全身性エリテマトーデス(Systemic lupus erythematosus: SLE)各論
A. ループス腎炎
1. 頻度・予後
SLEでは血栓性微小血管障害症(TMA)など様々な機序による腎障害が認められる場合もあるが、通常、ループス腎炎 (lupus nephritis: LN)は、免疫複合体の沈着を伴う糸球体腎炎を指すことが多い。ループス腎炎の合併率には人種差があり我が国の頻度は45-86%と報告されている(Yokoyama H et al. Clin Exp Nephrol. 2011. 15: 321-30)。免疫抑制剤の導入により予後は改善し、アジア人の10年生存率は92-8%で、10年腎生存率 81-97%である(Desmond YH et al. Kidney Dis (Basel). 2015. 1: 100-109)。しかし、腎不全に至る頻度は、依然として10-20%程度ある(Almaani S et al. Clin J Am Soc Nephrol 2017.12:825-835)。
2. 組織像
- 腎生検の適応:
- 一般的には成人の場合、1日蛋白尿が500mg以上の場合や、SLE以外で説明困難な腎機能低下・低下傾向を認める場合が腎生検の適応とされている。
- 分類:
- 2018年にISN/RPSによるループス腎炎の組織分類が改定された (表1)。(Bajema IM, et al. Kidney Int. 93:789-796. 2018)
表1:ISN/RPS ループス腎炎組織分類 2018改定(Bajema IM, et al. Kidney Int. 93:789-796. 2018)
Class I | 微小メサンギウム ループス腎炎 |
---|---|
Class II | メサンギウム増殖性 ループス腎炎 |
Class III | 巣状ループス腎炎 |
Class IV | びまん性ループス腎炎 |
Class V | 膜性ループス腎炎 |
Class VI | 進行した硬化性ループス腎炎 |
・III型:管内細胞増多性病変が全糸球体の50%以下、IV型: 50%以上 ・III+V, IV+V型の分類も存在する |
表2.modified NIH lupus nephritis activity and chronicity scoring system (Bajema IM, et al. Kiendy Int. 93:789-796. 2018)
Activity index | 定義 | Score |
---|---|---|
管内細胞増多 好中球and/or核崩壊 フィブリノイド壊死 ヒアリン沈着 細胞性・線維細胞性半月 間質の炎症 計 |
<25% (1+), 25-50% (+2), >50% (3+) <25% (1+), 25-50% (+2), >50% (3+) <25% (1+), 25-50% (+2), >50% (3+) <25% (1+), 25-50% (+2), >50% (3+) <25% (1+), 25-50% (+2), >50% (3+) <25% (1+), 25-50% (+2), >50% (3+) |
0-3 0-3 (0-3) x 2 0-3 (0-3) x 2 0-3 0-24 |
Chronicity index | ||
全糸球体硬化 線維性半月 尿細管萎縮 間質線維化 計 |
<25% (1+), 25-50% (+2), >50% (3+) <25% (1+), 25-50% (+2), >50% (3+) <25% (1+), 25-50% (+2), >50% (3+) <25% (1+), 25-50% (+2), >50% (3+) |
0-3 0-3 0-3 0-3 0-12 |
2003年分類のデータではあるが、組織分別頻度 : Japan Renal Biopsy Resistryからの報告(Hiromura K et al. Nephrology. 2016)では、I 1%, II 8%, III 25%, IV 44%, V 21%, VI 1%である。
3.治療
