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前立腺癌Prostate cancer


1. 前立腺癌の特徴

 前立腺は男性に特有の組織で、膀胱の下にあり、その中を尿道が貫いています。前立腺は精液に含まれる前立腺液を産生しています。


1)高齢者に多い癌
 前立腺癌は加齢とともにその発症率が上昇します。最近は急速に高齢化が進んでいますが、それに伴って、前立腺癌の患者さんは急増しています。しかし、そのすべての癌が生命の脅威になるわけではありません。わずかの癌細胞であれば寿命には影響しないこともあるわけです。その一方、前立腺癌で亡くなる高齢の方も少なくありません。また、どの治療にもかならず副作用がつきものです。癌が治ってもその方の日常生活に大きな負担が残っては意味がありません。患者さんが御高齢であった場合、その人の寿命や人生観も合わせて治療方法を考える必要があります。

2)男性ホルモン依存性である
 前立腺癌は男性ホルモンが癌の増殖を促しているといわれています。男性ホルモンの作用を抑えるだけで、癌の進行をかなり抑えることができます。


2. 診断

初期の前立腺癌はほとんどの場合、無症状です。したがって、症状だけでは癌かどうかの区別はできません。癌が進行した場合には、血尿や骨への転移に伴う腰痛などで見つかる場合もあります。

1)PSA検査
  前立腺癌は血液検査でスクリーニングが可能です。血中のPSA(前立腺特異抗原)と呼ばれる腫瘍マーカーが高い値を示す場合、高頻度に前立腺癌が発見されます。検査を要するPSAの値としては4ng/ml以上が一般的ですが、50歳台では2ng/ml以上でも十分な注意が必要です。前立腺肥大症や前立腺の炎症でもPSAが高値を示すことがあり、数値が高いからといって癌があるとは限りません。PSAが低くても、排尿症状のあるとき、触診で前立腺が硬いとき、超音波検査で前立腺の内部に異常があるときには癌が疑われます。

2)前立腺針生検
前立腺癌が疑われる場合、前立腺の組織を採取し癌の有無を調べます。肛門から超音波検査の器械を入れ、それで前立腺を見ながら、前立腺に針を刺して組織を採取します。その組織の中に癌があるかどうか、癌が認められた場合にはその悪性度がどれくらいかを、顕微鏡でみて判定します。

3)進展度(ステージ)の検査
 癌と診断されたら、次に癌の進展度(ステージ)を調べます。前立腺の周囲のリンパ節の状態を調べるために、CT検査やMRI検査を行います。前立腺癌は骨に転移をしやすいので、その検査のために骨シンチグラフィーも行います。


3. 治療

1)手術療法
 明らかな転移がない場合、標準的治療は手術療法(前立腺全摘術)となります。手術では、前立腺・精嚢を膀胱と尿道から切り離し、新たに膀胱と尿道をつなぎ直します。多くの施設では開腹手術が行われていますが、当院ではロボット支援手術を導入しており、出血が少ない特徴があります。入院期間は1-2週間程度です。手術療法を行う条件としては、転移がないこと、患者さんに大きな持病がなく体力が十分であることが必要です。合併症としては出血、術後の尿失禁があります。


2)放射線外照射療法
 明らかな転移がない場合、放射線外照射治療も標準的治療のひとつです。前立腺に放射線を照射し、癌を治療します。この治療の長所は、体の負担が比較的軽いため、大きな持病を持った方、高齢の方でも治療が行えることです。治療効果も手術とほぼ同等です。治療は外来で可能ですが、7週間程度かかります。合併症としては放射線による膀胱炎、直腸炎があります。放射線療法は前立腺にある癌の治療だけではなく、転移した部位へ放射線をあてて骨折の予防や疼痛の軽減をはかる治療法としても有効に利用されています。


3)密封小線源療法(ブラキセラピー)
 密封小線源療法は放射線治療のひとつですが、放射線を出す物質(ヨード125)を入れた小さな金属のカプセル(シード)を前立腺の中にたくさん埋め込んで、前立腺の中から放射線をあてる方法です。麻酔をかけた上で前立腺を超音波で見ながら特殊な針を用いて前立腺内にシードを埋め込みます。出血はほとんどなく、入院期間も数日です。治療効果も手術と比べて大きな遜色はありません。ただし、対象となるのは、比較的早期の癌に限られています。また、放射線管理区域といわれる特殊な専用病棟に入院します。合併症として、ほとんどの方が治療後に尿の出が悪くなります。


4)内分泌療法(ホルモン療法)
 男性ホルモンの作用を抑えることで、前立腺癌の進行を抑えることができます。内分泌療法は、転移のある前立腺癌に対する標準的治療です。男性ホルモンの95%は精巣から、残り5%は副腎からといわれています。男性ホルモンを低下させる方法として、定期的に薬(LH-RHアナログ)を注射する方法と、精巣を摘出する方法があり、これで大部分の男性ホルモンがなくなります。もう一つは内服薬で男性ホルモンの働きを抑える方法があります。内服薬は数種類あり、それぞれに特徴があります。内分泌治療の副作用として、男性ホルモンが低下することで女性の更年期に似た症状、例えばのぼせ、乳房の腫れ、手のこわばり、体重の増加、下肢のむくみ、不眠、性欲の減退、気力の低下などです。長期になると、骨が弱くなり骨折しやすくなるといわれています。内分泌療法は非常に有効な治療ですが、その効果は永続的なものではなく、数か月から数年のうちに無効となります。


5)抗癌剤
 抗癌剤には多くの種類がありますが、前立腺癌に有効なものはわずかです。通常は、転移がある前立腺癌で、内分泌療法が無効となった場合に使用されます。抗癌剤は、場合によっては命に係わるような重大な副作用を生じることがあります。前立腺癌に対する抗癌剤治療の目的は、癌を完全に治すことではなく、寿命を延ばすことです。従って、効果と副作用の大きさを考慮して治療を行います。


6)治療の選択に当たって
 以上、前立腺癌の治療法を説明しました。文中に述べた治療の特徴はあくまでも一般的なものであり、患者さんの癌の状態やその他の条件によって治療法を選ぶべきです。また、これらの治療を単独で行うか、組み合わせて行うかも重要な点です。治療に当たっては担当医とよく相談して下さい。