ワークショップ詳細
【WS1】キャリア・カウンセリングと家族
【WS2】アタッチメントの視点による思春期・青年期の不適応の理解と家族面接
【WS3】医療現場と家族 〜事例検討を通して学ぶ 家族ケアの困り事とその対処法〜
【WS4】離婚と家族 ~子どもにとって好ましい離婚とは~
【WS5】家族療法入門 ~家族療法モデルによる個人と家族そして関係者への支援~
【WS6】ナラティブ・メディスン
【WS7】学校臨床に有用な家族療法の実践
【WS8】喪失と家族
WS1 キャリア・カウンセリングと家族
講師:平木 典子(IPI統合的心理療法研究所 顧問)
【概要】
夫婦の問題であれ、子どもの不登校、引きこもり、摂食障害などにかかわる家族の問
題であれ、それらの訴えにはいわゆる「ワーク・ライフ・バランス」の問題、敢えて言
えば、人がどう生きるかという人生(キャリア)の問題が関わっている。それをかつて
ミニューチンは、「会社と浮気している父、子どもと結婚したような母」と描写した。
このワークショップでは、キャリアを「職業」と受け取っている日本の状況を含め
て、キャリア・カウンセリングという家族心理学の視点から、日本の家族システムの問
題を検討し、支援の方向性を探りたい。
【文献】
平木典子 「展望論文 ライフキャリア・カウンセリングへの道~働くことと家族の
統合を指向する実践から~」In『児童心理学の進歩2015年度版』金子書房
WS2 アタッチメントの視点による思春期・青年期の不適応の理解と家族面接
講師:岡本 吉生(日本女子大学 教授)
北島 歩美(日本女子大学カウンセリングセンター 専任研究員)
上別府 圭子(東京大学大学院家族看護学分野 教授)
池田 真理(東京女子医科大学 教授)
【概要】
アタッチメントとは、「個人が危機に接し、恐れや不安などのネガティブな感情を経
験した時に、他者との近接を通して安心感を回復・維持しようとする傾性」として定義
される。乳幼児研究から始まったアタッチメント理論は、現在では、成人期のメンタル
ヘルスの鍵概念のひとつになっている。
過去にアタッチメント形成に何らかの傷つきがある場合、不安定な内的作業モデルが
形成され、アタッチメントスタイルは不安定型となる。後年に逆境的あるいは強いスト
レスにさらされた場合に、不登校やひきこもり、あるいはゲーム依存や非行といった脆
弱性として現れてくる。問題解決のためには、家族が本人を支援することが必要である
が、そもそもアタッチメントスタイルが家族関係の中で形成されたことを考えると、家
族が適切に対処することは困難であり、問題が慢性化する危険性が高いと言える。この
ような場合、治療者はアタッチメント理論を正しく理解し、不適応を単に個人の問題と
して片づけるのではなく、多世代的・システム論的・家族療法的な視点を持って理解・
対応することが重要である。したがって、治療者は、子どもや親のアタッチメントにつ
いてはもちろん、彼らの周辺環境(配偶者、家族、社会)についても適切にアセスメン
トを行い、状況を改善する力が求められる。
今回のワークショップでは、これまでのアタッチメント・シリーズの一環として思春
期・青年期の不適応に焦点を当て、アタッチメントの基礎理論、アタッチメントの視点
を踏まえた家族療法的なアセスメントやアプローチの方法を、講義や家族ロールプレイ
を交えて学ぶ。
WS3 医療現場と家族〜事例検討を通して学ぶ 家族ケアの困り事とその対処法〜
講師:児玉 久仁子(東京慈恵会医科大学附属病院 家族支援専門看護師)
藤井 淳子(東京女子医科大学病院 家族支援専門看護師)
【概要】
医療現場では、病院から地域へ療養の場を移し、地域包括ケアを推進することが必須
となっている。一方で、少子高齢化による家族構造の変化や地域社会のつながりの脆弱
化などにより、家族や地域の相互扶助機能は低下していると言われる。また、慢性疾患
や複数の疾病を持ち、社会的にも複雑な問題を抱える患者・家族が増加している。こう
した状況から、患者だけでなく家族全体を支援する家族ケアの考え方が求められるよう
なった。
しかしながら、家族をケアしているといっても、家族を患者の資源として対応した
り、個人としての家族ケアに留まっているケースが多く、家族に翻弄されたり対立に発
展することも少なくない。また、医療現場では、患者家族だけでなく、様々な医療従事
者が関わっており、医療者も含めた援助システムの理解が重要である。
本ワークショップでは、医療現場での家族ケアについて紹介し、家族ケアの困難事例
について、家族システム・援助システムの視点から分析を行い、アプローチの方法を検
討したい。
【参考文献】
家族ケアの“困った場面”解決法 システムズアプローチの理解と活用 2019年4月号.