2019年 欧州リウマチ学会と欧州腎臓透析移植学会の合同組織 (EULAR/ERA-EDTA)からのリコメンデーションが改訂された(Fanouriakis A. ARD.2020.78: 736-745.)。また、2024年にはKidney Disease Improving Global Outcomes(KDIGO)からループス腎炎のガイドラインが公表されている(Rovin B et al. Kidney Int. 2024. 105: S1-S69.)。近日中には米国リウマチ学会(ACR)からもループス腎炎のガイドラインが公表される見込みであり、国際的なガイドラインや本邦のガイドラインを参考にしつつ、治療を行う。
LNの人種による差を考慮しつつ基本的には、寛解を目指す。
- HCQは網膜障害がない限りは、全例投与する。
- Class I・IIで蛋白尿が少ない場合には、腎外病変を対象とした治療のみでよい。ネフローゼレベルの蛋白尿を呈する場合には、lupus podopathyの可能性がある。グルココルチコイド(glucocorticoid, GC)への治療反応性はよいが漸減に伴い再燃のリスクもあるため、免疫抑制剤の併用を検討する。
- 活動性のループス腎炎III・IV型の場合には、GCと免疫抑制剤による治療を行う。具体的には、ミコフェノール酸モフェチル(MMF)もしくはシクロホスファミド(CY)が長年標準的治療とされていた。近年GCとMMFとcalcineurin阻害薬の3剤(AURORA1 trial, Rovin B et al. Lancet 2021. 397: 2070-2080.等)、もしくは、GCにMMFとbelimumabの3剤(BLISS-LN. Furie R et al. N Engl J Med 2020. 383: 1117-1128.)の有効性も報告され、初回の寛解導入療法の選択肢として、triple therapyもKDIGOのガイドラインに記載されている。GCの用量については、KDIGOのガイドラインでは、mPSL0.25-0.5g/日を最大3日間投与した後にPSL0.35-1.0mg/kg/日で開始し、半年でPSL2.5-5.0mg/日に漸減するプロトコルが紹介されている。維持療法については、MMFもしくはtriple therapyの場合には寛解導入で使用した薬剤を使用し、挙児希望のある場合にはアザチオプリン(azathioprine, AZP)への変更を検討する。難治例では、リツキシマブの併用なども選択肢となる。
- ループス腎炎V型に関するエビデンスはIII型・IV型に比較すると限られている。レニン・アンジオテンシン系阻害薬使用下でも、一定量の蛋白尿が持続する場合には、GCと免疫抑制剤(MMF、CY、calcineurin阻害薬など)による治療を行う。
- レニン・アンジオテンシン系阻害薬の併用や骨粗鬆症予防、ワクチン接種などの一般的な腎保護および治療の合併症予防のための管理も重要である。
B. NPSLE (neuropsychiatric SLE)
1. NPSLEの分類
NPSLEはSLEに伴う精神神経症状の総称であり、その原因、経過、機序、神経学的局在はさまざまである。頻度は12〜75%と様々な報告がある。SLEの活動性が亢進しているときに発症しやすいが、そのほかの活動性が落ち着いていてもNPSLEのみが悪化することもあるとされる。1999年のACRによるSLEの神経精神症状の分類では、下記のように分類される(表3)。
表3. 1999年ACRによるSLEの神経精神症状の分類
中枢神経系 | 末梢神経系 |
---|---|
無菌性髄膜炎 | 急性炎症性脱随性多発神経根神経障害 |
脳血管障害 | 自律神経障害 |
脱随病変 | 単神経炎 (単性/多発性) |
頭痛 | 重症筋無力症 |
不随意運動(舞踏病) | 脳神経障害 |
脊髄障害 | 神経叢障害 |
てんかん性障害 | ポリニューロパチー |
急性混迷障害 | |
不安障害 | |
認知機能障害 | |
気分障害 | |
統合失調症様精神異常 |
The American College of Rheumatology nomenclature and case definitions for neuropsychiatric lupus syndromes. Arthritis Rheum. 1999. 42:599-608.
