心臓血管外科専門医再認定決定について
今から3年前、東京都内の大学病院に勤務していたA医師は、術者あるいは第一助手として手術に携わった4名の心臓病患者さんが続けて死亡するという医療事故により、平成17年4月19日の心臓血管外科専門医認定機構総会で専門医資格を取り消され、再研修の勧告と再研修後に再申請を認める決定を受けた。
この度A医師より心臓血管外科専門医再認定の申請があり、研修内容および手術技術の審査を行い、その結果、本年4月10日の本機構総会で出席者の全員一致によって、本機構施行細則14条の規定に則り、A医師の心臓血管外科専門医の再認定を決定した。
決定事項は以下のとおりである。
決定事項
- A医師を心臓血管外科専門医として再認定する。
- 認定期間は平成20年1月1日から平成24年12月31日までとする。
- 専門医再認定後も1年間は、基幹修練施設において、修練責任者の指導の下でさらに修練を継続し、その結果を機構に報告する。修練責任者にも修練内容の報告を求める。
- 認定に当たり、審査の結果を報道機関に公表する。
心臓血管外科専門医制度は、患者によりよい医療を提供し、国民に信頼され、健康・福祉の増進に寄与する専門医を育成することが目的である。したがって専門医は、当然のことながら医療安全に配慮するとともに、自らの知識と技量を向上させるためにたえず研鑽することが必要である。A医師には、専門医の名に相応しい診療を行うことを求める。
平成20年4月16日
心臓血管外科専門医認定機構
代表幹事 幕内 晴朗
心臓血管外科専門医再認定について
―記者報告の概要―
心臓血管外科専門医再認定について、過日行われた記者会見概要を報告致します。
日時 : |
2008年4月16日(水)11:00〜12:20 |
場所 : |
心臓血管外科専門医認定機構会議室 |
説明者 : |
三学会構成心臓血管外科専門医認定機構 |
代表幹事 幕内 晴朗 |
同 |
監事 龍野 勝彦 |
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参加報道機関 : |
日本医事新報社 1名、読売新聞 3名、NHK 3名、毎日新聞 1名、朝日新聞 1名、じほう 1名、時事通信社 1名、共同通信 1名、日本経済新聞社 1名(計13名) |
説明の概要 |
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幕内代表幹事から心臓血管外科専門医取り消し医師の資格再認定の件について、説明が行われた。内容は以下の通りである。
東京都内の大学病院に勤務していたA医師は、術者あるいは第一助手として手術に携わった4名の心臓病患者さんが続けて死亡するという医療事故を起こした。大学病院が委嘱した調査委員会の結果を受け、心臓血管外科専門医認定機構では平成17年4月19日の総会で同医師の専門医資格について審議し、資格の取り消しを決定した。この決定には「同医師に対して再研修を受けることを勧告し、再研修の後に再申請を認める」という補足文があった。
この度、A医師より心臓血管外科専門医再認定の申請があり、この補足文に従い本機構では基幹修練施設にての研修内容、指導医の評価書、修練施設における実施調査結果、ならびにA医師が執刀した手術録画記録の技術的検証結果などを慎重に検討した。その結果、本年4月10日の本機構総会で再認定について出席者全員が賛成したので、本機構施行細則14条の規定に則り再認定を決定した。
同医師の心臓血管外科専門医再認定に関する決定事項は以下の通りである。 |
心臓血管外科専門医認定機構決定事項 |
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1. |
A医師を心臓血管外科専門医として再認定する。 |
2. |
認定期間は平成20年1月1日から平成24年12月31日までとする。 |
3. |
専門医再認定後も1年間は、基幹修練施設において、修練責任者の指導の下でさらに修練を継続し、その結果を機構に報告する。修練責任者にも修練内容の報告を求める。
