渡航前の健康管理

労働福祉事業団の海外勤務健康管理センター (JOHAC):参考になりますよ.渡航前に是非ごらんください.

企業の社員は,自分の会社が海外駐在員の健康に対してどのようなサポートを行っているか確認しておくことも重要です.例えば,法人会員制で,日本人医師による電 話での健康相談のサービス行っている民間法人海外邦人医療基金といった団体もあります.自分の勤めている会社がこのような サービスに加入しているかどうか,調べてみましょう.

渡航前に人間ドックに行くだけじゃだめですよ.まず,自分のカルテ(健康管理ファイル)を作っておくこと. これは非常に大切なことだ.たとえあなたが風邪一つひいたことがなくてもである.滞在先での病気に備えて自分の体,病歴について,カルテを作っておこう. いざというとき,看護婦や医者はその時の症状はいうまでもなく,あなたの過去の病歴や飲んでいる薬,飲酒,たばこ,アレルギー歴など,病気と直接関係のな さそうなことを細々と聞いてくる.それも,同じようなことを,違う人間が入れ替わり立ち代り聞いてくる.そんな時,日本語でさえうまく言えない状況なの に,あなたは落ち着いて話せるわけがないじゃありませんか.

その時に紙一枚用意しておけば,正確で,手間がかからず,何回も同じことを繰り返さずにすむ.実際,医療従事者側としても,外来の限られた時間内 で,言葉がよく通じない相手から話を聞くのは面倒なことなのだ.つい話を聞き出すのが億劫になり,大切な病歴を取り忘れると,診断の回り道やとんでもない 誤診につながりかねない.

いや,病気になった時だけではない,そもそもGP登録の時に,あらかじめ病歴を用意しておけば,大幅に手間が省けるというものだ.参考→GPの登録の際に記入するカー ドの例

かかりつけの医者がいれば,書いてもらうのが一番手っ取り早い.決して遠慮しないで,要求しよう.病を負った人が遠い異国の地で生活するのだから, しかし,特に心当たりのない人も多いだろう.ここは一つ自分の病歴を自分で作ってみては どうだろう.お金の節約にもなるし,自分の病歴を英語で表現する練習ができる.何より,自分の体は自分で守るという,全世界共通の常識が身に付く.重要な 危機管理の演習になるのだ.

何,どうせ素人なんだ.専門的に正確を期する必要はない.長ったらしいものはいらない.要は,生年月日,性別,血液型といった基本的な個人情報と, 既往歴(これまでかかった病気),家族歴(血のつながりのある人々がかかった病気),常用薬剤,アレルギー歴,嗜好品(酒,たばこの類),職業歴,女性の 場合は妊娠出産歴がわかればいい.あなたの言葉で書くことだ.あなた自身の歴史なのだから.病歴作成の要領については,こちらをご 覧下さい.用語については,オ ンラインにある医学辞書を参考にして作ってみましょう.下記の本も参考になります.

「実例による英文診断書・医療書類の書き方」 篠塚 規著 メディカルビュー社

万が一病気になった時,現場の病歴聴取では,性行動(相手は単数か,複数か,不特定多数か, heterosexual/homosexual/bisexualなど),避妊法 (contraception),妊娠 (pregnancy),出産 (delivery)といった,ひどく立ち入ったことまで聞かれることがある.これは,AIDS or HIV (human immunodeficiency virusヒト免疫不全ウイルス)感染をはじめとする性行為感染症 (STD:Sexually transmitted disease)や,子宮外妊娠,卵管炎腹膜炎といった非常に重要な病気を考えなければいけない場合,例えば女性が急に腹痛を起こした時など,上のすべて の項目を根ほり葉ほり聞かれると覚悟してください.

健康診断を受けた人は,そのコピーも添えて持っていくといいでしょう.検診結果の項目は英語だから,特に訳さずとも,そのまま見せればだいたいわか ります.日本語の項目は医学辞書で確認を.

もし,運悪く病気になった時,この自家製カルテのプリントアウトを持参して医者や看護婦に見せれば,目を丸くした相手から,”素晴らしい”の一言が 聞けるだろう.

小さな子供のいる人は母子手帳を忘れずに.子供の予防接種の記録などは みんなここに書いてあるわけですから.予防接種が英語で言えないだって,そんな情けないことは言わないでください.勉強の材料は用意してあ りますから.

英文の予防接種証明についてはたびたび繰り返されるFAQになっています。そこで高槻市の高橋 徳先生が,ホー ムページに文例を掲載してくださっています.かかりつけのお医者さんにお子さんのために予防接種証明書を依頼する時の参考になさってください. (かかりつけのお医者さんに,こんな見本がありますよと教えてあげてください).

お金と暇のある人は,横浜にある労働福祉事業団の海外勤務健 康管理センター(JOHAC)で英訳の健康調査票や人間ドック(結果は英訳してくれる)を受けてもいいだろうが,大切な自分の体の歴史を知って英 語で表現する機会を失うことになる.

なお,持病があって医者に定期的に通院,服薬している時は,やはり医者 の紹介状が必要だ.その場合,常用薬の持ち込みを心配する人がいるが,実際はそれほど大きな問題にはならない.1−2ヶ月分ぐらいの当座の薬は,渡航時に 自分の鞄に入れて持って行ってください.それが一番確実です.ヒースローでは,実は,入国管理でも,税関でも,別に鞄の中身を調べたりしません.持ち物に 関しては,実にあっけなく,あっさりとしています.税関なんか,申請する物のある人はこっち,ない人はあっちと矢印があるだけで,申請不要の方へ行くと, そのまま出口で,拍子抜けします.

それでも,万が一のためと,それから,現地で,担当のGP (General Practitioner)に見せるために,現在の担当医に,簡単な紹介状(診断書:病名と処方が英語で書いてあればそれでよい)を書いてもらうことをお 勧めします.紙切れ一枚で2000-3000円とられますが,自分の体を守るための投資だと思って下さい.もし,かかりつけ医が,”そんなの書いたことな いから困るなあ”と渋ったら,

「日本小児科医会国際部ホームページ」の英 文フォーム集を教えてあげましょう.

さらに,熱心な先生なら,こんな本がありますよと,教えてあげましょう.

「実例による英文診断書・医療書類の書き方」 篠塚 規著 メディカルビュー社

そこまで親切にしても更に渋るようだったら,”あんたみたいに頼りにならない医者をかかりつけ医にしていた私がバカだった”と捨て台詞を残して,自 分で勉強して書いてしまいましょう.そのくらいの覚悟と自主性がないと,異国で自分の体を守ることはできません.

慢性期のコントロールが必要な疾患では,慣れた薬の方がいいでしょうから,日本で使っていた薬を,現地で継続して使うのは悪いことではありません. 以下,あまりおおっぴらには言えないのですが(といってインターネットでこうやって書いてしまっていますが・・)別便で薬を送るときは,衣類,日用品など の品物と一緒に送ってしまって構わないでしょう.別に違法なことをしているわけではないし,税関でも,たとえ開けても隅から隅まで見るわけではないですか ら,目立たない場所に入れておけばいいですよ.

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