精巣癌
1. 精巣と精巣腫瘍
精巣(睾丸)は精子と男性ホルモンを作る臓器で、陰嚢の中にあります。精巣に発生した腫瘍を「精巣腫瘍」といいますが、そのほとんど(約95%)は、精子を作り出す細胞(胚細胞)が癌化したものです。そのため、精巣腫瘍は胚細胞腫瘍とも呼ばれます。
進行が速く、転移してから発見されることもあります。しかし、転移がある進行癌の場合でも、化学療法(抗癌剤治療)、手術療法、ときに放射線療法を併用することで、比較的高い治癒率が得られることも、この癌の特徴です。
2. 頻度
20-40歳代の男性が、最も精巣癌を発生しやすい年齢層です。他に1-2歳児に発生するタイプもあります。比較的稀な癌で、発生率は10万人に約1~2人程度といわれています。
3. 原因
精巣癌の原因はよくわかっていません。精巣癌を発生しやすいリスク因子として、家族歴(父親や兄弟が精巣癌にかかった人がいる場合)、停留精巣(乳幼児期に精巣が陰のう内にまで下降していなかった状態)、反対側の精巣に腫瘍があったこと、などが知られています。また、男性不妊症の検査の過程で精巣癌が発見されることもあります。
4. 症状
通常は、精巣の無痛性腫大(痛みを伴わずに大きくなること)で発見されます。痛みがないため、また恥ずかしさのためか、かなり大きくなるまで病院に行かず放置されていることがあります。放置すると転移を生じる可能性が高くなるため危険です。精巣の無痛性腫大に気が付いた時には、早めに泌尿器科を受診して下さい。
他の症状としては、腹部のリンパ節に転移して腹部のしこりや腰痛で発見されることもありますし、腫瘍が出す物質により乳房が腫れたり、肺転移による血痰で見つかることもあります。
5. 診断
精巣癌の診断は、陰嚢の触診、超音波検査、腫瘍マーカー(血液検査)で行います。精巣癌と見分ける必要がある病気として、陰嚢水腫、精巣上体炎、精巣捻転などがあります。ときに精巣癌と区別しにくい場合もあり、診断と治療をかねて手術が必要になる場合があります。
精巣癌であることが分かったら、リンパ節や肺などの他の臓器に転移がないかどうか調べるために、CT検査を実施します。
6. 病期
病期分類としては、下記の日本泌尿器科学会による病期分類がよく用いられています。
Ⅰ期:転移を認めない。
Ⅱ期:横隔膜より下のリンパ節に転移がある
ⅡA期:転移病巣が5cm未満
ⅡB期:転移病巣が5cm以上
Ⅲ期:遠隔転移
ⅢO期:腫瘍マーカーが陽性であるが、転移部位を確認しえない
ⅢA期:横隔膜より上のリンパ節に転移がある
ⅢB期:肺に転移している
ⅢC期:肝臓・脳・骨など他の臓器に転移している
7. 治療
精巣腫瘍と診断した場合、まず、手術で精巣を摘出します。摘出した精巣の病理学的検査(顕微鏡で見て判断する検査)により、どのようなタイプの腫瘍か診断します。精巣癌は、精上皮腫(セミノーマ)とそれ以外(非セミノーマ)の二つのタイプに大別されます。
リンパ節や肺などに転移が認められた場合には、抗癌剤の投与を行います。通常はBEP療法(ブレオマイシン、エトポシド、シスプラチン)が標準治療として行われます。3週間を1コースとして、3-4コースの投与を行います。腫瘍マーカーが正常化した場合、経過観察または転移部位に対する手術療法が選択されます。通常の抗癌剤投与で治癒できない場合には、別の抗癌剤による化学療法が行われますが、根治の可能性は低くなります。
初診時にCT検査で転移が認められなかった場合でも、摘出した精巣の病理学的検査の結果、転移を生じるリスクが非常に高いと判断された場合には、転移を予防するために抗癌剤投与を行うこともあります。
抗癌剤の副作用の一つとして、精巣で精子を作る機能が障害され精子が減少あるいは消失します。治療終了後、数年をかけて精巣機能は回復しますが、妊娠可能な程度に回復しない場合があります。そのため、挙児希望の方には、抗癌剤治療を行う前に凍結精子保存を行って頂きます。
8. 治療後の通院について
初診時に転移が認められない場合でも、その後の経過観察中に約2-3割の方に転移がみられます。そのため、手術後は頻回にCT検査や腫瘍マーカー検査を行い、注意深く経過観察していく必要があります。転移が認められた場合には、抗癌剤治療を行います。
9. 予後
精巣癌は早期から転移することが多いため、昔は多くの患者さんが亡くなられていました。近年では、抗癌剤と手術療法の併用で、転移のある進行癌の場合であっても、かなり高い確率で根治可能となっています。しかし、腫瘍の広がりや組織型によっては、根治できない場合もあり、さらなる治療成績の改善をめざして努力がなされています