メジカルフレンド社.看護技術
WS4 離婚と家族 ~子どもにとって好ましい離婚とは~
講師:小田切 紀子(東京国際大学 教授)
中村 伸一(中村心理療法研究室)
【概要】
日本では、毎年およそ20万件の離婚があり、その6割近くに未成年の子どもがお
り、毎年20~22万人の未成年の子が親の離婚を経験している。しかし、親にとっての
離婚と子どもにとっての親の離婚は異なる。そこで、親にとっての離婚のプロセス、日
本特有の「家族」から派生する問題について事例を交えて概説する。そして、親の離婚
が子どもに与える影響について、子どもの発達段階にそって説明し、子どもは成長過程
で遭遇した親の離婚をどのように受けとめているのか、離婚後に一方の親と会えなくな
る喪失体験は、子どもの人生にどのような影響を与えるのか、子どもへの調査に求めら
れる専門的スキル、周囲の大人や社会が離婚した子どもたちのために必要な配慮につい
て学ぶ。また、アメリカのファミリーセラピストによる離婚した家族へのセラピーのビ
デオを鑑賞し、日本と海外の離婚・再婚、離婚後の子育てについての相違点と共通点に
ついても理解を深める。
【参考図書】
「ステップファミリーをいかに生き、育むか」ペーパーナウ著・中村伸一監訳,
金剛出版、2015
「離婚と面会交流―子どもに寄り添う支援」小田切紀子・町田隆司共編
金剛出版、2020.3月発刊予定
WS5 家族療法入門 ~家族療法モデルによる個人と家族そして関係者への支援~
講師:児島 達美(KPCL/長崎純心大学)
【概要】
個人の心身の健康にとって良くも悪くも一番大きな影響を与えているのは家族に
他なりません。さらに、家族だけでなく社会生活や人生上での重要な関係者との関わりも
また影響を与えます。同時に、個人のあり方が家族そして重要な関係者にも影響をもたら
します。ですから、個人の支援において家族はもとより重要な関係者にもそれ相応の重み
をもって関わっていくことはごく自然なことです。ところが、このもっとも自然な人々の
間の相互の営みを捉えながら支援していくには、従来の個人中心の心理療法の考え方や方
法だけでは残念ながら限界があります。そこで、本ワークショップでは、これらの限界を
見すえつつ、まずは、家族療法モデルが持っている多様な考え方や方法に馴染んでいただ
くことを目指したいと思います。
WS6 ナラティブ・メディスン
講師:小森 康永(愛知県がんセンター 精神腫瘍科部 部長)
安達 映子(立正大学社会福祉学部 教授)
【概要】
ナラティブ・メディスンとは、シャロン(Charon,R.)らによって2000年よりコロンビ
ア大学ではじまった「物語能力(narrative competence)を通じて実践される医療」をめぐ
るトレーニング・プログラム及び活動プロジェクトの総称です。ナラティブ・メディスンで
は、病いや苦悩を抱える人々の語りを聴くためには物語能力が必要であり、それは物語的訓
練(narrative training)によって高められると考えます。「精密読解(close reading)」と
「クリエイティブ・ライティング(creative writing)」の二つが、このトレーニングの柱と
なっています。
本ワークショップは、ナラティブ・メディスンに様々なバリエーションでこれまで取り組
み展開してきた私たち講師が、原点に戻りつつ、医療従事者はもとより広く対人支援職にと
って「読むこと」と「書くこと」がどのような意味をもつのかを共有し、そのトレーニング
の実際を体験していただくことを意図するものです。具体的には、山崎ナオコーラ著「美し
い距離」(新潮文庫)をテキストとして読み、そこから「パラレルチャート」と呼ばれる患者・
クライエントをめぐる書きものを各自その場で書き、共有するという1日の内容を予定し
