの特異度を示す検査を私は知らない.私が知っているのは,逆に特異度がサイコロ賭博にも及ばな い検査だけだ.

日本アレルギー学会見解 血中食物抗原特異的IgG抗体検査に関する注意喚起
日本小児アレルギー学会見解 血中食物抗原特異的IgG抗体検査に関する注意喚起
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食物アレルギー 高額な血液検査 「科学的根拠なし」NHK 2015年5月28日
  「慢性疲労などの原因となる食物アレルギーが診断できる」として一部の医療機関で行われている高額の血液検査について、日本アレルギー学会は「科学的に根 拠がなく、健康被害を招くおそれがある不適切な診断が行われている」として注意を呼びかけました。これは日本アレルギー学会が28日、東京で市民講座を開 いて呼びかけたものです。
 この血液検査は、免疫機能の指標であるIgGという抗体の値を調べるもので、「疲労や頭痛などさまざまな慢性症状は『遅延型』と呼ばれる食物アレルギーのせいで、その原因となる食品が分かる」などとして一部の医療機関で行われています。
検 査は保険がきかず、中には5万円以上かかったり、特定の食品について食べないよう指導されたりするケースもあるということです。しかし、この抗体は健康な 人の体内にも存在することなどから、欧米の学会などでは「科学的根拠がない」として食物アレルギーの診断には使うべきではないという見解をまとめていま す。
 28日は、厚生労働省の研究班が去年、2000人余りの患者に対して行った調査結果が示され、この検査を基に特定の食品を食べるのをやめて いた人が、大人では17%、子どもでは5%いたことが報告されました。そのうえで学会の見解として、「科学的根拠がなく、検査を基に多くの食品の摂取を制 限すると低栄養などの健康被害を招くおそれもある」として注意を呼びかけました。日本アレルギー学会の斎藤博久理事長は「誤った診断による食事制限は特に 子どもにとっては非常に危険だ。正しい知識に基づく医療が行われるよう呼びかけていきたい」と話しています。
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週刊新潮の実名報道
少年事件の実名報道は、鑑別所に勤める私にとって、正に当事者意識を問われる問題である。「他家の不幸は鴨の味」を地で行き、被害者、その家族、そして身柄を拘束された少年を食い物にする週刊新潮は、新潮社の中でも大赤字媒体として有名で、一連の実名報道も、ネット社会とは無縁の生活を送っている高齢者を標的に売りつける赤字の穴埋め戦略の一環である。もしも大手メディア各社に「自分達は正義の報道をしている」との誇りがあれば、少年を食い物に、法令違反 をしてまでも経営を維持しようとする同誌に対して、ジャーナリズムの風上にも置けないゴミ屑どもとばかりに激しい攻撃を行うだろうと思いきや、全国紙もテレビ局も一切無視している。

こ の沈黙の背景にあるものは何だろうか?「我々のような上品なジャーナリズムは、たかが週刊誌風情に構っていられるか」とお高くとまっているのだろうか?  しかし、従軍慰安婦報道に関して朝日新聞が週刊文春の広告掲載を拒否したように、全国紙といえども週刊誌を相手に本気で喧嘩をすることはいくらでもあるか ら、そのような説明は当たらない.相手構わず落ち度を見つけてそれを攻撃することを生業とする人々の沈黙は,少年法第61条違反への同意に他ならない.こ の実名報道が酒井逸史週刊新潮編集長個人によるヒューマンエラーではなく,メディア一般に共通して内在するシステムエラーである. メディア各社の沈黙はそのことを雄弁に物語っている。

週 刊新潮に対する大手メディアの奇妙な沈黙は、むしろ仲間意識、実は自分たちも犯罪報道をビジネスチャンスとして禄を食む同じ穴の狢(むじな)であると の羞恥心ゆえである。実際、他の報道分野、たとえば医療事故調査制度(事故調)に対する週刊誌と大手メディアのセンセーショナルな報道ぶりを見る限り、そ の間に明確な境界線は認められない。また,少年事件を実名報道するメディアはあっても,数ある冤罪事件に関わった警察官,検察官,裁判官の実名を公開する メディアは,週刊現代が袴田 巌さんの有罪確定に貢献した刑事・検事・裁判官を特定したような、ごく一部の例外を除いて皆無と言ってよい.たとえば,北陵クリニック再審請求審では,担当検察官,裁判官は公文書に名前が載っているにも関わ らず,公開するメディアは一切無い.そもそも報道さえしないのだが.なお,これらの点については別のところで論じることにする。

