会長挨拶
「おおきな きが ほしい」に寄せて
背表紙が茶色く変色したセロテープで補強され、中にはこどもの落書きがあちこちにある、古びた絵本「おおきな きが ほしい」。
かおるという男の子が、お母さんにおおきなきがほしいと伝えたところから、かおるの空想の世界が広がる絵本である。かおるのおおきなきは、いもうとのかよちゃんと両親とみんな一緒に抱えても抱えきれないほど太く、町をはるか一望できるほど高い。何本ものはしごをくくりつけのぼる先には、かおるが生活出来るほどの小屋や、見晴台まで木の先のてっぺんにある。
四季折々の色をなす、そのおおきなきには、りすやかけす、やまがらなどいろいろな仲間が集う。夏には小屋で蝉の声を聞きながら、かおるはホットケーキを焼く。秋には葉っぱや小屋の床に落ちたかおるのビー玉、鉛筆、ボタンなどかけすにとっては珍しいものを集めてもっていく。雪降る冬になるとストーブを焚いた小屋にりすがクルミをもって暖をとりにくる。春になれば木に花が咲き、また多くの仲間がやってくる。花の色は空想では何色かまで分からない。そしてかおるのお父さんも小さい頃、同じ想いをもち、おおきなきとなるように、まてばしいの木を庭に一緒に植えて絵本はおしまいとなる。
このおおきなきのように、四季を重ね、たくさんの仲間が集う、確かなPICUがほしい。こどもの未来を遠く見据え、多くの仲間の英知が集う、「おおきなき」こそが私たちの目指す、小児集中治療医学であってほしい。
どこかノスタルジーを感じさせる古びた絵本の落書きは、こどもの頃の私がしたものである。
2021年10月
会長 齊藤 修
(東京都立小児総合医療センター救命・集中治療部 部長)