虐待に苦しむ子どもと家族のために、子どもの治療者・支援者ができること

広瀬 宏之（横須賀市療育相談センター）

木下 直俊（兵庫県中央こども家庭センター医療参事）

痛ましい子どもの虐待死事件が報道されると、日本の一般社会は児童虐待という社会問題があることを思い出します。しかし一度報道が沈静化すると、この問題は、さっと人々の意識の下に沈んでいきます。それは、児童虐待があまりにも悲惨で、解決しがたい問題であるため、長く直視できないからであるように思います。子どもの治療者・支援者の中にも、同じような無力感を感じている方がいらっしゃるかもしれません。
しかし実際には、この10年間で、児童虐待に対応するためのソフトウエア、ハードウエアは、遅ればせながら日本でも徐々に整備されてきました。具体的には、愛着やトラウマに関する研究が進み、それに基づいた見立てと治療的介入が拡がっていること、児童虐待を取り巻く法整備（一時保護開始時の司法審査など）が進みつつあること、社会的養護の改革（家庭養育優先を理念に小舎制と里親委託を促進）、子どもの権利擁護やアドボカシー（社会的養護下の子どもの意見を弁護士など第三者が聞くこと）の推進、児童相談所職員の増員などがあげられます。
本講演で目指すことは（そして私の願いは）、すべての子どもの治療者・支援者・教育者の方に、虐待に苦しむ子どもとその家族を、どう見つけ、どう理解し、どう関わればいいか、誰に助力を求めればいいか、を分かってもらえるようになることです。すでに児童虐待に専門的に関わっている方には、復習となるかもしれませんが、今まで何となくわかっていたことが整理され、明確に理解されるようになることを目指します。
私は病院で働く児童精神科医の立場で、児童虐待の被害者、加害者と約20年関わってきましたが、子どもの治療・親の支援の難しさ、さらに子どもが社会的養護に移ってからの社会資源の乏しさを痛感してきました。児童精神科医師の仲間内では、「児童虐待分野が日本の社会からネグレクトされてるよね。」と自虐的なジョークをよく言っていたものです。しかし、その状況は徐々に変わりつつあると感じますし、さらに変えなくてはなりません。そのスタートは、できるだけ多くの治療者・支援者が児童虐待についての基礎的な知識とノウハウを持ち、苦しんでいる子どもと家族の声を聞き取り、理解できるようになることです。
本講演に少しでも多くの方が興味を持って下さるとうれしいです。

2022年11月12日（土）10：00～12：00
※9：30より受付開始予定

ウインクあいち（愛知県産業労働センター）　2F大ホール

日本小児精神神経学会会員の方は無料
非会員の方は2,000円

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