新型インフルエンザによる重症呼吸不全のデータ解析
日本呼吸療法医学会・危機管理委員会
今年度の新型インフルエンザ (A-H1N1)は感染者の年齢層が昨年度と異なり、20~50歳代に多く出ています。そこで、昨年度に日本呼吸療法医学会・新型インフルエンザ委員会(現・危機管理委員会)へ症例登録を行っていただいたデータから重症呼吸不全患者データ解析結果をお届けします。
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- 重症呼吸不全において、簡易テストが陰性でPCR検査で確定診断がついた症例が約1/4もあった。治療開始の遅れは致命的であり、原因不明の重症呼吸不全ではA-H1N1を疑い、速やかにPCR検査を考慮することを推奨する。特に人工呼吸管理になっている場合は、咽頭ぬぐい液ではなく下気道からの分泌物(喀痰など)でPCR検査を行うべきである。
- 抗ウイルス薬は、できる限り早期に用い、奏効しない場合には増量ならびに投与延長を考慮すべきである。
成人(16歳以上)の重症呼吸不全患者データ解析結果の要約
成人(16歳以上)33人(男性23人、女性10人)。
死亡率30.3%(10人)。男性で有意に高かった。
男性の死亡率 (45.0%)、女性の死亡率 (7.7%)、p=0.023。
APACHE II scoreは死亡例で有意に高かった。
生存例18、死亡例24、p=0.028。
SOFAスコアは死亡例で有意に高かった。
生存例9、死亡例11、p=0.028。
初診時体温(全症例38.2度)は死亡例で有意に低かった。
生存例 38.8度、死亡例 37.7度、p=0.025。
簡易診断キットが陰性で、PCR検査が陽性であった症例が24.4%(8人)いた。
生存例 17.4%、死亡例 40.0%、p=0.164。
リスクファクターの合併。
免疫不全 21.2%、慢性呼吸器疾患 18.2%、精神神経疾患 15.2%。
COPDは死亡例で多く合併していた(生存例 4.3%、死亡例 30%、 p=0.038)。
治療経過中のacute kidney injuryまたはacute hepatic failureの合併は死亡率を上げた。
Inotropic agentsは60.6%(20人)に使用。CHDFは27.3%(9人)に使用。
抗ウイルス薬のオセルタミビルは全例に投与。15.2%(5例)で増量、21.2%(7例)で延長投与。
High doseステロイド療法は27.3%(9人)に行われた。
生存例21.7%(5人)、死亡例40%(4人)、p=0.279。
Low doseステロイド療法は42.4%(14人)に行われた。
生存例43.5%(10人)、死亡例40%(4人)、p=0.853。
シベレスタットは48.5%(16人)に投与。
生存例47.8%(11人)、死亡例50%(5人)、p=0.909。
ECMOは4人に導入され、うち1人が死亡した。ECMO導入例では、「人工呼吸開始直後のPaO2/FiO2」は、非ECMO例と比較して有意に低かった。
ECMO導入例 75、非ECMO例128、p=0.034。
(注: 統計計算の数値は中央値で表した。)
小児(16歳未満)の重症呼吸不全患者データ解析結果
(なお小児のデータは死亡例の報告が1例だったため、生存群と死亡群との比較は行っていません)。