1. HOME
  2. 国内外ネットワークとの連携
  3. 米国神経病理学会(American Association of Neuropathologists: AANP)年次総会に参加して

 

米国神経病理学会(American Association of Neuropathologists: AANP)年次総会に参加して

齊藤 祐子(東京都健康長寿医療センター)

この度、2024年6月6日〜9日に開催された、米国神経病理学会(American Association of Neuropathologists: AANP)年次総会に参加し、コホート・生体試料支援プラットフォーム(以下、CoBiA)の活動内容を紹介するとともに、様々な現地研究者と意見交換を行った。以下にその様子をレポートする。

米国では、病理学は、解剖病理(Anatomic Pathology: AP)、臨床病理(Clinical Pathology: CP)、神経病理(Neuropathology: NP)、法医学病理(Forensic Pathology: FP)の領域のうち、APを必須として、残り1つをとることで、病理専門医として認められる。CPは日本では中央検査部にあたる。明治期に欧米の医学を移籍する時、CPは内科が担うかたちとなり、現在に至る。米国ではAP、CPの2つの部門の研修を2年ずつ認定施設で受けたあと、1年の追加訓練期間よりなる5年間のトレーニング期間を終えて、資格試験に合格することで、AP、CPとしてスタッフにつくことができる。一方神経病理専門医スタッフの地位につくためには、AP、NPの2つの資格を、同様の期間のトレーニング後、資格試験に合格する必要がある。

米国の場合これらは医師免許と同様国家資格であり、日本のように学会認定専門医とは重みが違う。本邦でも日本神経病理学会が、認定医制度を発足させており、筆者は委員会の委員である。学会認定とはいえ、神経病理専門医資格を構築している国は、米国を除いては極めて数が少ない。今回参加した、AANP年次総会は、AP、NP専門医の集団を基盤とする学会年次総会である。

今回はAANP100周年記念大会ということで、様々なプログラムやイベントが組まれていた。

開催場所は冬のリゾート地、開催時期は6月6日から9日の季節外れだが、朝食から夜までほぼ一日中学会の聴講や発表、ディスカッションという密なスケジュールで、オンサイトならではのコミュニケーションが取れたことは極めて有益であった。

第一日目(6月6日)

ポスターや口演の一般演題は無く、神経病理学の種々の分野において、その「歴史」と、「将来」という組み合わせでそれぞれの専門家による13の教育講演が行われ、知識の総まとめを整理する良い機会が得られた。またどの分野においてもRNA-Seq(RNAシーケンス/トランスクリプトーム解析)がFFPE(formalin fixed paraffin embedded)ブロックからも施行され、多数の成果が出ているのが印象的であった。脳腫瘍の術中レーザー顕微鏡による手術の成果も発表され、臨床における技術の進歩も知ることが出来た。

第二日目(6月7日)

通常の教育講演とともに一般口演セッションやポスター発表が行われた。国際的なリーダーによる発表もあり、論文で情報を得るだけではない醍醐味があり、今後の自らの研究へのヒントを得ることが出来た。米国留学中、あるいは本邦から参加した若手日本人の発表も少なからずあり、その熱意、英語力には感心した。

第三日目(6月8日)

二日目同様に、一般演題の後半部分と、教育口演がなされ、昨年に続き、筆者もポスター発表で、CoBiA を構成する、ブレインリソースの構築・運用支援として、日本神経科学ブレインバンクネットワーク(Japanese Brain Bank Network for Neuroscience Research: JBBNNR)2023年次報告の発表を行った。

東京都健康長寿医療センター(Tokyo Metropolitan Institute for Geriatrics and Gerontology: TMIGG)は、本邦で最も大規模なバイオバンクの一つであるバイオバンクジャパン(Biobank Japan BBJ 2003年発足)の創設メンバーである。CoBiAを構成するJBBNNRの中核施設である高齢者ブレインバンク(Brain Bank for Aging Research: BBAR)(1999年発足)は、TMIGGの事業として運用されているが、BBJとBBARの両方に約100名が登録されていることが昨年明らかになり、それらの方々の統合的ゲノム研究を開始したことを報告した。さらに、BBJ参加者に、BBARの活動内容と、ブレインバンクドナー登録制度についての広報活動を行い、ドナー登録を推進する内容を報告した。

多くの閲覧者に「すごいことだ」「これはdecadesにわたる大きな仕事だ」という感想と励ましをいただいた。また、日本病理学会病理専門医による全身病理の所見が全例にあり、末梢自律神経系・神経・筋も、網羅的に解析している点についても、脳のみの蒐集に留まる米国のブレインバンクでは不可能なリソース構築として興味を持たれた。翌日の教育口演で、National Institute of Health(NIH)研究費を受けたバイオバンクと神経病理の協力」という話題が出ていたが、「バイオバンク協力者がどこかで病理解剖に付されていないかを、コーディネータが追跡している」との発表がされていた。バイオバンクとブレインバンクが密接に協力可能なのは、国土が狭く小回りの利く、日本でこそ成し得る事業であると再認識した。

この日の20時から23時には、恒例のDiagnostic Slide Session(DSS)が行われた。この学会構築の基となったプログラムであり、神経画像を含めた臨床情報の発表に加え、あらかじめウエブ上に公開されている該当症例のバーチャルスライドの閲覧により、聴衆が鑑別診断や意見を述べ、その後演者が解答と解説を加えるという企画である。今回は合計11例が提示されたが演題は広範囲にわたり、どれもレベルが高いものだった。日本神経病理学会でもこれに倣い、20年前より同様の企画を継続しており、筆者は現在その責任者を務めている。本家に参加して、事前公表バーチャルスライドの質、選出された症例の良否、冗談も交じる盛んなディスカッションなど、学ぶべきところが多く、実り多いものであった。


筆者のポスター発表。我々と同分野の研究の第一人者の一人であるMayo Clinic のDickson DW教授とも意見交換が出来た。

第四日目(6月9日)

Presidential symposiumを中心に行われ、日本でも協力関係を模索している、法医学と神経病理の協力について、AIの活用について、学会発表スライドや論文作成にあたってのchat GPTの利用についてなどの話題が、実際的で身近な問題であり、興味深かった。

最後に

神経病理に興味があり、海外で勉強している日本の若手との交流を持ったなかで、「日本では神経病理医としてのポストがほとんどない」という問題を改めて実感し、解決すべき課題と思わされました。また、女性の演者、座長が多く、活力と自己肯定感に満ちていることが印象的でした。

約25年前の留学時にも強く感じたことですが、日本人の生来のきめ細かさは、神経病理学の発展や、神経科学の礎としての役割において、有利であることを改めて実感しました。今回、オンサイトで、論文でしか名前を見ない方々とお会い出来る醍醐味と刺激は大きく、生命科学連携推進協議会より旅費の一部を支援いただき、学会に参加出来たことに感謝したいと思います。また、CoBiAの今後の運用にも参考になる知見が得られました。

国内外ネットワークとの連携

支援に関するご質問はこちら

よくあるご質問

支援利用者インタビュー

パンフレットダウンロード

科研費データベース

科学研究費助成事業