セミナーのご案内
第一回 医師向け 人工呼吸管理 基礎教育プログラム 質問・回答
★その他
- Q1:無気肺50%の時、6cc/kgで換気すると12cc/kg相当になるとのことでしたが、無気肺率は実際どのように計算したら良いのでしょうか? CTで予測?
- Q2:リクルートメント手技の適応や手法について(手法はいくつかの種類があると思うのですが)、先生の御施設での経験や基準があればお教えください。
- Q3:人工鼻と加湿器の併用で気道閉塞は何故おきたのか?
- Q4:重症呼吸不全の栄養管理について、脂肪製剤(イントラリポス)の位置付けについて教えてください(投与すべきか否か、抹消から投与すべきかCVから投与してもよいかなど)
- Q5:気管チューブの定期的交換は、VAPの発生率にどのような影響があるでしょうか?
- Q6:抜管前の内視鏡検査は気管支ファイバーを使用するのでしょうか? 観察する部位、ポイントは?
具体的な方法として確立されたものはないと思います。
術前から肺に問題のない術後症例では30/30つまり30センチ30秒のホールド、ARDSでは40/40も使ってみます。うちのICUではほとんどのARDSで40/40では酸素化は全く改善されません。その場合、Amatoの段階的にPEEPを上げていく方法を使います。換気圧は15で固定し、PEEPを20から5ずづ上げて数回から最長1分まで換気します。循環抑制が出ないことが条件ですので、症例により換気時間は変わります。最高PEEPは40~45センチまで使用します。この方法は慣れていないと合併症を起こすリスクが高いので、慣れた施設で十分研修してから試すようにしてください。Amatoの方法を使うのは十分に輸液され循環が安定していて、CTで背側に虚脱が確認できており、P/Fが100以下の症例が多いです。心臓術後ではリスクが高いので十分な注意が必要です。
人工鼻と加温加湿器とを併用した場合、人工鼻の過度の吸湿による流量抵抗の増加や、人工鼻の閉塞の危険性があり低圧アラームが作動しなくなるおそれがある(図3参照)、人工呼吸器等の低圧アラーム値の設定によっては、回路の外れやリークが生じても、低圧アラームが作動しなくなるおそれがある。(医薬品・医療機器等安全性情報 No.251)
経腸栄養剤に脂質が入っていない場合(たとえば成分栄養剤や一部の消化態栄養剤などによる場合)、脂肪製剤を使用して必須脂肪酸を補う必要があります。 鎮静薬としてpropofolが使用されている場合には、その量によっては代用できていると考えます。脂肪乳剤は、浸透圧が高くないので末梢、中心静脈いずれでも使用可能です。ただ、脂肪乳剤は、防腐剤を使用しておらず、汚染されると細菌が増殖し、重篤な感染症が起こるおそれがあります。したがって、ラインの交換が比較的簡単な末梢静脈を第一選択とすべきです。
まず、経口気管チューブでは、定期交換という考え方自体がありません。経口気管チューブを抜管できない場合には、特殊な状況がない限り1週間~2週間で気管切開に移行するのが一般的です。したがって、定期交換の対象は、気管切開チューブということになります。
気管チューブおよび気管切開チューブの定期交換が必要ではないかと推測させられる研究はいくつかあります。24時間以上気管挿管下に人工呼吸された患者の吸引物を週2回採取して細菌検査すると、患者の87%で細菌のコロニー形成を認め、抜管した気管チューブの内面には95%でバイオフィルムを確認し、患者の56%では吸引物とバイオフィルム内に同じ細菌を検出しています。さらに、患者の19%がVAPに発展し、その原因菌は上記の同一菌と100%一致していたという報告*があります。
一方、菌の増殖を抑制する銀イオンを含む気管チューブを使用した検討では、VAPに対して有効・無効で見解が分かれています。また、最新の技術で、気管チューブ内面をナノ加工してバイオフィルムの定着を防止する試みも報告されますが、明確な臨床での結果は出ていません。そして、どの程度の間隔でチューブ交換すべきか明確になっていません。
さて、個人的な見解ですが、VAPは気管チューブの内面にキノコのように生えた菌によって発生する訳ではありません。VAPの多くは誤嚥経路からの菌の暴露から始まります。①生体の防御機能がこれらの暴露菌を排除しても、気管チューブにバイオフィルムで固着した菌が増殖すれば、VAPに発展します。この場合には適切な間隔でのチューブ定期交換はVAPの発生率を抑制すると推定されます。しかし、②誤嚥経路からの気管・肺への感染が継続し、生体の防御機能がこれらを排除しきれない状況ならば、チューブを定期交換してもVAP発生率に影響しないと推測されます。すなわち、①②いずれかで検証結果も異なるのは当然と考えます。
ただし、VAPが発生した場合には、原因菌を含むバイオフィルムの存在は、抗菌薬治療に抵抗するので、定期的なチューブ交換を考慮すべきと考えます。
私の周辺にいる集中治療医達に尋ねても、気切チューブは1~2週間での交換が多いのですが、3週以上の施設もありました。しかし、いずれの施設も明確な根拠をもって期間を決めていませんでした。(*Crit Care.2012 May 23;16(3):R93.)
抜管前の内視鏡検査に気管支ファイバーを使用できます。耳鼻科用のテスティングファイバーでも可能ですが、分泌物が多い場合には吸引が可能な気管支ファイバーの方が便利だと思います。さらに、抜管前に清潔操作で気管内の分泌物吸引や粘膜の最終確認などを実施した後に、そのファイバーを用いて経鼻的に咽頭喉頭を観察します。このとき画像を見ながら鼻甲介を傷つけて鼻出血させないように注意します。
観察する部位とポイントは、鼻腔側からいくと
①舌根部から咽頭部分が浮腫や組織膨隆で狭小化しているかいないか、出血や分泌物貯留の有無をチェックします
②喉頭・声門周辺を観察し、全体的に変形や圧排がないかを観察しながら、披裂部、喉頭蓋の浮腫・炎症・色調・びらんの有無をチェックします。
③声帯が明瞭に確認できる場合には、チューブによる声帯・膜様部の圧迫や変形を確認できますが、浮腫が強いと確認が困難になります。また、通常では前交連側に認められるチューブとの間隙が小さくなったり、確認できなくなったります。
①②③いずれもチューブが挿入されているので観察は不完全ですが、少しトレーニングを積めば非常に重篤な変化、たとえば抜管後に直ちに気道閉塞を来たすようなものは比較的容易に把握できると思います。
しかしながら、過信は要注意です。見えにくい声帯部分の浮腫や声門下浮腫の存在を常に想定しておくべきです。抜管前に使用した気管支ファイバーを片付けずに待機させておき、抜管後に呼吸が整ったところで、もう一度経鼻的に咽頭喉頭をチェックすることを推奨します。一度通過した鼻甲介ならば素早く安全に通過できるので、患者の負担も少なくて済みます。抜管後には、抜管前のチェック項目に加え、声帯とその運動性(反回神経麻痺など)、声門から声門下の状況など観察できなかった所見を得ることが可能になります。