バカとAIは使いよう

先日,鑑別所に十代後半の男子が入ってきた.髪は金髪,体ががっちりとしていて,それなりの刺青もある子だったが,入所後の健診の際に,言葉数が少なく表情が硬かったので,まずは型通りに食欲と睡眠について尋ねたところ,食欲は1/3未満の摂取で,不眠だとのこと.それに加え,職員からは戸外での運動の希望(*)もないとのこと.予診票の「死にたくなるような気持ちはありますか?」との問いに対しては「いいえ」とあったのだが,「こいつは・・・」と思って

「まあ,こういうところへ入ってきて,飯を全部食えるわけないし,ぐっすり眠れるってのもおかしな話だよな」

「・・・・・・」

「ところで,今,一番心配なことは・・・・」

(沈黙はそれほど長くなかった.十秒ほどだったと思う)

「・・・・彼女に会えないことです・・・・」

「(よっしゃ!!君は偉い!!後光が差して見えるぜ!!)辛くて,死にたくなっちゃうとかってことは?もし少しでもそういう気持ちがあったら,教えてほしいんだけど・・・」

(言葉が出ずにうなづく・・・)

後は,ぼろぼろこぼれる涙に対処するアイテムが診察室に無く,私が差し出した手持ちのハンカチも彼は受け取らず,付き添いの職員が別室からタオルを取ってきてから,ようやく,以下のように伝えることができた.

「ありがとう.よく教えてくれた.大丈夫.ここは警察とは違う.みんな君の味方だから.みんな君を守るためにいるんだから.君は今,どん底にいると思っているだろう.その通りだ.今がどん底なんだ.だからこれ以上落ちることはない.後は上がるだけだ.そんな君を我々は応援する」

実は鑑別所でも滅多にこういう事例はない.ほとんどの子は自殺念慮を素直に予診票に書いてくれる.それだけに,職員に対しても大変良質な教育になった.

*警察の留置場では戸外での運動の機会などもちろんない.それだけに鑑別所に来る少年の一番の楽しみは戸外での運動である.なのにそれを拒否するのは絶対に病気である.

今や単純作業はAI様にお任せして,我々はこのようなAIなんぞには未来永劫にできない仕事に集中できる.バカとAIは使いようである.いい時代になったもんだ.

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