なお、多くの一般市民はよくご存じのことだろうが、少年犯罪が凶悪化しているというのは、世の中の悪事は全てユダヤ人の仕業だというデマと同様のデマである。
参考資料
武内謙治 少年犯罪は凶悪化しているか 刑政 126巻5号 p72-73

少年鑑別所でのディスレクシアdyslexiaの診断
少 年鑑別所には学習障害LDの診断を受けている子がしばしば来る。知的障害ではなく、発達障害でもなければ学習障害とラベル をつけるぐらいしか手立てが無いというわけなのだろうか。しかし所詮LDはゴミ箱診断名、というより、発熱、頭痛などと同様に症候名に過ぎない。それも決して 中立的な症候名ではない。学習障害とは、「怠け者、劣等生」を体よく言い換えたに過ぎない。学習障害とラベルをつけて何かが解決するわけでもないし、より 適切な療育が見えてくるわけでもない。
そういう時に、「漢字の読み書きが特に苦手」という症状に注目し、dyslexiaが見えてくれば、より特異的な療育・対応、そして家族、学校、 地域社会の理解が得られる。そうすれば、今まで怠け者、劣等生のラベルを貼られ続けてきた本人の自己評価を高めることが可能となり、立派な社会人 として地域に貢献できる可能性が極めて高くなる。

キーワード:発達性読み書き障害、(developmental) dyslexia、ディスレクシア

参考資料
怠けてなんかない! ディスレクシア ~読む・書く・記憶するのが困難なLDの子どもたち
dyslexiaの セレブ達

刑務所でのC型肝炎治療

Sovaldiに代表される高額医療が日本の刑務所でどう位置づけられていくのか?
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NY州メディケイドHCV患者6割がGilead社のSovaldi治療を受けうる Biotoday 2014-9-22
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ニューヨーク州の公的医療保険メディケイド受給C型肝炎患者約6万人のおよそ60%がGilead社のC型肝炎ウイルス(HCV)感染薬 Sovaldi処方を優先的に得うる計画が推奨されていると報じられています。進行期の患者や肝疾患、HIV感染、その他のHCV感染関連コン ディションを併発している患者への処方が最優先されるとのことです。この計画の成立には同州の公衆衛生部門の長の承認を要します。
State health officials issue Sovaldi recommendations
http://www.capitalnewyork.com/article/albany/2014/09/8552881/state-health-officials-issue-sovaldi-recommendations
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【アメリカ】1錠10万円の新薬―C型肝炎の囚人にどう対応する
朝日新聞 2014年9月11日 NYタイムズ 世界の話題
http://www.asahi.com/articles/ASG875TXBG87ULPT001.html?iref=comtop_list_int_f01

