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疾患解説

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東京大学 医学部附属病院  未診断疾患イニシアチブ

疾患解説

関節リウマチ(Rheumatoid arthritis: RA)

1.疾患概念と疫学

関節リウマチ(rheumatoid arthritis; RA)とは、持続する滑膜炎をきたす自己免疫性の全身性炎症性疾患で、炎症の持続により軟骨の破壊、骨びらんが生じることが特徴である。有病率は 0.5〜0.8%程度とされ、10代〜90代のどの年代でも発症しうる。男女比 1:4 とされているが、高齢発症例では男女差は目立たなくなる。原因については、RAは遺伝的な要因と、環境的な要因が合わさって発症に至る疾患と考えられている。遺伝的な要因については、HLA-DR多型が代表的かつ寄与率が最も高く、非HLA遺伝子についてもPADI4, CCR6, TNFAIP3など免疫に関連する遺伝子の重要性がいわれている。環境的要因としては、喫煙の関与、腸内細菌などの関与が知られている。遺伝的背景をもった個体に、なんらかの環境要因の影響があることで、免疫学的な異常を生じるとされている。発症数年前から抗CCP抗体などの自己抗体が出現しており、症状の出現に先立って、免疫学的な異常が生じていると考えられている。その後、関節痛をきたす時期を経て、RAの発症に至ると考えられている(Smolen J et al. Lancet. 2016など)。

2.臨床症状

  1. 関節炎:関節における腫脹、熱感、圧痛、発赤を確認する。
  2. 朝のこわばり:持続時間
  3. 関節変形の有無:Swan neck, ボタン穴、Z字変形、外反母趾など
  4. 皮膚:紫斑、潰瘍、リウマトイド結節(関節伸側、後頭部など)
  5. そのほかの関節外病変:間質性肺炎、アミロイドーシス、上強膜炎、神経障害など
  6. 全身症状:発熱、体重減少など。60歳以上で発症したRAすなわちEORA(Elderly-onset RA)では、60歳未満で発症する患者と比較し、大関節炎を主体とし、発熱、体重減少を伴うことも多く、突然発症することもあるため、リウマチ性多発筋痛症との鑑別が問題となる。

3.検査

1)関節破壊の評価

  • 単純X線写真:erosion, joint space narrowing(JSN), 変形の評価。頸椎病変の確認。研究目的ではmodified Sharp-van der Heijde score(mTSS)を計算する。JSNはHAQの低下と関連があるがerosionは明確でないとされる(Aleteha D et al. Ann Rheum Dis. 2011)。
  • 関節エコー:gray scaleによる滑膜肥厚・関節液貯留所見, power dopplerによる血流測定。簡便なため多くの部位を反復して行えるが、検者による差がある。
  • 造影MRI:滑膜炎、骨びらん、骨髄浮腫。骨髄浮腫は健常人でもみられる。

2)採血:

  • 炎症反応(CRP, ESR, フィブリノーゲン), リウマトイド因子(rheumatoid factor; RF), 抗CCP2抗体, マトリクスメタロプロテナーゼ3(MMP3)

3)HAQ 質問紙

4)VAS:

  • Dr-VAS, patient-VAS (*4.に詳述)

5)臓器合併症の評価

  • 胸部〜骨盤CT、呼吸機能検査など、必要に応じて。

6)薬剤治療導入前の評価

  • 間質性肺炎があれば画像評価、呼吸機能検査
  • ウイルス肝炎:HBs抗原、HBc抗体、HBs抗体、HCV抗体
  • 胸部CT(陳旧性肺結核r/o)
  • ツベルクリン反応(T-SPOT)
  • 悪性腫瘍鑑別のための上部・下部消化管内視鏡(ルーチンではない)

4.診断と活動性評価

1)診断

2010ACR/EULARによる分類基準を用いる(Aletaha D et al. Ann Rheum Dis. 2010)