2. 評価
NPSLEの機序としては、炎症もしくは血栓に伴う虚血等が想定されており、治療方針決定のためには、それぞれの症例における病態が炎症性の機序なのか、血栓症が主体なのか見極める必要がある。
NPSLEを違う場合には感染症など他病態との鑑別も含めて下記のような検査を行う。また、SLE患者における精神神経症状の鑑別としては、NPSLEや感染症以外にも、steroid psychosisやthrombotic microangiopathyなども重要である。
表4. NPSLEを疑う患者で行う主な検査
検査 | 留意点 |
---|---|
頭部MRI | MRI上異常所見が認められない場合も多い点には留意する。 |
自己抗体 | 抗リン脂質抗体、抗ribosomal P抗体、抗NMDA抗体・抗NR2抗体、抗アクアポリン抗体など |
髄液検査 | 細胞数、IgG index、IL-6、感染症の除外 |
脳SPECT/PET | |
脳波 | |
神経心理学的検査 |
3.治療
脳炎や脳血管障害など緊急度の高い病態もあり、早急な治療開始を考慮する必要がある。
免疫抑制療法(グルココルチコイド療法・シクロフォスファミドパルス療法・血漿交換療法など)、抗血栓療法(抗血小板療法(低用量アスピリン)・抗凝固療法(ワーファリン))、対症療法(抗てんかん薬・抗精神病薬・抗不安薬・NSAID/トリプタン製剤)などが分類・病態により用いられる。
C. 関節炎
- SLEの91%で関節炎を認める。
- 通常非びらん性であるが、関節炎が持続するとJaccoud関節と呼ばれる変形を来たす場合もある。
- HCQやNSAIDsで治療し、コントロールが不十分な場合には、メトトレキサート(保険適応外)、ベリムマブ、アニフロルマブなどで治療を行う。
D. 血球異常
1. 白血球減少
- 通常軽度であることが多い。脾腫の合併、薬剤性、ウイルス感染、マクロファージ活性化症候群、血液系疾患の合併に留意する。抗顆粒球抗体が検出されることもある。
- 通常白血球減少のみを標的とした治療は行われないが、顆粒球<500/μLが持続し易感染性の場合には免疫抑制治療を行う。
2. 血小板減少症
- 自己抗体による末梢性の血小板破壊が主な機序で、PA-IgG, 抗GPIIb/IIIa抗体が検出される。抗リン脂質抗体症候群の合併によることもある。DIC, マクロファージ活性化症候群、TMA、血液系疾患等の迅速な鑑別を行う。
- 自己抗体による血小板減少の場合には、2万未満、および5万未満でも出血傾向がみられる場合等に治療適応となる。EULARのrecommendationsでは、mPSLパルスの後PSL0.5-0.7mg/kgに早期から免疫抑制剤の併用が推奨されている。具体的な免疫抑制剤としては、CY、RTX、AZP、MMF、CyA等が記載されている。
IVIGも有効であるが、効果が一時的であるため、出血時・手術前などに使用することが多い。TPO作動薬の有効性も報告されるが、血栓発症のリスクがある点に留意が必要である(Fanouriakis et al. Ann Rheum Dis 2024. 83: 15-29.)。
3. 貧血
- SLE患者における貧血の原因は多彩であり、慢性疾患に伴う貧血、溶血性貧血、赤芽球癆などに加えて、TMAなどに伴う貧血などを認める場合もある。
- SLE患者の5-10%程度に溶血性貧血の合併を認め、直接クームス試験陽性、溶血所見(ハプトグロビン低下、LDH, T-Bil上昇, 尿中ウロビリノーゲン上昇、網赤血球上昇など)等を認める。高用量のPSL で治療し、CY、MMF、AZP、CyA、RTXなどの有効性も報告されている。
4. TMA (Thrombotic microangiopathy)
微小血管障害性溶血性貧血と消費性の血小板減少症をみた場合、TMA (Thrombotic microangiopathy)を疑う。腎機能、発熱、破砕赤血球、意識状態などに注意する。SLEの数%にみられる。SLEのTMAでは、vWF特異的切断酵素(ADAMTS13)の活性を阻害する自己抗体を認め、ADAMTS13活性が著減する場合もあるが、ADAMTS13活性が著減しない場合もある。治療は血漿交換を開始しつつ、GCやRTX、CYなどの免疫抑制療法を併用する。
5. Macrophage活性化症候群(MAS)
SLEでは、Macrophage活性化症候群(MAS)に伴う血球減少を認める場合もある。2系統以上の血球減少、発熱、肝機能以上、高フェリチン血症、高TG血症を認める場合には、MASの可能性を考え、骨髄穿刺で血球貪食像を確認する。治療は、高用量のPSL, CyA, PE, IVIG, IVCYなどが用いられる。