(補足事項)専門医資格を取り消された理由を十分考慮に入れ専門医の再認定をしたので、現時点ではA医師の専門医としての資質には問題はない。ただ、このような再認定は前例がないので、今後の参考にするためしばらくは基幹修練病院で指導医のもとで修練を続け、1年後の報告を求めた。 |
4. |
認定に当たり、審査の結果を報道機関に公表する。
(補足事項)今回の公表をもって終了とする。 |
心臓血管外科専門医制度は、患者によりよい医療を提供し、国民に信頼され、健康・福祉の増進に寄与する専門医を育成することを目的にしている。専門医は、当然のことながら医療安全に配慮するとともに、自らの技量を向上させるために絶えず研鑽することが必要である。A医師には、専門医の名に相応しい診療を行うことを求める。
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詳しい審査の内容と経緯について、龍野監事から説明があった。
1. |
再認定に至るまでの経緯
1) |
A医師は、平成17年4月19日、本機構の決定により心臓血管外科専門医資格の取り消しと再研修の勧告、そして再研修後に再申請を認めるとの決定を受けた後、勤務していた大学病院を辞職し外科手術から離れていた。この度、前記勧告に従い、東京大学病院心臓呼吸器外科教室に再研修を申し込んだ。 |
2) |
平成19年4月26日の本機構総会において、東京大学心臓呼吸器外科の高本眞一教授から、A医師の再研修を開始したい旨の文書が提出された。 |
3) |
平成17年5月以降、本機構では規則の見直しを進めており、その一環として各種資格取り消し後の再認定(復活)についても検討していた。その結果、施行細則第14条が新設された。
(参考、本機構施行細則)
第14条 |
(資格の復活)専門医資格あるいは認定修練施設資格の取り消し又は一時停止の復活は、機構総会で決定する。 |
2. |
上記資格復活の決定には、本機構総会で出席委員の2/3以上の賛成を要する。 |
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4) |
A医師の再研修は平成19年6月1日に開始され、11月30日まで6ヶ月間、継続された。同年12月17日、同医師より本機構事務局に、心臓血管外科専門医再認定の申請書、修練内容およびそれを証明する書類、再研修の責任者の推薦状等が提出された。 |
5) |
本件は平成20年2月7日の本年第一回の機構総会で審議された。再認定に関する基準を作ってから審査することも提案されたが、前例がなく新たに基準を作るのは困難であることから、本機構規則施行細則14条に則り、機構総会で十分審議した上で決定することになった。 |
6) |
本年2月27日、龍野監事が、東京大学病院心臓呼吸器外科に赴き、実地調査を行った。当日はA医師が担当する手術がなく、技術評価は後日、術中録画映像が入手できた時に改めて行った。 |
7) |
3月6日の本機構総会で、施設訪問審査結果などを含め、A医師の心臓血管外科専門医の再認定を審議した。提出されたDVDを後日3人の委員による手術技量評価を行った上で再度審議することになった。A医師からはその後、追加の手術研修の実績が提出され、研修期間が合計10ヶ月になった。 |
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2. |
A医師の再研修内容と施設実地調査、手術録画による審査
1) |
研修期間は平成19年6月1日から平成20年3月末の10ヶ月間 |
2) |
研修場所は東京大学病院心臓呼吸器外科で、初めの4ヶ月間は成人心臓外科チーム、次の3ヶ月は大血管外科チーム、最後の3ヶ月は成人心臓外科チームをローテーションした。
木曜を除く毎朝、心臓呼吸器外科のカンファレンスに参加し、初めの6ヶ月間で心臓弁膜症57例を含む、189例の胸部心臓手術の知見を習得した。 |
3) |
A医師自身が参加した心臓大血管手術は、10ヶ月間で76例。内容は弁膜症が35例、虚血性心疾患が27例、大血管疾患が5例、心臓移植が3例、その他が6例。A医師が執刀した症例は7例(弁膜症が2例、冠動脈バイパスが3例、血管手術が2例)で、第一助手が17例、第2助手以下が52例。術者を務めた7例はいずれも術後軽快退院。第一助手を務めた17例中15例は軽快退院したが、2例は補助人工心臓を装着したまま入院中。(それらは拡張型心筋症と虚血性心筋障害の末期の患者で、術前状態が極めて悪いために補助人工心臓が使われたもので、入院期間が長期にわたることは予め予想された症例。) |