 アメリカで医療に対する憲法上の権利が保障されている唯一のグループがある。何を隠そう、それは「囚人」である。
 それで今、刑務所行政が大きなジレンマを抱えている。C型肝炎の新しい治療薬がでてきたのはいいが、値段がバカ高いのだ。1錠1千ドル(約10 万円)もする。C型肝炎の囚人は非常に多く、刑務所予算ではとてもまかなえない。では、どうするか。刑務所予算を救うべきか、それとも囚人を助け るべきか―。
 新薬の名は「ソバルディ(Sovaldi)」。1錠1千ドルとは、医療保険会社にとっても、州の低所得者向け医療保険制度(メディケイド)担当 官にとってもびっくり仰天の値段である。
 だが、最も深刻なのは刑務所だろう。なにしろアメリカ国内のC型肝ウイルス保菌者のおよそ3人に1人が留置所または刑務所にいるのだ。その肝炎 患者の囚人たちにソバルディを使えば、刑務所システムは破綻(はたん)するだろう。
 C型肝炎は血液を介して感染するが、アメリカではよく麻薬常習者が静脈に打つ注射針を使い回して感染する。最近の調査では全収監者の17%以上 が感染している、と推定されている。感染するとウイルスが増殖し、肝細胞を破壊、肝硬変や肝臓がんを引き起こす。
 新薬ソバルディは、従来の治療に比べて値段も高いが、治癒率は高く、副作用も少ない。しかも治療期間が短くなった。平均的なC型肝炎患者の場 合、治療費は8万4千ドル(約840万円)もかかる。
 アメリカ国内の州刑務所には計約130万人が収容されている。これに加え、連邦刑務所に20万人。計約150万人の一部でもこのソバルディを使 えば、費用は何十億ドルにものぼってしまう。
 「新薬を使え、となると膨大、過大、途方もない財政負担になる」。そう語るのはコネティカット州矯正局医療部長のキャスリーン・モラーだ。モ ラーは8月に開かれた全米矯正協会(American
Correctional Association)年次総会(※訳注)でこの問題について話し合う委員会の進行役だったが、全米知事協会や各州 の予算局長などが真剣に話し合った。
 問題はひとえに新薬の価格だ。州の低所得者向け医療保険制度(メディケイド)では薬の割引価格が合法的に認められているが、刑務所システムでは 処方薬は小売値で買うのが一般的だ。ウォールストリート・ジャーナル紙が4月に報じたように、多くの州は新薬の購入を制限したり、囚人たちに提供 しなかったりしている。
 だが、それも難しくなるだろう。囚人への投薬の話はすぐに刑務所の壁を越えて広まり、新薬による治療を施すよう合法的な圧力がかかってくる。そ れがアメリカだ。
 とはいえ、慢性の病気の治療薬が刑務所に常に重大な影響を及ぼすかと言うと、そうも言い切れない。C型肝炎の場合でも、感染から深刻な肝臓障害 に至るまでには30年もかかることがある。だから、出所間近な囚人に投薬しても、本人の健康回復には役立つが、刑務所の医療予算を救うことにはな らない。それがHIV感染者やその他の囚人がよくかかる病気との違いだ。HIV感染した囚人の場合、治療をすれば病気はよくなり、入院の必要もな くなるからだ。
 米連邦矯正局は最近、ソバルディの収監者への配分に関する政策を発表した(連邦の刑務所政策はかなりの度合いで州の刑務所政策のひな型にな る)。それによると、低所得者向け医療保険制度メディケイドと保険会社が、いくつかの制限をつけてソバルディによる治療費を負担する。通常は、メ ディケイドの判定者がどのような治療を必要とするかを決めるとしている。
 「いずれにせよ、われわれは治療を拒否することはできない」。ロードアイランド州矯正局局長A・T・ウオールはそう語る。実際、州刑務所に収容 している10人ほどのC型肝炎患者にソバルディでの治療を始めた。「新薬治療費は現時点では刑務所予算から出してはいない。負債の状況だ。しか し、そうしないと訴訟を起こされ、収監者の健康も悪化する」と言うのだ。ユタ州では、まだソバルディは使用していない。州議会に諮るため、新薬使 用のガイドラインと新基金の設立計画を練っている。
 州刑務所システムに詳しいマサチューセッツ・メディカル・スクールのワーレン・ファーガソン教授の推定によると、州内の刑務所でソバルディ投薬 治療で意義ある効果が出るには500万ドル(約5億円)の経費が必要になる。これに対し刑務所の緊急医療予算は300万ドル(約3億円)だ。「こ れはどの州でもそれぞれ論議を巻き起こしている」と教授は付け加えた。
 囚人たちに高価な投薬治療をほどこすことについては、政治的な問題も絡んでいる。しかし、医療行政当局者の中には、ただ単に収監しておくより新 薬で治療するようがいかに有益であるか、説得しようとしている人もいる。刑務所に収監されている極度の麻薬常習者ですら治療が受けられるとなれば 一般市民の利益にもつながり得る、という研究結果も出ている。
 一方で、注射を使い回す麻薬常習者を治療しても、社会に戻るとさらに病気を広める危険性が高いという疫学研究もある。
 ロードアイランド州矯正局の元医療責任者アン・スポールディングはこう言うのだ。
 「C型肝炎を抑える最良の方法は、現在麻薬を使っている者を治療することだ」(抄訳)

 ※訳注 全米矯正協会総会(American Correctional
Association)の年次総会はホームページによると8月15日から20日まで、ユタ州ソールトレークシティーで開かれた。

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家族との食事がネットいじめの害から子を守る
Biotoday 2014-09-03 - ネットで頻繁にいじめられている思春期若者は精神的/反社会的問題やアルコール/薬物乱用を呈しやすく、その関連は家族との食事(Dinner)の機会が 少ない若者においてより強いことが示されました。 食事をいつも一緒に食べるという比較的シンプルな子育て行為が子にいじめを話させるきっかけをより与えるのかもしれないとエディトリアリストは言っていま す。