適応対象集団

  • 1ヶ所以上の関節に明確な臨床的滑膜炎がみられる
  • 滑膜炎をより妥当に説明する他の疾患がみられない(全身性エリテマトーデス, 乾癬, 痛風などの除外)
    →6点以上でRAと分類
腫脹または圧痛関節数 1個の中〜大関節 0
2〜10個の中〜大関節 1
1〜3個の小関節 2
4〜10個の小関節 3
11個以上の大小問わない関節
(少なくとも1つは小関節)
5
血清学的検査 RF, 抗CCP抗体 陰性 0
RFか抗CCP抗体が低力価陽性 2
RFか抗CCP抗体が高力価陽性 3
滑膜炎の期間 6週間未満 0
6週間以上 1
急性期反応 CRPもESRも正常値 0
CRPかESRが異常値 1

(参考)過去に用いられた基準:ARA1987年分類基準(Arnett FC et al. Arthritis Rheum. 1988)

下記項目のうち4項目以上で分類されるが、早期診断には適さない。

1: 朝のこわばり(1時間以上持続)
2: 3領域以上の関節炎
3: 手関節、MCP関節、PIP関節のうち少なくとも1領域以上の関節炎
4: 2.で定義した領域における、対称性の関節炎
5: リウマトイド結節
6: RF陽性
7: X線変化:手/指関節の骨びらん、近傍の脱石灰化
*項目 1-4は6週間以上持続

2)RAの疾患活動性評価

RAの活動性は〔医師の診察所見〕+〔患者の自覚症状〕+〔臨床検査値〕を組み合わせたcomposite measureによって評価されるべきである。

2)-1. DAS28

日常的に最も多く使用されるcomposite measureである。

・DAS28-ESR=0.56×√(TJC)+0.28×√(SJC)+0.70×Ln(ESR)+0.014 ×(pVAS)
・DAS28-CRP=0.56×√(TJC)+0.28×√(SJC)+0.36×Ln((CRP)×10+1)+0.014 ×(pVAS)0.96

*TJC(/28): 圧痛関節数
*SJC(/28): 腫脹関節数
*pVAS(/100mm): 患者による全般評価

DAS28で使用される28関節

2)-2. CDAI / SDAI

患者による全般評価に加えて、医師による全般評価(dVAS)も行うと、CDAI(Clinical disease activity index), SDAI(Simple disease activity index)も計算可能となる。

・CDAI=TJC+SJC+pVAS)+dVAS
・SDAI=TJC+SJC+pVAS)+dVAS+CRP

*pVAS(/10cm): 患者による全般評価
*dVAS(/10cm): 医師よる全般評価

5.治療

欧州リウマチ学会(European League Against Rheumatism; EULAR)がRAの治療指針として提唱した"treat-to-target(T2T)strategy"では、生物学的製剤を含む疾患修飾性抗リウマチ薬(disease modifying anti-rheumatic drugs; DMARDs)を適切に併用し、治療目標を明確にし、RAの病勢を厳密なコントロールを目指す。初期の RA には、治療反応が良好な、いわゆる"window of opportunity"があることが知られ(Boes M et al. Arthritis Rheum. 2003)、これを逃さずに、各個人にとって最良の治療選択により疾患活動性を抑えることで、治療奏功の確率が上昇する。

EULARの治療ガイドラインが2022年に改訂された(Smolen JS et al. Ann Rheum Dis. 2023)。このプロトコルを参照しつつ、リスクに応じた治療導入と、少なくとも3か月ごとの疾患活動性評価を上記のcomposite measuresを用いて行う。寛解もしくは(合併症が多い場合や罹病期間が長い場合などは)低疾患活動性を目標に治療を行うべきである。寛解については、DAS28-ESR<2.6, SDAI≦3.3, CDAI≦2.8, Boolean寛解基準(TJC≦1, SJC≦1, 患者全般評価≦1cm[/10cm], CRP≦1mg/dl)の順に厳しい基準となる。なお骨破壊を防ぐにはSDAI/CDAI寛解以上を要する。近年はBoolean2.0基準(患者全般評価の基準を1cm→2cmへ引き上げ)を用いることで、CDAIやSDAIとの一致率を向上させつつ、放射線学的・機能的予後の予測能を維持を図っている(Studenic P et al. Arthritis Rheumatol. 2023)。

