あるメーリングリストの書き込みから(件名: RE:薬害C型肝炎を考える).薬害が何度も繰り返されるのは,一般市民の自律性とリテラシーの欠如にあるのだから,その自律性とリテラシーを奪う厚労省とPMDAをお払い箱にして,日本をフィリピン化しようという議論に対して.
> 「国の責任」って何なのか。
「国の責任」という一言に、中央行政に対する依存がよく現れています。厚労省はけしからん=厚労省はもっとしっかりやってもらいたい=我々民草は厚労省が頼りでございます。という等式です。
> 今でも厚労省やPMDAはその道の素人集団で、能力に劣る役所が過大な期待を背負ってしまうと、無責任になるか
> 隠蔽するか、あるいはその両方になるからです。
ですから、厚労省がけしからんという人は、厚労省が素人集団だとは思っていませんよね。偉大なるお上と崇めている。そこがコントロール願望が生まれる素地です。
国民の皆様からの叱咤激励と役人の意識下にあるコントロール願望の相乗作用によって、一般市民のリテラシーが消去されます。そうなると、承認前にはイレッサを夢の抗癌剤だから早く承認しろと騒ぎ立て、わずか半年後には悪魔の薬と呪う、重篤な記銘力障害も生じます。その記銘力障害があるがゆえに、厚労省を悪代官に見立てた薬害ドラマも水戸黄門と同じく、何回繰り返しても飽きないというわけです。
> そして、責任は国民・患者にもシェアしてもらいます。それは、国 や医師が権限・責任を譲り渡す、という意味でもあります。
一般市民が自律性とリテラシーを取り戻す必要があるということですね。さて、そのためにはどうしましょうか?と、私もいつも問われます。”お上べったり、水戸黄門大好きの日本人がリテラシーなんて百年早い”と、さも勝ち誇ったように言う人の何と多いことか。でもそれって、認知の歪みじゃないですか?だって、フィリピン人ができることが、日本人にできないわけないじゃないですか。
具体的な戦略としては、役人側のコントロール願望抑制と市民側のパターナリズム依存抑制の両面から攻めるのが理想的ですが、役人側のコントロール願望は、水面下で進行する行政崩壊を役人が自覚すれば、案外脆いのではないかと楽観視して、ひとまず棚上げ、二正面作戦は避ける。
となると市民側のパターナリズム依存抑制策ですが、これには、グランドステージ○○という、苦い教訓があります。”ガイアツ”(アメリカから建築部材輸入せよという圧力)によって耐震構造審査の”規制緩和”(アメリカ式表現では非関税障壁の撤廃)を行った結果、人命を脅かす建物の誕生を招いた上に、建築に対するリテラシーも育たなかった。その結果、昔よりも手厚い規制に逆戻り、審査に時間がかかってビルが建てられなくなる本末転倒。
ビジネスホテル、開業計画立て直し・審査の厳格化波及
大手ビジネスホテルチェーンで、出店計画の縮小や開業延期を余儀なくされるケースが増えてきた。耐震偽装の再発防止を目的にした6月の改正建築基準法施行で建築確認の審査が厳しくなり、新規着工が遅れていることが背景にある。改正法施行の関連ではマンション供給戸数もすでに落ち込んでおり、影響を受ける業種が広がってきた。(2007/11/26日本経済新聞)
この苦い教訓を踏まえると,どうも、日本を救うことのストレス(多分,これもコントロール願望の一つ)に負けて、システムに手をつけて一般市民のリテラシーを向上させようという計画は、政治家でもない私たちには無茶なようです。ここは一つ皆様、足元から、身の丈にあったやり方、つまり自分と自分の周りのことだけ考えましょうか。つまり自分の大切な家族や目の前の患者さんと一緒にリテラシーの学習、教育です。それだったらできるでしょうし、決して無駄にはならないどころか、楽しい達成感が味わえるでしょう。フィリピンでも、そしてメキシコでも、そうやっているんですよ。だからできるんですよ。きっと。
えっ,そんな悠長なことやってられるかって?いや,決して悠長じゃありませんぜ.世の中は変わりますよ.あなたが思っているより,ずっと早くね.嘘だと思う人は→こちら