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前立腺肥大症・男性下部尿路症状


1. 男性下部尿路症状とは?

 下部尿路症状とは膀胱に尿をためる(蓄尿)、尿を排出する(排尿)行為が円滑にできなくなっている症状のことです。尿を貯めて出すという自然な生理現象が加齢とともに不自然な状態となり、トイレが近い、尿の勢いが弱い、残尿感がある、夜間にトイレに起きるようになった、などの自覚症状があらわれるようになります。
 60歳以上の男性の約8割が何らかの下部尿路症状を有していると言われています。具体的には夜間頻尿、昼間頻尿が特に多く、尿勢低下、残尿感、尿意切迫感、切迫性尿失禁などの症状がそれに続きます。
 男性では特に尿道を取り巻くように前立腺があり、加齢とともに前立腺が大きくなり(=前立腺肥大症)、下部尿路症状の主な原因となります。その他の原因としては、前立腺癌、膀胱癌、過活動膀胱、尿路感染症、間質性膀胱炎などがあり、下部尿路症状に気づいたら、泌尿器科を受診することをお勧めします。


2. 男性下部尿路症状の診断

 下部尿路症状を診断し治療を行うために、以下のような評価項目について検査を実施しています。下部尿路症状の原因の多くは良性疾患ですが、まれに悪性疾患(=がん)が関与していることもありますので、慎重に診察を行っています。

1)基本評価
 ① 病歴聴取(いつ頃からどんな症状があったか?既往歴、服薬歴などについてもお尋ねします)
 ② 排尿質問票による症状の聴取(症状の種類や頻度、お困りの度合いをお尋ねします)
 ③ 身体所見(腹部、陰部、前立腺の触診を行います)
 ④ 尿検査(血尿や膿尿の有無を調べます)
 ⑤ 尿流測定(尿の勢いを測定します)
 ⑥ 残尿測定(超音波装置を用いて排尿後の残尿量を測定します)
 ⑦ 血清PSA測定(PSA(=前立腺特異抗原)を測定します)
 ⑧ 前立腺超音波検査(超音波装置を用いて前立腺の大きさや形状を調べます)

2)選択評価
 以下の項目は主治医が必要と判断した場合に、より詳しい検査として行うものです。

 ① 排尿記録(排尿の時刻と排尿量を24時間記録して頂きます)
 ② 尿流動態検査(膀胱や尿道の圧力を測定します)
 ③ 血清クレアチニン測定(腎臓の働きを調べます)
 ④ 上部尿路超音波検査(腎臓や尿管に異常がないか調べます)
 ⑤ 尿細胞診(膀胱がんの可能性が無いか確認します)
 ⑥ 尿培養(尿中の細菌を調べます)
 ⑦ 膀胱尿道内視鏡検査(膀胱と尿道を内視鏡で観察します)
 ⑧ 放射線画像検査(腎臓、膀胱などをレントゲンで調べます)

3. 男性下部尿路症状の治療

 治療は内科的治療が中心となります。男性下部尿路障害の主な原因疾患である前立腺肥大症に対しては内科的治療による効果が十分に得られない場合に外科的治療を行っています。

1)内科的治療

(a)
α遮断薬
前立腺肥大症の第一選択薬はα遮断薬という薬剤です。この薬には前立腺と膀胱頸部に存在する平滑筋の緊張を低下させ、排尿時の尿道抵抗を下げる効果があります。その結果、尿の勢いが良くなり、頻尿症状も改善されます。主な副作用には、起立性低血圧、易疲労性、射精障害、鼻づまり、頭痛、眠気などがあります。数種類のα遮断薬が処方可能ですので、体質にあった薬を選ぶことができます。
(b)
5α還元酵素阻害剤
活性型テストステロンの合成を阻害することにより、前立腺の体積を30%程度縮小させる効果があります。副作用はα遮断薬ほど多くありません。ゆっくりと効果を示す薬剤ですので、6か月程度継続して内服することをお勧めしています。
(c)
抗コリン薬
頻尿、尿意切迫感や切迫性尿失禁など、過活動膀胱の症状が強い場合に処方します。副作用には、便秘、喉の渇き、眼圧の上昇などがあるほか、尿勢低下、残尿量増加や尿閉(自力で排尿できなくなる)になることもありますので、泌尿器科医は特に注意して処方しています。過活動膀胱症状を伴う前立腺肥大症にはα遮断薬と併用すると有用とされています。
(d)
その他の薬剤
β3作動薬、植物由来製剤、漢方薬など、下部尿路症状を緩和させる有効な薬が他にもあります。患者さんの症状の変化に応じて組み合わせて処方しています。

2)外科的療法

(a)
TURP(経尿道的前立腺切除術)
尿道に内視鏡を挿入し、尿道を圧迫している前立腺を内側から削ります。適応となる前立腺の大きさは数十グラム程度です。麻酔は腰椎麻酔または全身麻酔を用います。手術時間は1時間から1時間半程度です。術後は膀胱にカテーテルを留置し、術後3日から5日目頃を目途にカテーテルを抜きます。入院期間は1週間程度です。
(b)
レーザー前立腺蒸散術
TURPと同様に内視鏡的に手術を行います。適応となる前立腺の大きさは数十グラム程度です。尿道を圧迫している前立腺に内側からレーザーを照射して蒸散させます。麻酔は腰椎麻酔または全身麻酔を用います。手術時間は1時間から1時間半程度です。術後は膀胱にカテーテルを留置し、術後翌日から3日目頃を目途にカテーテルを抜きます。入院期間は5日間程度です。
(c)
被膜下前立腺核出術
この手術は開腹手術です。適応は前立腺が数十グラム以上大きなものや膀胱結石を合併している場合などです。臍下の下腹部正中を10㎝程度切開し、前立腺の腫大した部分を摘出します。麻酔は腰椎麻酔または全身麻酔を用います。手術時間は1時間から1時間半程度です。内視鏡手術に比べて出血量が多くなるため、輸血を行うことがあります。術後は膀胱にカテーテルを留置し、術後7日から10日目頃を目途にカテーテルを抜きます。入院期間は1週間から2週間程度です。

前立腺肥大症診療ガイドラインはインターネットから閲覧することが可能です。
こちらよりご参照ください。