英国の予防接種

(このページの情報は2005年時点のもので非常に古いので参考になりません)

英国での予防接種は個別防衛の考えに基づく勧奨接種であり,集団防衛を目的とした強制接種ではない.スケジュールは次の通りである.
 
2カ月  DTP1  ポリオ1  HIB1 
3カ月  DTP2  ポリオ2  HIB2 
4カ月  DTP3  ポリオ3  HIB3 
12-18カ月  MMR 

3-5歳  DT  ポリオ4 
10-14歳  風疹(女子) 

15-18歳  ポリオ5 
D: diphtheria ジフテリア,T: tetanus破傷風,P:pertuisse,whooping cough百日咳,HIB: Haemophilus infuenzae type B インフルエンザ菌,MMR: mumps おたふくかぜ+measles はしか+rubella 風疹

英国と日本の主な相違点は下記である.


1.DTPの3種混合が乳児期の早い時期に行われることである.これは百日咳に対して,最も危険性が高い乳児期に免疫を獲得させることを狙っている.この相違により,渡航時の子供の年齢によっては,特にDTP,ポリオについては,日本で受ける回数よりも接種回数が多くなってしまうこともあるが,その場合には,UK方式に従ってよい.

というのは,日本のメニューが必要最低限になっているのに対して,UK/Ireland方式は念入りメニューだからである.これは日本が手抜きということではなく,日本では半ば強制(本来は希望接種なのですが,日本式の横並びで接種率が高い)なので,必要最小限として税金を効率的に使う意味がある.ポリオは最低2回,3回が標準,あとの追加1回のブースターは念には念を入れてという意味です.DTの4回目も同様の意味です.ポリオもDTもUK/Ireland方式でやりすぎということはない.


2.HIB (Haemophilus influenza type B)は小児の髄膜炎,肺炎,中耳炎の主な原因菌の一つで,特に髄膜炎は命に関わる病気である.


3.MMRワクチン:
1)副反応について
日本で問題になったのは,90年代前半にMMRワクチンによる無菌性髄膜炎の発生(1/1200頻度)です.国際間で比較すると,日本の他,カナダ,西ドイツで使用された占部株について無菌性髄膜炎の発生が問題になりましたが,英国で現在使用されているJeryl-Lynn株は,占部株と違って無菌性髄膜炎は問題になっていません.絶対に起こらないとは神様でないので言えませんが,頻度は占部株に比べてはるかに少ないと考えられます.

2)MMRワクチンの意義について:
はしか(麻疹)は肺炎とする合併症を起こすと結構重症になります.またおたふくかぜ(ムンプス)も,辛い病気ですし,髄膜炎の合併の頻度も高いですし(ワクチンの副反応の頻度1/1200よりも高い),成人のムンプス初感染も膵炎,卵巣炎,睾丸炎など,希ですが,もし起こるとやっかいな合併症があります.風疹についても,女子中学生への風疹ワクチンの接種だけでは先天性風疹症候群(妊娠女性がある特定の時期に風疹にかかると,脳症,難聴などの障害を持った赤ちゃんが産まれる確率が高くなる)を完全には防げません.

3)では,やるべきかどうか:
以上より,無菌性髄膜炎の副反応の頻度が(日本で問題になった株よりも)少ないことと,有効性より,英国でMMRを受けることを”個人的には”お勧めします.

98年3月にMMR接種が炎症性腸疾患や自閉症のリスクになる可能性があるとの報告 (1)が,医学雑誌Lancetに掲載されてから,UK全土で予防接種の現場に混乱が起こりました.この報告にはすぐさま疑問 (2, 3) が提出され,因果関係は立証されていないのですが,”MMR接種をすると自閉症になる”と間違って解釈されて,いまだにMMR接種をためらう保護者がたくさんいます.しかし,MMRワクチンには上述のような重要な意義があります.

学問的に詳しい議論を知りたい方は,http://www.synapse.ne.jp/~shinji/jyajya/wadai/mmr2.htmlをお読み下さい.

1. Wakefield AJ, Murch SH, Linnell AAJ, Casson DM, Malik M, Berelowitz M, et al. Ileal-lymphoid-nodular hyperplasia, non-specific colitis and pervasive developmental disorder in children. Lancet 1998; 351: 637-641

2. Roberts R. MMR vaccination and autism 1998. There is no causal link between MMR vaccine and autism. BMJ 1998;316:1824.

3. Nicoll A, Elliman D, Ross E. MMR vaccination and autism 1998. BMJ 1998;316:715-6.


4.HIB: Haemophilus infuenzae type B:日本ではHIBの予防接種は行われていないが,合衆国では1980年代半ばより使われていて,小児の髄膜炎予防にはっきりした効果が証明されている.英国では1992年より開始された.主な副作用(予防接種の場合,正確には副反応と呼ぶが)は注射部位の発赤,腫れ,発熱といった一般的なもので,その頻度も他のワクチンに比べて少ない安全なワクチンである.DTP三種混合を受けられる子なら,問題ない.ポリオワクチンとの併用も何ら問題ない.なお,インフルエンザ菌というのは,細菌であり,流行性感冒の原因となるインフルエンザウイルスとは全く異なる病原体である.


5.日英の小児の体格差はワクチン接種の場合には問題にならない.というのは,ワクチン接種による免疫反応の強さは,同年代の子供なら体格の大小には関係がないからだ.実際日本でも,同じ小学校1年生ならば,体重30キロを越える子でも,20キロを割るような子でも,身長,体重に全く関係なく,同じ量を注射している.

6.英国には日本脳炎はないので予防接種もない.日本脳炎はこわい病気なので,未接種の子には日本へ帰国したら速やかに日本脳炎の予防注射を受けさせること.

→参考:英国の母子手帳
 

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