<EULAR2022 RA治療フローチャート>  (Smolen JS et al. Ann Rheum Dis. 2023)

1) conventional synthetic DMARDs(csDMARDS、従来型合成抗リウマチ薬)

ガイドライン上csDMARDsは、「メトトレキサート(MTX)、サラゾスルファピリジン、レフルノミド、ヒドロキシクロロキン等」と記載されているが、本邦でよく使用されるcsDMARDsは、MTX、サラゾスルファピリジン、ブシラミン、タクロリムス、イグラチモドである。(日本人ではレフルノミドによる薬剤性肺障害のリスクが高いため、日本ではあまり使われない。また、ヒドロキシクロロキンは本邦ではRAに保険適応がない。)

ガイドライン記載の通り、禁忌がない限り、まずはMTXを使用する

  • MTXの禁忌(JCRガイドラインより):妊婦もしくは妊娠している可能性やその計画のある患者、授乳中の患者、重症感染症を有する患者、重大な血液・リンパ系障害を有する患者(MDS・再生不良性貧血・赤芽球癆の既往、5年以内のリンパ増殖性疾患の既往、白血球<3000/mm3、血小板<5万/mm3)、肝障害を有する患者(B型またはC型の急性・慢性活動性ウイルス性肝炎を合併している場合、肝硬変と診断された場合)、eGFR<30ml/分/1.73m2以下に相当する腎障害を有する患者、高度な呼吸器障害を有する患者(室内気でPaO2<70mmHr、%VC<890%、画像上の高度の間質性肺炎)
  • MTXの慎重投与:潜在性結核感染症が疑われる例(イソニアジドの投与を行う)、軽度の間質性肺炎、B型肝炎ウイルスキャリア・既往感染者(「免疫抑制・化学療法により発症するB型肝炎対策ガイドライン」など参照しつつ、HBV-DNAをモニター、消化器内科コンサルトを考慮)、C型肝炎ウイルスキャリア(消化器内科コンサルト)、eGFR<60 ml/分/1.73m2以下に相当する腎障害など

2) 副腎皮質ステロイド・NSAIDs

  • 抗リウマチ薬の効果発現までに早くとも数週間かかる:効果発現までbridgingとして副腎皮質ステロイド(内服、関節腔内注射)、NSAIDsを用いる。
  • 副腎皮質ステロイドの使用に関して、csDMARDsを開始・変更する場合には、短期ステロイド併用を検討し(≦3か月)、可能な限り速やかに漸減・終了する。なお、副腎皮質ステロイドの併用に関しては、疾患活動性や合併症を踏まえて検討する。短期の併用による疾患活動性抑制や骨破壊抑制作用が期待されるが、心血管系リスク、骨粗鬆症等の副腎皮質ステロイド副作用を考慮する必要がある。

3) 生物学的製剤(bDMARDs)

