規制当局のコントロール願望

Gilles CL, Abrams KR, Lambert PC, et al. Review: Lifestyle or pharmacologic interventions prevent or delay type 2 diabetes in impaired glucose tolerance. BMJ. 2007;334:299.
耐糖能異常を有する者において生活スタイルへの介入または薬物治療が2型糖尿病の発症を防いだり,遅延させたりする.

肥満への介入方法はいろいろある.食事療法,抗肥満薬,胃袋をバンドで縛ったり,腸切除して吸収不良にしたり,果ては脂肪吸引なんてのもある.

多くの人は食事療法もきちんとせずに薬で糖尿病の予防なんてとんでもないと思う.食べるものを減らせばお金が節約できるのだから,食べる量をそのままにして薬を飲んでやせようなんてとんでもないと思う.それは当然だ。

ただ、規制当局として、そういう常識を発揮して,”メタボリックシンドローム予防薬”の効能・効果を承認するかどうかってのは、また別の話だ。というのは、規制当局があまりにも強くパターナリズムを発揮しすぎると、そういう,いかがわしい効能・効果を批判的に考えられる能力の芽を摘んでしまう可能性が出てくるからだ。

抗肥満薬を承認したら、大勢の一般市民が飛びついてとんでもないことが起こると心配してくださる人が規制当局の中にもいらっしゃるかもしれないが、一般市民はそれほど愚かなのだろうか?

FDAの猿真似を強いられている日本の規制当局の承認や、「メタボリックシンドローム予防薬」はグローバルスタンダードとばかりに能天気なプロモーションを展開する企業をよそに、認知行動療法を応用した無料のセルフケアによって見事に肥満をコントロールする賢い市民の書いた本がベストセラーになる世の中である。

そんな世の中では、ハードエンドポイントの検証無しで,体重減少なんてイカサマな有効性指標だけで,世の中に出てくる,そんな情けない薬を喜んで迎えるような連中はそれまでと、突き放すぐらいの気持ちで、審査してもいいのではないか。

企業に対しても、「あんたがた、ほんとにこれがいい薬だと思うのなら、承認後にそれを証明してみなよ」 ぐらいの気持ちで審査すればいい。「どうしたらいいんでしょうね」なんて言ったら、「こっちは審査して承認するだけだ。育薬は企業の使命だろ。そんなもん自分たちで考えろ。」って言えばいい。つまり,企業に対するコントロール願望から距離を置けばいい.

本来、「規制緩和」は,決して企業の金儲けにはならない.逆に,規制当局が規制によって負う責任を企業に分担させることになる.企業はその責任を果たすために,投資額を増やさねばならない.ところが、規制緩和はビジネスチャンスと短絡的に捉え、新たに負った責任を果たし、応分のリスクマネジメントに投資しなかったために大失敗した事例が、耐震偽装スキャンダルである。

そのあたりをよくわかっているから、製薬企業は、個別の品目の枠組みの中では、規制がなるべく少なくなるように交渉するのだが、大枠では、むしろ規制当局が負っている責任をそのままにするか、さらに規制当局の力を増すべく,【医薬品医療機器総合機構】3年間で236人を増員計画を了承した.

規制当局は、より強い規制によって、医療者や一般市民に対するコントロール願望を満たそうとするが、強い規制ほど、ほころびが目立ちやすくなる。規制に少しでもほころびが見える度に「薬害」と騒ぎ立てられ、攻撃される。だから、より強い規制は、「薬害」が生まれる土壌を豊かにする。こんな簡単な逆説の構図に、いつまでたっても気付こうとしないのは、規制当局の人々にとっても,コントロール願望が極めて根深い欲求だからだろう。

参考:コントロール願望続コントロール願望

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