KOMP2 (Knockout Mouse Phenotyping Program) and IMPC (the International Mouse Phenoptyping Consortium) Annual Fall Meetingに参加して
中村卓郎(東京医科大学 医学総合研究所)
2022年12月8日〜9日に開催されたKOMP2 & IMPC 2022 Annual Fall Meetingに昨年に引き続いて参加し、遺伝子変異マウスのコンソーシアムの活動状況に触れる機会を得たので報告する。
IMPCは世界10カ国26研究機関が参加するコンソーシアムで、遺伝子改変マウスの作製とターゲッティングコンストラクトやES細胞の保存を行い、マウスのフェノタイプ解析を行って研究成果の発信と情報共有を目的としている。日本からも理化学研究所バイオリソース研究センターが参加している。KOMP2は米国NIHの傘下期間の National Human Genome Research Institute (NHGRI)が運営するプログラムで、IMPCと協同して活動を行っている。
COVID-19の感染蔓延以来オンライン開催が続いていたAnnual Meetingも、本年は米国メリーランド州ベセスダで開催される予定であったが、直前になって会場の確保が困難となり全てwebでの開催となった。2日間の日程で150名以上が参加し、1年間の活動状況、各グループの活動概要と成果、IMPCの活動から発展した個別の研究成果が紹介されるのは今年も例年通りであった。2年前に設けられたアジア太平洋地域のセッションは定着した印象があり、今回もオーストラリア、韓国、日本、中国、インドにおけるIMPC参加機関の活動内容が紹介された。特に、中国からの発表施設が増えたことは、現地での動物実験の発展を裏付けるものと思われた。IMPCにおけるフェノタイプ解析は、コロナ禍の影響により目標よりは遅れているものの、本年までに8267遺伝子変異によるフェノタイプデータを得られている。さらに、CRISPRシステムによる遺伝子改変技術の加速も順調に進んでいる。
IMPCの活動は11のワーキンググループ(Production, Embryo phenotyping, Later adult phenotyping, Immunophenotyping, Molecular phenotyping, Cardiovascular & Metabolism, Behavior & Sensory, Pain, Morphology, Haplo-essential, Infertility)に分かれて行われているが、今回のミーティングでも各ワーキンググループごとに代表者から1年間の活動実績について報告があった。先端モデル動物支援プラットフォーム(AdAMS)の班構成である病理形態、生理機能、分子プロファイリングとは、大きく異なった実施体制だが、IMPCで扱っているマウスの系統数を考慮すると、このような細かい検討体制が必要かもしれない。
個別のグループ発表として興味深かったものとしては以下が挙げられる。
心血管グループは、グループの最初の論文として486の新たな心血管疾患関連遺伝子をNat Communに発表した。分子フェノタイピンググループは、哺乳動物の遺伝子機能と遺伝子関連フェノタイプの包括的なカタログ化を目指していて、疾患原因遺伝子の修飾因子の発見に力を注いでいる。行動・感覚グループは、ホームケージモニタリングシステムを使って非刺激時のマウスの行動データの獲得を行なっている。胎児フェノタイピンググループは、IMPCで登録された変異系統の胎生致死を調べ上げて、生存可能変異4889、胎生致死変異1884、胎生亜致死806になることを報告した。不妊グループは、これまでに報告された211のヒト不妊関連遺伝子の内、37が変異マウスでも不妊が確認されたことを発表した。変異マウス作製グループは、現在のノックアウト戦略について全てCRISPR/Cas9が使用されていて、①premature termination codonの作製、②必須なエクソンの欠失、③コーディング領域の全欠失の何れかを行なっていること、さらにdCas9-DNMTを使ったCRISPR offシステムも導入していることを報告した。
今回は特別企画として、AIや機械学習を用いたマウス遺伝学と遺伝子機能の解析について演題が集められていた。特に、キーノートスピーチとして招待されたカリフォルニア大学サンディエゴ校のDr. Trey Idekerの講演では、機械学習を用いたがん細胞の分子地図の作成について触れられ、肺腺がんにおいて49%と予想外の高頻度で見られるコラーゲンファミリー遺伝子群の変異や、頭頸部扁平上皮がんにおける蛋白相互作用の包括的解析、薬剤感受性の予測など、最近の機械学習による研究成果が示されて興味深かった。また、ロンドン・クイーンメアリ大学のDr. Pilar Cacheiroの発表ではIMPCのデータを使った機械学習によって疾患モデルマウスの形質評価をしたところ、ヒト疾患とマウスモデルの間でフェノタイプが相関していると判断されたものは8008例中1265例(15.8%)に過ぎないという失望される結果になっていた。
KOMP2/IMPCの活動状況とその研究成果は、AdAMSの今後の方針にも大変参考になると今回も感じられた。ヨーロッパにおける動物実験は我が国やアメリカと比較して不自由な点が多いこともディスカッションの中で改めて浮き彫りになり、今後の我が国における動物実験の在り方を考える上でも積極的な情報交換を継続したい。