コントロール願望と餌付け行動

ある厚生労働省技官への手紙

この問題は、医薬品医療機器審査センター→医薬品医療機器総合機構(PMDA)にいた時から、ずっと考えていました。患者に対する医者の救世主願望、餌付け行動、医者やめたい病と医療崩壊と、政治家や一般市民に対する官僚のコントロール願望、餌付け行動、厚労省やめたい病・厚労行政崩壊とは、驚くほど類似点が多いのです。救世主願望、餌付け行動、医者やめたい病、医療崩壊といったキーワードが、医師が自分たちの役割・存在意義を外在化し、考察するのに役立っているのと同様に、このメールが、霞ヶ関になおも踏みとどまっている皆様のお役に立てれば幸いです。

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もともと薄給の上に、天下りが困難となり、生涯賃金の補填もできなくなったというのに,それでも霞ヶ関に踏みとどまっている方々は,連日の国会待機や、自分たちの定年後の職場を奪った政治家からの呼び出しに、重々ながらもなぜ応じられるのでしょうか?一般市民やメディアから、さらに政治家からの呵責ないバッシングに、なぜ耐えられるのでしょうか?国を憂う心やNobles Obligeゆえでしょうか?官僚本人も、多くの無辜の民草も政治家もそう思っています。しかし、実は違います。

官僚は、一般市民や政治家をコントロールしたいという強い願望を持っており、自分たちへの攻撃は、コントロールしてほしいという国民の皆様の切実な声を反映していると(意識下にせよ)感じているから、攻撃に耐えられるのです。厚労省を父と慕っているからこそ、役人にべったり依存しているからこそ、厚労省はけしからん→もっとしっかりやれ→厚労省が頼りですとひれ伏している、厚労省の役人はそれを知っています。ただ、その認知も、コントロール願望も意識下に収めています。自分のコントロール願望を明確に自覚してしまうと、とても職務に耐えられないので、コントロール願望をNobles Obligeと読み替えているのです。誰でも自分がゲッベルスだったなんて気付きたくありませんからね。いや、正確に言えばゲッベルスではありません。彼のような子供だましの方法よりも、もっと巧妙な手法で、国民や政治家ばかりでなく、自分さえも騙してコントロール願望を満たしているのですから。

ところが、そんな巨大な願望がすべて覆い隠せるわけがない。コントロール願望は、露骨な餌付け行動という形であちこちに存在・表出します。記者クラブと報道発表、数多ある審議会の事務局案、政治家へのレク(御進講)、国会待機・・・・こういった餌付け行動により、官僚は一般市民や政治家からリテラシーの芽をせっせとつみ取っています。彼らが完全に自立して、官僚は(もっとしっかりやれ ではなくて)要らない と言い出さないように。この戦略が、一大成功を収めたのが、PMDAの審査員数を3年間で2倍にするという増員計画です。

PMDAの増員計画はドラッグラグ(諸外国と比較しての新薬承認の大幅な遅れ)をなくすためだと言われています。ドラッグラグをなくすためには、PMDAを潰してFDAの承認をそのまま受け入れるのが一番の近道なのに、そうさせなかったどころか、あっぱれ、二倍に太らせてしまうのですから、恐れ入ります。”俺たちがいなくなったら、薬害被害者団体とメディアの総攻撃の対象が誰になるのか、わかってるだろうな” そうやって、あからさまに恫喝を受けたわけではありませんが、PMDAや厚労省がなくなったら、その代わりに誰が攻撃されるか、攻撃対象がなくなったら、誰が困るのか、関係者はみんなご存じですから、PMDAも厚労省も潰せないのです。

餌付け行動の怖いところは、餌付け行動を維持するための負荷が、時に餌付け行動者の生命をも脅かすことです。連日の国会待機や政治家へのレクチャーといった労働負荷が、家庭を崩壊させ、うつ病を引き起こし、脱落者を生む。それは行政崩壊につながる危険性を孕んでいます。官僚に対して、もっと仕事をしろ、でも人は増やすな、給料はそのまま、天下りもだめだと言い続ければ、どんなに強いコントロール願望を持っている人間でも、その危険性に気付いて、ついには、ばからしくてやってられん、命あっての物種だと、逃散していきます。コントロール願望と餌付け行動の危険性を認識できる能力を持った人間から先に。(参考→行政崩壊

畢竟、自分の人生の危機管理ができない人の占める割合が組織の中でどんどん高まっていきます。そういう人たちだけで組織の危機管理ができるのでしょうか?私はそこまで心配するほど、厚労省に対する救世主願望は強くありませんが、日頃から厚労省を叱咤激励なさっている方々は、さぞかしご心配なことでしょう。

コントロール願望と餌付け行動に取り憑かれているのは、もちろん官僚だけではありません。そうです、医者もその典型例です。”コントロール願望”の提唱者である春日武彦先生の ”「治らない」時代の医療者心得帳”は、医者のコントロール願望の事例検討集です。お勧めです。

熱があるから抗菌薬を投与してもらいたい,頭が痛いからMRIを撮ってもらいたいという要求に対して,はいはいと笑顔で応じる医者は,抗菌薬やMRIで餌付けすることによって、コントロール願望を満たし、患者がhealth literacyを取得する機会を奪っています。こんな例はまだ無邪気な方です。時に、医者に必須の救世主願望と診療行為そのものが、医療資源としての医者を大切にするhealth literacyを低下させ、医者を倒してしまう悲惨な例があります。小児科のコンビニ受診がそれです。(参考→崩壊防止策が崩壊を招く皮肉

すべからく親は子に対してコントロール願望を持ち餌付けをします。コントロール願望と餌付け行動そのものが悪なのではなく、この強力な道具の使い方と、道具からの距離の置き方が問題なのです。
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