Family Dinners May Help Reduce Cyberbullying's Harmful Effects in Teens / Physcian'sFirstWatch
http://www.jwatch.org/fw109239/2014/09/02/family-dinners-may-help-reduce-cyberbullyings-harmful

The Role of Families in Preventing and Buffering the Effects of Bullying. JAMA Pediatr. Published online September 01, 2014. doi:10.1001/jamapediatrics.2014.1627
http://archpedi.jamanetwork.com/article.aspx?articleid=1900476
Cyberbullying Victimization and Mental Health in Adolescents and the Moderating Role of Family Dinners. JAMA Pediatr. Published online September 01, 2014. doi:10.1001/jamapediatrics.2014.1223
http://archpedi.jamanetwork.com/article.aspx?articleid=1900477


あれだけタバコにうるさいくせに
おおっーと、太平洋の向こうでは、受刑者にはタバコOKなの?日本では受刑者は全面禁煙でっせ(その代わり?刑務官は吸い放題ですが)。日本の精神科病棟でかつて患者が喫煙できたのと同じだね。それって、受刑者の「虐待」じゃないの?喫煙者であろうとなかろうと、受刑者に健康被害を与えていることになるんだよ。米国では非喫煙の被収容者から、「受動喫煙で我々の健康が害されている。刑務所内を全面禁煙にしろ!」って抗議運動が起きないの?こういう「規制」の違いも 臨床研究のネタになるかも。
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囚人の喫煙による死亡率は高く、禁煙方針は有益
米国の囚人の喫煙による死亡率や喫煙で失われる生存年は米国一般人より高く、囚人への禁煙の導入は喫煙に関連する死亡率低下と関連することが示さ れました。今回の結果によると禁煙は囚人の健康に有益なようだと著者は言っています。
Prison tobacco control policies and deaths from smoking in United States prisons: population based retrospective analysis. BMJ 2014;349:g4542
http://www.bmj.com/content/349/bmj.g4542
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鑑別所にて
目の前の相手よりも自分の方が知識があって技術があって経験があって知恵があると思うと、その目の前の相手から何も学べなくなる。私はそうはなりたくない。
だから私は鑑別所で「自分は彼らに何をしてあげられるか」とは考えたことがない。一方、私は彼らから学ぶ自信がある。そうすると、彼らには私の学びの姿勢を学んでもらえる。それが彼らに与えられた試練から彼ら自身が学ぶ最も効率いいやり方だと思っている。
学ぶということ

塀の中でも急速に進む高齢化
福祉の代替施設と化した刑務所元衆議院議員→現在訪問介護員の山本譲司さん):下記は抜粋です。
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今、日本社会全体に景気の後退による将来への不安、あるいは凶悪犯罪が起きる中での社会不安などが渦巻いています。そうなると、かつてのナチスド イツのように、障害がある人たちやマイノリティーとなる人たちなどを排除しようとする傾向が高まってきます。いや、実際に、もうすでにわが国は、 そんな動きが始まっているのかもしれません。
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永田町で見えなかったこと。刑務所で見えたこと。
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ある肢体不自由の受刑者が出所を前に「また刑務所に戻って来たい」と言っていました。「僕ら障害者は生まれながらに罰を受けているんだ。例えて言えば、生まれた時に右手切断の刑を言い渡されたようなものだ。だから罰を受けるのは一般社会でも刑務所でもどちらだっていい」。さらに「塀の外よりも刑務所の方がずっと暮らしやすかった」と真顔で語るんです。そう言われたときは、本当にショックでした。自由も尊厳もない刑務所の方が、外の社会より暮らしやすいとは。永田町から見ていた福祉がいかに表面的なものだったかと思い、自分自身が情けなくなりました。
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「岡山刑務所」塀の中の運動会/塀の中の暮らし(来栖宥子さん)
2014年6月に亡くなった外山ひとみさんによる、被収容者の高齢化が進む刑務所の取材記事が紹介されています。
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矯正医官不足

