この度日本がん転移学会の理事長を拝命しました。本学会はこれまで理事長を置かず、毎年ごとに交代する会長を中心に3年ごとに交代する理事がサポートするという形態で運営されてきました。しかし、人的資金的にひっ迫する癌研究のなかで中期的なビジョンに基づいた運営が必要ではないかという意見がだされ、理事長を置くことになりました。私は一外科医で癌研究では全くの素人ですが、この研究会が発足時から縁の深い大阪にいるということで理事長に選んでいただきました。
日本がん転移学会は1992年に第一回学術集会が開催されます。その前年の日本癌学会の時に末舛恵一先生、小林博先生、鶴尾隆先生、明渡均先生を発起人としてがん転移研究会準備委員会が開催されました。その時に企業にも声をかけて参加してもらうという当時としては斬新なアイデアが採用されました。そして、常任世話人として宝来威先生、渡辺寛先生、明渡均先生をむかえ研究会の開催にこぎつけたということです。本会の永遠のテーマである「転移を制する者は癌を制する」は第一回の研究会の時の末舛先生のあいさつにあったそうです。その後2001年には研究会から学会にかわり第10回日本がん転移学会を曽根三郎先生が開催しておられます。
がんの定義は難しいですが、転移するというのは大きながんの特性の一つです。転移を起こすためには多くのステップと多くの関連分子があり、そのどこかをブロック出来たら、転移は阻止できるのではないか、そして、転移を阻止することができたら、外科や放射線などの局所治療のみでがんは根治できる、そう信じて転移研究は進んできました。多くの転移阻害剤が開発され、治験に至ったものも多くあります。しかし残念ながら現在のところ、臨床応用には至っていません。転移学会の特徴として、臨床、基礎、製薬企業と異なる業種の人が患者さんを治したいという共通の目的で集まることに大きな意義があると感じています。
近年、全ゲノム解析、single cell解析などの手法を通じてがんの本態がますます解明されつつあります。「転移を制する者は癌を制する」夢ではなく現実にするためにこの学会が一助となれば幸いです。
令和5年8月