4) |
実地調査の結果
平成19年2月27日、龍野代表幹事(当時)が東京大学医学部付属病院心臓呼吸器外科を訪問し、研修内容等について調査を行った。
目的は、A医師から提出された書類の信憑性と同医師の心臓血管外科医としての資質を調査すること。
(1) |
心臓血管外科手術
申請書に記載された手術例について、一例ずつ原簿と照合した。結果は、年齢や男女などの記載違いが数件あっただけで、大筋で問題はなかった。 |
(2) |
入院患者の受け持ち、病棟当直、ICU当直
入院患者の受持、病棟やICUの勤務状況を、入院患者台帳、病棟当直日誌およびICU当直日誌で確認した。入院患者の受持は、毎週数人ずつ受け持っており、病棟ならびにICU当直はそれぞれ2回。心臓呼吸器外科のカンファレンスは木曜日以外の週日、毎日参加。 |
(3) |
総括的調査
A医師の心臓血管外科医としての技量、知識、資質などについて、聞きとり調査を行った。面談対象者は修練責任者である高本教授、病棟の看護師長、大血管外科担当の医師、麻酔科医師の4名。A医師が熱心に研修していること、患者とのコミュニケーション特にインフォームド・コンセントを大切にしていること、研修期間の6ヶ月間は患者との間でトラブルがなかったこと、職員と協調し、診療システムへ早く溶け込み仕事がスムーズであったこと、高い技量と知識を持っていることなどが推測されるという評価だった。 |
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5) |
A医師が執刀した弁膜症の概況と術中ビデオ映像の検証
東京大学病院でA医師が執刀した心臓手術について、本機構の3人の委員が提出されたDVD録画映像を見て検証した。
録画に添付された記載によれば、患者さんは70代の方、術前診断は大動脈弁閉鎖不全だった。手術は生体弁を用いた大動脈弁置換術でした。手術時間は4時間15分、完全体外循環時間103分、大動脈遮断時間86分、術中輸血は8単位。
手術は胸骨正中切開で、上行大動脈送血、両大静脈脱血で完全体外循環、経左房・左室ベントを挿入。大動脈を遮断して心筋保護を行った後、上行大動脈を切開した。大動脈弁を切除して弁輪に縫合糸をかけ、19mmの生体弁を縫着した。大動脈を縫合閉鎖し、心室細動を電気的に除細動して心拍を再開させたあと、人工心肺をはずした。
録画で見る限り、手術の流れはゆっくりであるが正確で、戸惑うことなく行われた。運針、糸裁き、助手との連携、手術の組み立てなど、いずれの点も特に問題なく手術が遂行されたと、3名の検証者が一致して判断した。 |
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3. |
4月10日の機構総会での決定
本年4月10日の本機構総会では、15名の委員ならびに3名の監事の内、12名の委員と3名の監事が出席し、A医師の「弁手術における知識および技術が十分向上したか否か」を中心に、専門医再認定の審査を行った。
最終的に本機構施行細則14条の規定に則り、A医師の専門医資格の再認定について、出席委員に採決を求め、出席委員全員が再認定に賛成し、A医師の心臓血管外科専門医再認定が決定した。ただし、このような再認定は前例がないので、今後の参考にするため、しばらくは基幹修練施設で指導医のもとで修練を続け、1年後の報告を求めることにした。 |
本機構では、専門医資格取り消しまたは停止者に対する再認定または停止解除の基準がないまま、施行細則14条によって今回の再認定を決定せざるを得なかったことは、前例がない状況下では止むを得なかったと考えている。しかし、今後専門医資格の取り消しまたは停止を含めて、これらの基準を作成する必要性があろうかと認識している。 |
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