日向正光 塀の中も医師不足

深刻な刑務所の医師不足、打開策はあるか?-有識者検討会・金澤座長インタビュー

キャリアブレイン 2014/1/6
http://www.cabrain.net/management/article.do?newsId=41740
 「ここで何か抜本的な手を打たなければ完全に崩壊してしまう」―。谷垣禎一法相の私的諮問機関「矯正医療の在り方に関する有識者検討会」(座 長=金澤一郎・国際医療福祉大大学院長)は、このような強い危機意識の下、2013年7月から先月19日まで計4回開催された。刑務所や少年院な ど矯正施設の常勤医師は年々減少し、13年4月1日現在、定員332人のところ260人にとどまっている。検討会は、定員の8割に満たない現状を 変えようと、他の医療機関との兼業を広く認め、定年を引き上げるなどの対策を盛り込んだ報告書を今月中にまとめ、谷垣法相に提言する。【丸山紀一 朗】

■矯正医療とは何か
 法務省によると、「刑事収容施設および被収容者などの処遇に関する法律」などには、強制的に身柄を収容する国の責任として、社会の一般水準の医 療を提供することが定められている。常勤医を置く必要があるのは全国の刑務所、医療刑務所、少年刑務所、拘置所、少年院、少年鑑別所など計163 施設。これらに勤める医師は「矯正医官」と呼ばれる国家公務員で、収容されている人の診察、治療、健康管理などを行う。
 給与レベルは民間と比べて低い。人事院調べでは、矯正医官が50歳で月給約78万円であるのに対し、民間の医師は41歳で100万円を超える。 定年は65歳で、68歳まで延長が可能だが、国家公務員法で採用時の上限年齢が65歳とされているため、例えば他の病院を65歳で辞めた後に矯正 医官になることはできない。正規の勤務時間は1週間当たり38時間45分で、1日につき7時間45分が平日5日間に割り振られる。例外的に休日・ 宿日直勤務が発生することもある。
 また、勤務先の矯正施設の長の許可を得れば、自己の医療技術の向上のため、勤務時間内に、他の医療機関などで研修をすることが認められており、 週2、3日、他で働いている。ただし、国家公務員であるため、勤務時間内に報酬が発生する兼業は、公務を上回る公益性があることを示さねばなら ず、またその時間分の給与は減額されるなど、医師の「自由度」が少ない。これらをめぐっては、会計検査院から、実態が研修でなかったり、無許可で 時間内兼業をしていたりする例があったと、11年から毎年指摘を受けていた。

■金澤座長「ようやく解決に向けた絵が描けた」
 法務省によると、矯正医官の数は、03年には定員332人のところ316人であり、欠員は発生していたものの現在ほど困っていなかった。その 後、300人前後で推移していたが、ここ2年間で大幅に減少し、13年は定員の8割を切り、72人もの欠員が出ている。また、常勤医を置かねばな らない計163施設のうち、常勤医がゼロなのは31施設もある。
 有識者検討会は、このような深刻な医師不足の中、昨年7月に初めて開催された。矯正医療が抱える諸問題の解決に向けて、金澤座長のほか、弁護 士、刑務所長、日本医師会の役員など計8人で構成された。キャリアブレインの取材に応じた金澤座長は、今月取りまとめる報告書について、「ここに 書くことは、いずれもまだ絵に描いた餅にすぎない。しかし、いまようやく解決に向けた絵を描くことができた」と、その意義を強調した。
 インタビューの主なやり取りは以下の通り。
-検討会の前に、矯正施設を視察されたとのことですが、どのようなことを感じましたか?
 これまであまりにも知らない世界だったと分かり、大変反省しました。驚いたのは、施設の中は、「普通の医師と患者の関係」を作ることができない 場だということです。これは医療にとっては致命的です。わたしの専門は神経内科ですが、患者の心の中に突っ込んで、色々と聞いてみないと診断に至 りませんが、そういうことができません。なぜなら、被収容者は、とにかく外の人と話がしたいので、大したことのない症状でも大げさに訴えたり、詐 病があったり、下手をすれば恨まれたりなど、色々な問題があるからです。しかし、このような大変な環境でも、志を持って勤めてくれていた医師がこ れまでは300人ほどいたのです。

-矯正施設の医師は常勤の国家公務員である必要があるのでしょうか?
 矯正施設には、国が国民を強制的に住まわせているわけなので、そこで万が一何かが起こった時には、その医師の責任ではなく、国が責任を持つとい う考え方から、医師は国家公務員であるべきということです。これを変えてしまうと、責任の所在が明らかでなくなってしまいます。また、非常勤も同 じで、国が最終的に面倒を見ることができないのです。