ています。
「読むこと」あるいは「書くこと」に興味がある方はもちろん、そうでない方でも取り組
みやすい流れになっていますので、ナラティヴ&ナラティブに関心のある多様な対人支援
職のご参加をお待ちしています。当日使用するテキスト部分は配布しますので特段の準備
は必須ではありませんが、前掲「美しい距離」を通読しておかれると楽しさは倍増するかも
しれません。
WS7 学校臨床に有用な家族療法の実践(定員40名(予定))
講師:坂本 真佐哉(神戸松蔭女子学院大学人間科学部 教授)
赤津 玲子(龍谷大学文学部 准教授)
【概要】
学校臨床では、多くの関係者が登場人物となります。そしてそれぞれが問題を抱えた
「当事者」であり、解決に向けての責任を感じているとも言えます。それだけに様々な方
針が交錯し、時には対立関係に見えることもあるでしょう。
そのようなことは臨床の現場ではとっくに了解しているつもりでも、その込み入った状
況をどのように理解するのか、あるいは関係者にどのように説明するのか、さらにはどの
ように解決すればよいのか、苦慮することも多いと思います。
家族療法は、関係者のありようをコミュニケーションの相互作用として捉える視点です
から、そのような複雑な人間関係が生じる学校臨床の実践には必須の理論であり、方法論
であるといえるでしょう。
当日は、人間関係のありようをシステムや相互作用として理解する視点について、基本
的なものの見方についてお伝えするところから始めたいと思います。さらに、複数の関係
者がそれぞれの意見を持ち、時には対立する(ように見える)局面において、支援者とし
てどのようなお作法でどのように振る舞うのか。そして解決に向けての会話のお膳立てを
どのように作ることができるのかについて、ロールプレイなどを通して実践的に学ぶこと
ができるような機会を提供したいと考えています。みなさんにお会いできるのを楽しみに
しております。
参考文献:
坂本真佐哉(2019)「今日から始まるナラティヴ・セラピー:希望をひらく対人援助」日
本評論社
赤津玲子ほか(2019)「みんなのシステム論:対人援助のためのコラボレーション入門」
日本評論社
WS8 喪失と家族(定員20名) 本ワークショップ参加により、精神神経学会1単位が認定されます。
講師:渡辺 俊之 (渡辺医院 院長)
石井 千賀子(石井家族療法研究室)
【概要】
喪失と家族は切り離せないテーマである。喪失には、死別、離別、離婚、家族メンバーが
難治性疾患や認知症になるといった私達が共通に体験するテーマから、子どもの自立が母親の
喪失体験になったり、定年退職が父親の喪失体験なったりするといった個人的特性が影響する喪失
までさまざまである。
喪失とその回復過程であるモーニングを理解する上で、対象喪失と悲哀の仕事という精神
分析理論は基本的知識として持っていなければいといけない。また別れに伴う、二つの無意識的
罪悪感「サバイバー・ギルト」と「セパレーション・ギルト」も喪失の苦悩の理解に役立つ。
「あいまいない喪失」も重要な概念である。拉致問題や震災行方不明者などの問題(身体
は不存在だが、心にはその存在は生きつづけている)や認知症(身体は存在するが精神が不存在
になる)という人達への支援も家族療法家の役割であろう。
システム理論からさまざまな喪失に直面している状態を理解することは家族全体を捉える
支援していく上で不可欠である。喪失が家族システムにもたらす影響はさまざまな次元で生ずる。
家族内のコミュニケーションの変化、連合の変化、スープラシステムとの関係性の変化、家族の物語
の書き換えなど、喪失が家族に与える意味を知り、家族のレジリエンスを引き出すことが家族支援
では重要になる。
Froma Walshは、喪失と家族の関係性をシステム論の観点から論説した第一人者であり、