  • 本邦で使用できるのはTNF阻害剤(infliximab、etanercept、adalimumab、certolizumab pegol、golimumab、ozoralizumab)、 抗IL-6R抗体(tocilizumab、sarilumab)、CTLA-4Ig(abatacept)である。infliximab、etanercept、adalimumabについてはバイオシミラーも上市されている。
  • これらの薬剤は、RAの速やかな臨床的改善とともに、関節破壊の強力な抑制効果も示す。
  • 現時点で、生物学的製剤にHead-to-headの比較試験はほとんどないが、下記を参照に薬剤の選択する
    • 基本的にTNF阻害薬はMTXを併用した方が良好な効果が得られるため、可能であればMTXと併用する。MTXを併用できない症例ではIL-6阻害薬、高容量のTNF阻害薬(golimumab 100mg)が考慮される。
    • abataceptは抗CCP抗体陽性例で有効性が高く、抗CCP抗体陰性例では、abatacept以外の製剤を優先する。
    • 投与方法(点滴vs皮下注射、投与間隔)が製剤によって異なるため、その点も考慮する。
  • 副作用について、感染症リスクは生物学的製剤間での差は「ほとんど」ないようだ(Pawar A et al. Lancet Rheumatol. 2020)。
    • abataceptは比較的感染症のリスクが低いと考えられている。抗TNF製剤の中ではinfliximabが感染症のリスクが高いとされている(Yun H et al. Ann Rheum Dis. 2015)。
    • IL-6阻害薬は、急性炎症反応を強力にマスクするため、感染症が起きてもCRPは上昇していない場合が見られる。患者の症状も比較的軽微でありながら重篤な感染症が起きた事例の報告もあり、注意を要する(感染症発症の頻度自体は他の生物学的製剤と変わらないと報告されている)。
  • 導入前に
    • 潜在性結核の評価
    • 悪性腫瘍についてage-appropriate screeningがなされていること
    • 心不全の有無(抗TNF製剤による心不全悪化の報告があるため、日本リウマチ学会のガイドラインではNYHA III度以上は抗TNF製剤投与の禁忌となっている。abataceptとtocilizumabに関しては心不全患者でも使用可能)
    • 脱髄性疾患の家族歴がないこと
    を確認しておく必要がある。
    潜在性結核について:米国疾病予防管理センターによるTNF阻害薬使用前の結核スクリーニングガイドラインでは、ツベルクリン反応での硬結径 5mm以上を陽性としているが、本邦ではBCG接種のため解釈が困難なこともあり、しばしばケースバイケースの判断を余儀なくされる。
    ツベルクリン反応(T-SPOT)、胸部CT(における陳旧性結核陰影)のいずれかが陽性であれば、イソニアジド(イスコチン)を5mg/kg(最大 300mg/day)開始、開始後3週間してから生物学的製剤を導入する。
    悪性腫瘍について、家族歴などのリスクを勘案の上、上部消化管内視鏡検査、下部消化管内視鏡検査(あるいは便潜血複数回陰性を確認)、腹部超音波検査、マンモグラフィー+超音波 などのスクリーニングを行う。
    心不全については無症状であるかどうかを確認の上、BNP基準値であれば問題ない。
  • また導入前に、
    • 肺炎球菌ワクチン
    • インフルエンザワクチン(毎年)
    の接種が望ましい。

4) JAK阻害薬(tsDMARD)

  • サイトカインのシグナル伝達に重要であるJAK(Janus kinase)を阻害する経口薬剤である。試験によって差があるものの、どのJAK阻害薬でも単剤、MTX併用およびadalimumabを対象として同等またはそれ以上の有効性が報告されている。csDMARDsで治療目標が達成できなかった際の次の治療薬として、生物学的製剤とJAK阻害薬のいずれかが考慮されるが、2022年EULAR recommendationではJAK阻害薬使用時にはリスク因子を考慮に入れるべきであると提言されている。
  • 本邦では、現在5種類(Tofacitinib, Baricitinib, Upadacitinib, Filgotinib, Peficitinib)がRAの治療薬として承認されている。JAK選択性、代謝などに違いがある。
  • 日本人では帯状疱疹が多いため、投与前の帯状疱疹ワクチン投与などの対策を考慮する。
  • 合併症として、感染症の他、低頻度であるが血栓塞栓症に注意が必要である。また悪性腫瘍についても注意を要する(Rusel MD et al. Ann Rheum Dis 2023)。

5) Denosumab(抗RANKL抗体)

  • 骨芽細胞などの膜表面に発現しているRANKLを阻害することにより破骨細胞の分化・誘導・骨吸収能力の抑制をもたらす。当初骨粗鬆症の治療薬として販売されたが、RA患者において骨破壊抑制効果が報告されており(Cohen SB et al. Arthritis Rheum. 2008)、RAの治療としても承認された。

6. その他Topics

1)間質性肺炎合併関節リウマチ(RA-ILD)

