トップページ > 疾患 > 腎臓癌

腎臓癌Renal cancer


1. 腎臓と腎細胞

 腎臓は上腹部背側(後腹膜腔)に位置する臓器です。腎臓は10x5cmほどの大きさをした、左右一対の臓器で、血液から老廃物・水分を濾過過して尿を産生しています。また、血圧を制御するホルモンや赤血球を作るホルモンを分泌する働きもあります。
 腎臓に発生する悪性腫瘍には、小児期のウィルムス腫瘍、成人に発生する腎癌(腎細胞癌)があります。稀なものとしては肉腫や他臓器の癌の転移もあります。成人の腎臓に発生する悪性腫瘍で最も頻度が高いのが腎癌で、腎臓の悪性腫瘍の85-90%を占めます。


2. 頻度

毎年人口10万人あたり12人程度発生し、男性は女性より2-3倍多く発症します。欧米に比べそれほど多くはありませんが、年々増加傾向にあります。50~70歳台に多く発生しますが、若年者にもみられることがあります。


3. 原因

 いくつかのがん遺伝子の変化により癌化すると考えられていますが、はっきりした原因はわかっていません。肥満、高血圧の方や喫煙者はそうでない人に比べて2~4倍腎癌になりやすいといわれています。また、ある種の化学薬品や金属を扱う職業の方も腎癌の発症率が高いことが知られています。

 遺伝性疾患であるvon Hippel-Lindau病の方や、腎不全で血液透析を受けている患者さんでは高率に腎癌が発生するため、定期的な検査が必要と言われています。


4. 症状

 最近は健康診断やほかの病気の検査中に超音波検査やCT検査で偶然腎癌が発見されることが多く、無症状で見つかる例が大半を占めています。
 大きい腎癌では、血尿や腹部腫瘤、痛みがみられることがあります。また、発熱、体重減少、貧血などの全身症状がみられることがあります。肺や骨へ転移して見つかることもあります。


5. 診断

 超音波検査は簡便な検査で、腎癌のスクリーニングによく用いられています。CT検査は、診断に非常に重要な検査です。CTの造影剤がアレルギーのために使用できない患者さんや、CTではっきりとした診断がつかない場合にはMRI検査を行うことがあります。肺転移の有無を調べるために胸部CT、 骨転移の有無を調べるために骨シンチグラムが行われます。通常は画像検査で診断可能ですが、診断が困難な場合、針を刺して組織を採取する、針生検が行われることがあります。


6. 病期

 腎癌は、1.局所でどれくらい進展しているか、2.リンパ節に転移がないか、3.他の臓器に転移がないかの3つに分けて病期を分類します。ここでは、「腎癌取扱い規約 第3版 日本泌尿器科学会・日本病理学会・日本医学放射線学会/編 1999年」の分類を示します。

1)局所でどれくらい進展しているか(T分類)

T0:原発腫瘍を認めない
T1:最大径が7.0cm以下で、腎に限局する腫瘍

T1a: 最大径が4.0cm以下で、腎に限局する腫瘍

T1b: 最大径が4.0cmをこえるが7.0cm以下で、腎に限局する腫瘍
T2
:最大径が7.0cmをこえ、腎に限局する腫瘍
T3:腫瘍は主静脈内に進展、または副腎に浸潤、または腎周囲脂肪組織に浸潤するが、Gerota筋膜をこえない

T3a: 腫瘍は副腎または腎周囲脂肪組織に浸潤するが、Gerota筋膜をこえない

T3b: 腫瘍は肉眼的に腎静脈または横隔膜下までの下大静脈内に進展する

T3c: 腫瘍は肉眼的に横隔膜をこえる下大静脈内に進展する

T4:腫瘍はGerota筋膜をこえて浸潤する

2)リンパ節に転移がないか(N分類)

N0:所属リンパ節転移なし
N1:1個の所属リンパ節転移
N2:2個以上の所属リンパ節転移

3)他の臓器に転移がないか(M分類)

M0:遠隔転移なし
M1:遠隔転移あり

 これらの組合せによって腎癌の病期分類がなされます。たとえば,癌の最大径が5cmで腎臓内に限局し、リンパ節転移が1個見つかったが、他の臓器に転移がなかった場合には、T1bN1M0となります。


7. 治療

 癌の進行度にかかわらず、治療の主体は外科手術です。 抗がん剤や放射線治療は腎癌にはほとんど効果がありません。

 転移のない腎癌であれば、外科手術によって根治が期待できます。腎臓は副腎とともにGerota筋膜という膜に包まれており、Gerota筋膜ごと腎臓を摘除する方法(根治的腎摘除術)が一般的です。 内視鏡技術の発達により、腹腔鏡手術による手術(腹腔鏡下根治的腎摘除術)も行われるようになり、より小さな傷で、体に対する負担を軽減することができます。
 さらに、小さな腎癌であれば、腫瘍と腎臓の一部のみを切除する方法(腎部分切除術)もあり、腎臓を全部摘出する方法と同等の治療成績が得られています。 腎臓を残すことにより、術後の腎機能の低下を最小限に抑えることができます。
  当科では原則として、T1aであれば腎部分切除術、T1bは腹腔鏡下腎摘除術、T2以上では開腹での腎摘除術を行っています。

 転移のある腎癌、進行した腎癌でも、可能な限り腎臓は摘出します。これは、1)腎臓の摘出は体に対する負担がそれほど大きくないこと、2)腎臓を摘出した後に追加治療を行ったり転移巣を切除することによって癌の進行を抑えられることがあること、3)癌のある腎臓を残しておくと、やがて出血や痛み、発熱のために生活の質が著しく低下するためです。どうしても腎臓の摘出が難しい場合には、癌に流入する動脈内に薬を注入して血流を遮断してしまう方法(動脈塞栓術)を行う場合があります。
 転移巣に対する治療として、転移巣の数が少なく、切除可能であれば切除することがあります。転移巣が切除できないとき分子標的薬を使用することが一般的となっています。最近の研究により腎癌の発生や進展に関わる遺伝子機構の多く解明されましたが、分子標的薬はそれらをターゲットとして開発された薬です。腎癌では①チロシンキナーゼ阻害薬と②mTOR阻害薬に分けられます。前者は腫瘍の血管新生阻害が主な働きで、後者は細胞周期や免疫系に働いて腫瘍成長を抑制すると言われています。
 この他、インターフェロン、インターロイキンが使われることもあります。


8. 治療後の通院について

 腎癌に対して手術(腎摘除あるいは腎部分切除)を受けられた患者さんは、残った腎機能の検査や再発のチェックのために定期的に通院する必要があります。腎癌は手術後10年以上たっても再発、転移することがあり、長期間の経過観察が必要です。


9. 予後

 近年、腎癌は早期に発見されるようになっており、T1の癌では90%以上が治癒に至っています。T2以上の大きな癌や、転移を伴う癌、発熱や体重減少のような全身症状を伴う癌では治療成績が劣ります。 ただし、癌の治療成績は癌の進行度だけで決まるものではなく、患者さんの年齢や合併症などによって左右されます。これらの数値はたくさんの患者さんの平均的な数字であり、あくまで参考となるもので、個々の患者さんにあてはまるものではありません。