彼女がまとめた Living Beyond Lossでは、家族レジリエンスの枠組を提示し、喪失に関与する多く
の人々に読まれている。
新型コロナウィルスの拡散はいつ収まるのかわからない。私たちはかつての生活スタイルを
喪失しかけている。誰も先のことが解らないまま、不安、焦燥、怒りが渦巻いている。この状況こそ
が「あいまいな喪失」と言える。そのなかで前に歩みを進めている家族のレジリエンスに目をむける
ヒントを見つけましょう。
午前:オンライン講義
① 「精神分析と対象関係論の観点から考える喪失と家族」講師 渡辺俊之(参考図書:対象喪失、
小此木啓吾、中央新書)
② 「喪失と家族とレジリエンス」講師 石井千賀子(参考図書:あいまいな喪失と家族の
レジリエンス、黒川・石井他、誠信書房)
③ あいまいな喪失トーク
渡辺俊之と石井千賀子があいまいな喪失体験を語る
午後:ワーク「自身の喪失体験とレジリエンス」
全員がZoom参加し、前半はスモールグループに分かれ、事前に各自が書いてきたジェノグラム
を用いながら、喪失と家族に焦点を当てて話しあいます。当日までA4用紙に書いておいてもらいます
(参考図書:ジェノグラム、金剛出版)。なお、希望する参加者には石井と渡辺がジェノグラムの書き方
を事前に教える時間を設け、Zoomの予行演習にもなります。
当日午後の後半にはワーク体験を全体で共有する予定です。喪失を支援にするセラピスト
にとって「自身の喪失体験を整理」することは家族のレジリエンスを引き出すためにも欠かせません。
【講師プロフィール】
渡辺俊之
東海大学大学教授、高崎健康福祉大学大学院特任教授を経て2018年4月故郷の群馬県で
渡辺医院/高崎西口精神療法研修室を開業。日本家族療法学会認定スーパーヴァイザー、日
本精神分析学会認定スーパーヴァイザーの資格を持ち、現在は医師4名(スカイプ1名)、
臨床心理士5名(スカイプ2名)、養護教諭2名、家族相談士1名への家族療法スーパーヴ
ィジョン。臨床心理士1名に精神分析的精神療法のスーパーヴィジョンを行っている。
家族療法の専門は対象関係論的家族療法とバイオサイコソーシャルアプローチ
著書
『ケアの心理学』(ベスト新書)
『介護者と家族の心のケア』(金剛出版)
『ケアを受ける人の心を理解するために』(中央法規)
『バイオサイコソーシャルアプローチ』(小森康永との共著)
など多数
訳書
『メディカルファミリーセラピー』(金剛出版)
『がん告知、家族が患者を看取る時』(星和書店)
石井千賀子
家族療法家としてTELLカウンセリングで臨床を行う他,石井家族療法研究室でスーパー
ヴィジョンに携わる.青山学院大学卒業.国立精神衛生研究所(現精神保健研究所)で3年
間家族療法の研修を経て,米国Butler大学大学院にて夫婦家族療法の修士号を取得.ルー
テル学院大学と東京女子大学で非常勤講師を務めた.
喪失と家族を研究テーマとする.死別を体験した子どもと家族,がんの再発や難病と向き
合う家族,認知症によりそれまでの関係の変化に戸惑う家族等に,家族システムの視点から
臨床を行う.「災害グリーフサポートプロジェクト(JDGS)」と日本家族療法学会の共催で,
この8年間「あいまいな喪失の事例検討会」を行う.
著書:
『あいまいな喪失と家族のレジリエンス:災害支援の新しいアプローチ』(誠信書房, 2019),
『ミドルエイジの問題:家族療法の視点から』(キリスト新聞社, 2012),
日本家族療法学会編『家族療法テキストブック』所収「自死と家族」(金剛出版, 2013),
『あなたにもできる外国人へのこころの支援:多文化共生時代のガイドブック』所収「国
際結婚では」(岩崎出版,2016)他.
論文:
「あいまいな喪失とリジリアンス」家族療法研究33(1) 38-44