  • 有病率はRAの19-61%、リスク因子として高齢、男性、喫煙、活動性の関節炎、RF陽性、抗CCP抗体陽性、MUC5B(粘液産生に関連)のpolymorphismsが挙げられる(Koduri G et al. Arthritis Rheumatol. 2023)。
  • 呼吸機能検査におけるFVC, DLcoの低下はRA-ILDの重症度と関連する。ただし、抗分解能CT(HRCT)でのILDを認めても、FVCが正常のことも多く、注意を要する。
  • 治療:臨床的に有意な呼吸機能低下を認め、緩徐に進行する例、あるいは急速に進行する例では、免疫抑制治療を行う。中等量〜高用量の副腎皮質ステロイドとともに、シクロスポリン、タクロリムス、アザチオプリン、シクロホスファミド、abataceptなどの併用を検討する。

2) MTX pneumonitis

  • 発症:多くはMTX内服開始1年以内に発症するが、数年から十数年を経ての発症も時々見られる。用量には依存しない。
  • リスク因子:年齢(60歳以上)、リウマチ性の肺病変・胸膜病変、低アルブミン血症、DMARDs使用歴、糖尿病など(Alarc?n GS et al. Ann Intern Med. 1997)
  • 機序は主に過敏反応が想定され、時に末梢血好酸球上昇を認める。
  • 画像:HRCTでは広範なすりガラス様陰影が典型的であり、しばしば汎小葉性のモザイクパターンを示す。
  • 治療:MTX中止のみで改善が得られることも多いが、中等症以上の症例では副腎皮質ステロイド療法を考慮する。

3) MTX関連リンパ増殖性疾患(MTX related lymphoproliferative disorders; MTX-LPD)

  • MTX使用患者におけるリンパ増殖性疾患。ほとんどが自己免疫性疾患からの報告で、大部分がRA症例。WHO分類では、免疫不全に伴うLPDの亜群の一つ("Other iatrogenic immunodeficiency-associated lymphoproliferative disorders")に分類される。
  • リスク因子:RAの高疾患活動性やLDH(Shimizu Y et al. Clin Rheumatol. 2017)。なお、MTX使用量とMTX-LPD発症の関連の有無については見解がわかれている(Kameda T et al. Arthritis Care Res(Hoboken). 2014)(Tokuhira M et al. Leuk Lymphoma 2012)。
  • 特徴的な臨床像:a)節外病変が多い b)病理像が多彩かつ複雑 c)Epstein-Barr virus(EBV)陽性率が高い d)MTX中止により自然退縮が認められうる
    1. 病変分布:リンパ節以外に、肺や口腔・鼻咽頭、皮膚など多彩な節外病変が出現しうる。
    2. 病理:びまん性大細胞型B細胞性リンパ腫が最多。ただし病理像は複雑なことも多い。病理組織学的にはMTXの投与なしに発症したリンパ腫と区別はできないとされる。
    3. EBVとの関連:MTX-LPDの大部分でEBVの活性化がある。よってMTX-LPD発症の機序として、MTXによる免疫抑制状態下で、ウイルス感染ないし不顕性感染ウイルスの再活性化が起こり、もともと疾患として特定クローンの自己反応性T,B細胞が存在しやすくなっているところで、細胞のクローナルな増殖を助長する可能性が推測されている。EBVが活性化した症例ではMTX中止のみで寛解する可能性が高いことが報告されている。
    4. 経過:中止のみで消退する可能性があることから、まずはMTXを中止し経過観察。中止後2週間経過しても症状の改善がない場合には、通常のリンパ腫として化学療法を考慮する。ただし少なくとも8週程度までは化学療法を行わずに経過観察できる可能性も報告されている(Inui Y et al. Leuk lymphoma. 2015)。再発例も存在することから、長期フォローを要し、MTXの再投与は避けるべきとされる。

4) rheumatoid vasculitis(リウマトイド血管炎)