-なぜ矯正医官は減少しているのでしょうか?
 問題のきっかけは、「研修」です。例えば、矯正施設に3日間勤めて、あとの2日間は他の医療機関で診療をしたり、本を読んだり、自分を高めるた めであれば何をやってもいいのですが、勤務時間内に報酬をもらうと兼業になってしまいます。医療をしている以上、万が一何かが起こった時に病院が 責任を持つ必要から報酬が発生するのは当然ですが、これまではそれを無理やり「研修」と称して押し込めてきました。この点を、数年前から会計検査 院が指摘してきたわけです。またそもそも、同年齢の民間の医師と比べて、給与が極端に低いです。これらにより、もともと厳しい環境で一生懸命勤務 していた医師たちが逃げ出してしまいました。そしてこれを機会に、矯正医療について改善すべき点がないかを考え直すことになりました。

-検討会ではどのようなことを話し合ったのでしょうか?
 大きく3点ありました。1つ目は矯正医官の待遇改善、2つ目は地域の医療機関との連携強化、3つ目は矯正医官の社会的認知を高めることです。
 待遇改善については、給与水準の改善だけではありません。まず、国家公務員法に例外規定を適用し、勤務時間内の兼業を広く認める体制を整えた り、研修でも報酬を受け取っていいことにしたりしてはどうかということです。この例外規定の構築については、法相と首相が合意すれば可能ですし、 ぜひ進めてもらいたいです。また、定年と採用時の上限年齢を引き上げることです。65歳で他の医療機関を辞めてから矯正医官になることを認めれ ば、かなりいい効果があります。なぜなら、矯正医官には人生経験が重要だからです。さらに、研究テーマによっては研究費を支給することも考えまし た。例えば、仮説ですが、矯正施設からの出所が決まる前後で、被収容者の免疫機能が変わってくるのではないかですとか。矯正施設は、こういう医学 研究ができる場なのです。
 地域医療機関との連携強化とは、一つは矯正施設の外の医療機関で「普通の医療」もできるようにすることです。医療の技能を維持し、高めるために も、これまでの研修制度は過度に抑制的にならないようにすることが必要です。もう一つは、病気によっては、矯正施設の中で診ることができない場合 があるため、それを外部の医療機関が受け入れてくれるかどうかという問題です。たとえ受け入れ先があっても、1人の被収容者を外に出す場合、2人 以上の刑務官が同行しなければならず、もちろん医師も付いて行きます。ただでさえ少ない医師を外に出し、もしも入院になれば刑務官も常駐しなけれ ばならず、多くの問題が伴います。
 矯正医官の社会的認知を高め、リスペクトを形成するのはとても難しいことです。例えばニュースで取り上げられ、多くの人が見てくれるということ が大事ですが、多くのメディアが同時に報道し、同時に忘れられてしまうのは困ります。フェーズを変えながら、色々な機会で、国民にリマインドして くれるということが必要だし、それはわたしたちもどこかで問題提起しなくてはいけないと思います。

-検討会は意義あるものになりましたか?
 報告書の内容の本質を、法務省の方々と法相に実行してもらい、それを見届けなければ、本当に意義があったかどうかはわかりません。報告書に書く ことはいずれも、まだ絵に描いた餅にすぎません。しかし、いまようやく解決に向けた絵を描くことができたのです。また、現時点で何か意義があった と言えるとすれば、検討会を構成した8人が矯正医療の現場を見て、これはひどい状況だと、共通の思いを持ったということです。このままにしておけ ば、矯正医療は本当に崩壊してしまいます。
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囚人の自殺予防に自傷行為の予防/治療が不可欠 BioTodayニュースレ ター 2013年12月24日
英国イングランドとウェールズの囚人の自傷行為の発生状況やそのリスク因子を調べた試験結果が発表されました。女性囚人の方が男性 囚人に比べて自傷行為を起こしやすく(20-24 vs 5-6%)、自傷行為をした囚人は囚人一般に比べて自殺リスクが高いことが示されています。自傷行為の予防と治療は囚人の自殺予防 に不可欠と著者は言っています。
Self-harm in prisons in England and Wales: an epidemiological study of prevalence, risk factors, clustering, and subsequent suicide. The Lancet,

外部リンク
看過されたもう一つの医療崩壊>矯正医官募集と壁の中 (東京日和@元勤務医の日々)

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