  • RAを背景として発症する血管炎。通常小〜中型血管が侵されるが、大動脈炎の症例報告もある。かつては悪性関節リウマチとも呼称されていたが、2012年国際Chapel Hillコンセンサス会議以後はリウマトイド血管炎が病名として用いられている。
  • 生物学的製剤によるRA治療の進歩と喫煙率の低下から、有病率は低下傾向にある(Mertz P et al. Autoimmun Rev. 2023)。
  • リスク因子:男性、関節外病変の存在、高疾患活動性、罹病期間の長さ、喫煙、RF陽性、抗CCP抗体陽性、Felty症候群
  • 症状:全身症状(80%。発熱・体重減少)、皮膚所見(90%。壊死・皮膚潰瘍など)、末梢神経障害(40%)、心病変(30%。心外膜炎・冠動脈炎・心筋梗塞・不整脈など)、眼病変(15%。辺縁潰瘍性角膜炎)など
  • 疾患活動性評価: The Birmingham Vasculitis Activity Score(BVAS)の関節炎の項目を除いた改訂BVAS/RAを用いることが多い。
  • 検査:血清補体価低下、免疫複合体高値(いずれも病勢とともに改善する)
  • 診断基準

    <悪性関節リウマチ改訂診断基準>  (厚生労働省研究班 1998年)

    臨床症状
    ①          多発性神経炎:知覚障害、運動障害いずれを伴ってもよい。
    ②          皮膚潰瘍又は梗塞又は指趾壊疽:感染や外傷によるものは含まない。
    ③          皮下結節:骨突起部、伸側表面又は関節近傍にみられる皮下結節。
    ④          上強膜炎又は虹彩炎:眼科的に確認され、他の原因によるものは含まない。
    ⑤          滲出性胸膜炎又は心嚢炎:感染症など、他の原因によるものは含まない。癒着のみの所見は陽性にとらない。
    ⑥          心筋炎:臨床所見、炎症反応、筋原性酵素、心電図、心エコーなどにより診断されたものを陽性とする。
    ⑦          間質性肺炎又は肺線維症理:学的所見、胸部X線、肺機能検査により確認され、病変の広がりは問わない。
    ⑧          臓器梗塞:血管炎による虚血、壊死に起因した腸管、心筋、肺などの臓器梗塞。
    ⑨          リウマトイド因子高値:2 回以上の検査でRAHA ないしRAPAテスト2,560 倍以上(RF 960IY/ml以上)。
    ⑩          血清低補体価または血中免疫複合体陽性:2 回以上の検査で、C3、C4 などの血清補体成分の低下もしくはCH50による補体活性化の低下をみること。または、2 回以上の検査で血中免疫複合体陽性(C1q 結合能を基準とする)をみること。
    組織所見
    皮膚、筋、神経、その他の臓器の生検により小ないし中動脈に壊死性血管炎、肉芽腫性血管炎ないしは閉塞性内膜炎を認めること。
    判定基準
    関節リウマチ(2010年ACR/EULAR分類基準)を満たし、上記の臨床症状3項目以上、又は臨床症状1項目以上と組織所見があるものを悪性関節リウマチと診断する。
    鑑別疾患
    感染症、続発性アミロイドーシス、薬剤性間質性肺炎、薬剤性血管炎(*)、フェルティ症候群、全身性エリテマトーデス、全身性強皮症、多発性筋炎などの重複に留意する。関節リウマチや悪性関節リウマチにシェーグレン症候群を合併することもある(10%)。

    (*)生物学的製剤による血管炎の報告も増えてきており、RA患者が血管炎を発症した際には鑑別を要する(Gutiérrez-González LA et al. Curr Rheumatol Rep. 2016)
  • 治療:RAに対する治療に加え、血管炎に対し副腎皮質ステロイドとシクロホスファミドを中心とする治療を検討する。TNF阻害薬やリツキシマブ(本邦では保険適用外)が検討される(Puéchal X et al. Arthritis Care Res(Hoboken). 2012)(de Cerqueira DPA et al. Clin Rheumatol, 2021)。

5) Felty症候群

  • 三徴:RA、好中球減少、脾腫
  • 臨床的背景:滑膜炎が軽度から認めない一方で、重度の関節破壊を有することが特徴的。リウマトイド結節、リンパ節腫脹、肝障害、血管炎、下肢潰瘍、皮膚の色素沈着などの重度の関節外疾患の合併が多い。
  • 病態:Fasを介したアポトーシス、抗好中球抗体、抗G-CSF抗体、NETosisに関連した好中球の消費、T-LGLによる顆粒球産生抑制など複数提唱されている。
  • 鑑別疾患:多様な感染症、悪性腫瘍、自己免疫疾患など
  • 治療:好中球減少とそれに伴う細菌感染に対しては、通常の好中球減少時の感染に準じて対応を行う。免疫抑制加療としては、稀な疾患であるためevidenceはcase seriesレベルだが、MTXが1st choiceで、ついでリツキシマブの有用性が示唆されている。

6) 喫煙との関係

  • RA発症に関与する機序:喫煙が肺におけるシトルリン化蛋白を増加させる可能性などが報告されている(Liao KP et al. Curr Opin Rheumatol 2009)。
  • 喫煙は、RA発症のリスク因子であり、特にshared epitope(*)陽性例において発症のリスクを高める(Liap KP et al. Curr Opin Rheumatol. 2009)。
    • (*)shared epitope: RAのリスクとなるHLA-DRB1アリル(0101,0401, 0404, 0405等)において共通する70-74番目のアミノ酸配列。
  • 抗CCP抗体陽性例、中でも抗CEP-1抗体、抗vimentin(Cit-vim)抗体陽性例との関連が示唆されている(Fisher BA et al. Ann Rheum Dis. 2014)。

7) Difficult-to-treat RA

治療困難なRAとして、EULARから"Difficult-to-treat(D2T)RA"の定義が提唱された(Nagy G et al. Ann Rheum Dis. 2021)。D2T RAの臨床像は単一ではなく、真の治療抵抗性例のほかにも、社会心理的な状況や合併症の影響などによる治療困難例が含まれていることに留意する。

<EULAR definition of difficult-to-treat RA>(Nagy G et al. Ann Rheum Dis. 2021)
1.           EULAR recommendationに従い治療しているにもかかわらず、csDMARDs治療のあと2剤以上のb/tsDMARDs(異なるmode of action)により治療されている。
2.           以下に定義されるうち、1つ以上の活動性・進行性疾患を示唆する徴候がある:
a.       少なくとも中疾患活動性以上(例えば DAS28-ESR>3.2 or CDAI>10)。
b.       活動性疾患の徴候(急性期反応、画像など)、疾患活動性を示唆する症状(関節ほか)が存在する。
c.        グルココルチコイドを減量できない(PSL換算7.5 mg/day以下)。
d.      (疾患活動性の有無にかかわらず)急な画像上の(骨破壊)進行がみられる。
e.       上記の基準では疾患活動性が制御されているにもかかわらず、QOLの著しい低下を招くリウマチ関連の症状が残存している。
3.           徴候・症状のマネジメントについて、リウマチ専門医・患者により解決が難しいと考えられている。

8) RAの精密医療(precision medicine)

精密医療(precision medicine)とは、生物学的な知見に基づいて個人を層別化し、最適な予防・治療を選択するアプローチである。

近年RAの大規模コホートにおけるトランスクリプトームデータによる免疫細胞フェノタイピングの試みが急速に進展している。大規模な欧州コホートである早期未治療患者から得られた血液およびの滑膜データである早期関節炎コホート(the Pathobiology of Early Arthritis Cohort: PEAC)と、米国のAccelerating Medicines Partnership(AMP)program の滑膜データ(Zhang F et al. Nat Immunol 2019, Zhang F et al. Nature 2023)が、その最たるものである。それぞれ滑膜のトランスクリプトームデータに基づいた層別化が、治療反応性を含む臨床的特徴と関連する可能性が見いだされた。

さらに、R4RA trial(Humby F et al. Lancet 2021)およびSTRAP trial(Rivellese F et al. Lancet Rheumatol 2023)は、滑膜組織の分子プロファイルによる精密医療を念頭においた、初の滑膜生検に基づく、ランダム化比較試験である。R4RA trialではTNF阻害薬1剤以上に無効であった患者を対象とし、滑膜中のB細胞が少ない("B cell poor")患者では、リツキシマブよりもトシリズマブの方が有意に高い治療効果が示された。なおこの知見は、bDMARDs未使用の患者を対象としたSTRAP trialでは再現されなかった。

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